第一一話 答え合わせ
試験休みが終わり、テスト返しが始まった。二日に分けて行われ、その時は解説の授業だけで、実質授業はあってないようなものだ。俺はほぼ、答えが合ってるので間違っていた場所だけ聞いて、あとはぼーっとしていた。
一日目の最後に物理があって、机に突っ伏して撃沈しいるざくろを横目で見ながら、俺は自分の答案を見直していた。
テスト返しが終わり、俺は久々に部室に行くと、すでに杏、スフィア、真央、夕がいた。ちなみにざくろは物理がほぼ白紙だったので教師に呼ばれている。
「お前ら、テストどうだったんだ?」
俺がいつもテスト終わった後に杏に問いかける問いをみんなに聞いてみた。
「はぁ? そんなの満点に決まってるだろ」と、杏。
「何を言ってるですかマスター 満点ですよ」と、スフィア。
「んー 満点だよー」と、真央。
「俺も満点」と、夕。
それぞれ満点だった。いや、こいつらが頭いいのは知ってるよ。杏やスフィアは納得できるが。
「いつも思うが、真央や夕はなんでこんなに点がいいんだ?」
「それは、別に特に何もやってないよ」
どうやら、もともと天才肌な真央。
「俺は宿題とかきちんとこなすし、ゲームの攻略に比べたらあまりにも簡単だ」
こともなげに言うが、俺はその簡単なテストにてこずってるんですが……
「広兼は武闘派だし、頭が切れるからそれでいいんじゃね?」
杏が微妙なフォロー してきた。
「で、明日の教科とかの答え合わせとかはもうしたのか?」
「まだだけど、どうせ100点だろ」
「でも、杏、数学とか、習ってない公式とか使って数学とか説いたら駄目なんじゃないか?」
「いや、そんなルールはテストにないはずだし、もし、間違いにされたら解説してやる」
まあ、確かにそんなルールはないし、杏のことだから、わざとどうせ大学でも使わないような難しい公式などを用いて説いたんだろうな、先生も採点大変だろうな……
と、教師にご愁傷様と思いながら。俺はみんなで明日の問題の答え合わせをするのだった。
しかしこのときはあそこまでみんな意見が食い違うとは思いもしなかった……
明日帰ってくるのは、主に文系の科目だ、日本史、世界史、古文漢文、国語だ。
日本史や世界史、古文漢文は答えが一つの物ばかりなので良かった。意見が食い違ったのはは国語だ、国語と言うものは答えが一つではないからだ。
小説の問題で『走れメロスの』の一部、メロスが一度家に帰り、そこで妹の結婚を祝いすこし休んで翌朝出発する。そんな場面が出題された。事の起こりは一番最後の問題、この部分の伝えたいことを70字以内で書け。という問題だ。
「ここは、【必死に走ってきたメロスが妹の結婚式を無事祝うことができ、努力は報われるという心暖まる話】じゃないかな?」
俺は先生が○を付けてくれるような模範解答を提示する。
「広兼、違うと思う。ここは【メロスは大好きすぎる妹に会うことができ、久しぶりに会った妹のあまりの可愛さにセリヌンティウスを見捨てようとした話】だろ? やっぱり妹は至高だ」
「いつからメロスは極度のシスコンになったんだ!」
俺は夕の解答に呆れながらつっこんだ。
「まったく、夕は馬鹿だな、正解はこうだ【メロスは結婚式を見届けたらすぐ帰ると言いながらも一日泊り、休んでしまった。約束を破る最低な男の話】だ」
「お前は鬼か! 人間が休まずに走り続けるわけないだろ」
杏はさも当然のような顔をして言う。
「だが、事実だろう?」
「確かにそうだが……」
あれ? こんな人間の汚い部分を見せる話だったかな『走れメロス』って。
「マスターもサブマスターも甘いです。本当は【およそ秒速2mくらいで走ったメロスは妹の結婚式のために裸で走ってきた変態の話】ですよ」
「いや、確かに裸だがそこは関係ないし、およそ2mって何だよ!」
「乙女の勘です」
スフィアが至極真面目に答える。いやいや、真面目な顔で言っても騙されないぞ。
「違うよ、みんなー 【メロスが結婚式を無事に祝うことができたとても感動できる話】だよー」
「まあ、事実は事実だが、それじゃあ、事実を書いただけで駄目だと思うぞ」
「えー それ以外にどんな解答があるの、長々と書くのめんどくさいー」
「うん……真央はそれでいいや」
真央らしく簡潔ないいかなとちょっと思った。
しかし、5人が5人とも意見が食い違うとは思いもしなかった。
「で、正解はどれなんだ?」
「サブマスターのひねくれた解答が答えなわけないです。私ですよ」
スフィアがさらりとひどいことを言うが、お前も人のこと言えないからな。
「二人ともー 簡潔に答えを書くのが一番だよー」
「真央のは30字使ってないだろ、文章問題はなるべく埋めないと」
いや、埋めればいいって問題じゃないだろ、夕。
「いや、普通に考えて俺だから」
「あんな模範的な解答、面白くもなんともないだろう!」
「おもしろければいいってもんじゃなねぇよ!」
俺に反論する杏に必死でつっこむ。というか、模範解答わかるんならそれ書けよ。
「しかたない、ざくろに聞いて決着をつけよう」
まあ、ここにいないし、それを聞いてみるのもいいかもな。
そのときドアが、がらりと開き、ざくろが入ってきた。
「みんな、やっほー……はぁ……」
ざくろは教師にこってり絞られたのか、いつもの元気がなかった。
そこにスフィアが問いかける。
「ざくろさん、国語の一番最後の問題、どう答えました?」
「え? わからなかったから空白で出したけど」
その答えで、俺を含めてみんなため息をつく。
「俺の解答に隙はない」
俺がそういうと。
「勝負は明日だ」と夕。
「もちろんだ、残念だが負ける気はない!」杏も同調する。
「何があっても恨みっこなしです」スフィアも。
「まあ、どっちでもいいけど、私があってる気がするよー」真央も気になるようだ。
みんな、明日の答えで決着を着けることで収まったのだった。
「え? え? みんな何を言ってるの?」
スフィアはざくろの肩に手を置き。
「世の中には知らない方がいいこともあるんだよ」
と、優しく微笑んだ。ざくろは不思議そうな顔をしていた。
次の日。
広兼は激怒した。
国語のテストは全員揃いも揃って×をもらった。なぜ俺まで、と思っていると、よくよく見ると『祝』が『呪』になっており、【必死に走ってきたメロスが妹の結婚式を無事呪うことができ、努力は報われるという心暖まる話】と、メロスがとても陰険な性格になってしまっていたのである。俺は83点で他のみんなはそれ以外も記述の問題があったが全問正解で95点だった。ざくろはというと、国語は55点と赤点をギリギリ回避したのであった。




