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第十話 テレポート体験

試験休み二日目、約束通り俺は学園の前に向かう。

 時間、5分前に着いて、すでに夕とざくろがいた。

「おはよう」

「おっす」「おはよ!」

 夕はカジュアルな格好をしており、ざくろは黄色い半そでのTシャツにホットパンツ、まだ肌寒い季節なのによくそんな恰好ができるもんだ。

「二人とも何時に来たんだ?」

「俺はざくろちゃんの5分前に来たよ」

「私も夕さんの5分前に来ました」

「なんでそこで嘘をつく必要がある……」

 俺はざくろにつっこむ。

「なんで、スフィアちゃんは体操服にブルマなの?」

 夕の問いかけに

「ああ、これは、マスターの趣味です」

「お前の趣味な」

 有らぬ疑いをかけられそうだったので訂正しておく。

「で、真央は?」

「あいつはいつも通りだろ」

「だろうな、まだ10時だもんな」

 俺と夕はため息をつく。

「え、え? 真央さんどうしたんですか?」

 わけがわからないという顔をしたざくろに。

「寝坊だよ」

スフィアが、おそらく事実であろうことを告げた。

 夕はもっと昔からだろうが、俺とスフィアはあいつと、もう二年の付き合いだから分かる。あいつは待ち合わせに必ずと言っていいほど遅刻してくる。その理由は二つ、寝坊か、食事を優先させたか、のどっちかだ。だから真央との約束は食事の前後はもちろん、朝10時以前は間違いなく遅れる。朝の10時の場合は間に合うときと遅れるときの半々である。

「待っててもしょうがないし、真央の家に迎えに行こう」

 夕がそう切り出したので、俺達は真央の家に向かうことにする。

 俺の家と学園のちょうど真ん中あたりを東に曲がった辺りにある。ちょっと立派なお屋敷の家だ。夕から聞いた話だが真央はこの屋敷の老夫婦に孤児院から善意で引き取られた子供らしい。

 俺は真央の家のチャイムを鳴らした。すると、なかから優しそうなおばあさんが出てきて。

「おや、広兼ちゃんに夕ちゃんと丸ちゃんとえーとそっちの子は誰じゃったかの?」

「はじめまして! 吉峰ざくろです!」

 おばあちゃんに尋ねられたざくろは元気いっぱい自己紹介をする。

「おやおや、元気がいいねぇ、真央はまだ寝とるよ。3人で起こすかい?」

「でも、女の子の部屋に勝手に入るのは」

 俺が戸惑っていると。

「マスター 私が行ってきましょう」

「そうか、頼む」

 スフィアがそう行って。おばあちゃんと一緒に部屋に入る。家が揺れる様な大きな音がしたあと、真央の笑い声と喘ぎ声が混じった声が聞こえたと思ったらピタリと静まる。5分後、やたらと疲れた顔をした真央と満足そうなスフィアが出てきた。真央の服装はヒラヒラのかわいらしい服とスカートだった。

「真央……大丈夫か?」

「スフィアっち、恐ろしい子」

 真央はそう言ったきり何も言わなかった。何をされたのかは深く追及をしないでおこう。


 面子が揃ったので、目的の杏の家に向かうことになる。杏の住んでる場所は俺の家から10分ほど歩いた道にある。

「杏っちの家に行くのははじめてだねー」

 もう復活したのか真央はいつものまったりとした声でいう。

「俺も杏ちゃんの家は初めてだな」

 夕も同じようだ。

二人に俺たちの事情を話したのは最近だからしょうがない。

杏の住んでいるアパートに着いた。結構立派なアパートである。そこの二階の左から二番目が杏が借りている部屋だ。

俺はノックをする。すると、中から。『入っていいぞ』と言う声が聞こえたので入る。そこには。

 至る所に機械で埋め尽くされており所々にボルトなどコードなどが転がっており、壁には培養器や画面が、机や台所には得体のしれない機械が置いてある。一応ベッドの上だけはきれいだった。

 杏は椅子に座り、パソコンをいじっている。服はキャミソールに白衣といった、変な格好である。

 俺は見慣れているので何も言わなかったが、夕と真央とざくろは唖然としている。

「すげぇ、俺、発明家の家、初めて見たけどこんなんなんだな」

 いや、単にあいつが飽きた機械をそのままにしてるだけだと思う。

「杏っちはマッドサイエンティストみたいだ」

 まあその通りなんだけどな。

「これが女子高生の部屋だと思えません」

 ざくろ、お前には言われたくないと思うぞ。

「お前ら、文句あるなら帰れ」

 杏は手にした機会を軽く机に置いて、俺達の方向を見る。

「いや、お前もちょっとは片付けろよ」

 俺が杏にいつも言ってることを言う。

「さて、今日ここに来てもらったのはこんな発明をしたからだ」

 俺の言葉を軽くスル― しやがった。

 杏は目の前の物体を指さす。

椅子にいろんなコードが取り付けられており、それが二つの野球帽子のような物につながっている装置だ。

「なんなんだ、これ?」

俺が訊ねると。

「ふふふ、これは椅子に座って帽子をかぶった奴の力と、もう一人の帽子を被った奴の力を交換して、使用することができると言う装置だ。どうだ、すごいだろ!」

 確かにとてもすごい発明だが。

「これの使い道って、日常であるか?」

「ない!」

 こいつ、言い切りやがった!

 俺はため息をつきながら言った。

「こんなのに、RCONの研究費使うなよ」

「甘いな広兼、偉大な発明と言うものは常に遊び心から生まれるのだよ」

 昔から同じことを言ってるので、もう何を言っても無駄っぽい。

「多分、これは私が座ったらいいんですよね?」

 ざくろが楽しそうに言ってくる。

「うむ、そうだ、みんなにざくろの力の凄さを知ってもらうのだ!」

「イエーイ!」

 杏とざくろは、のりのりだった。

「さて、最初は誰がいく?」

「俺、やってみたい!」

 夕が勢いよく手をあげる。

「その意気やよし、ざくろ、夕、さあ、試してみるのだ!」

 杏は目をキラキラ輝かしながら、二人に使用を促す。

 ざくろが椅子に座り帽子を被り、夕も、もう片方の帽子を被る。

 そして、杏が椅子の後ろに繋いである。パソコンで操作すると。

 夕の体がビクンとはねる。そして、夕が足元に落ちていたボルトを拾うとそれを隅にあるごみ箱に瞬間移動させる。

「すごいな、これ。飛べ! って念じたら、ちゃんと指定された場所に飛んだ。

「まあ、杏の発明は方向性が間違ってるけど、すごいのばっかだからな」

「ああ、杏ちゃんはやっぱすげぇよ」

 いつも周りから褒められても喜ばない杏だが、今日は顔をほころばせていた。友達に褒められるのはやっぱりうれしいのだろう。

 次の瞬間、二つの白いショーツパンツ黒のブラジルの人が吐きそうなパンツ、所謂タンガ、が俺の目の前に落ちた。

「ぐへへ、一度やってみたかったことなんだ、広兼、誰のパンツ――ぐはっ」

 広兼は真央に思いっきり殴られて壁にぶち当たる、真央は急いで白い方のパンツを持ってカーテンに隠れる。

「夕の変態―」

 戻ってきた真央はおっとりとした口調だが怒りを隠してる声が逆に怖かった。

「へっ、俺は夢のために行動したまでだ。それのためなら殴られても……」

 ガクッっと音を立てて壁際で崩れ去った。あいつは馬鹿か?

 俺の前にはもう一つパンツが残っていた。

「これ、誰のだ? やけに派手派手しいが」

「マスター それ私のパンツ……こっち見ないで、はずかしい、でも……いいかも」

 俺の隣にはもう一人変態がいた。

「いいからスフィア、早く履け」

「でも……これはこれで」

「早く!」

 スフィアはカーテンに隠れしぶしぶ履きだした。

「次、広兼、やってみるか?」

「お、おう」

 杏が何事もなかったかのように次の人を指名する。やすらかに気絶している夕の頭から帽子を取り、被る。しばらく杏がかちゃかちゃとキーボードを触ったと思うと、俺の体に電流が流れたような感覚がおそう。そして、その感覚のまま、なるべく遠くのと思い、台所にあるコップを俺の手の上に乗せるイメージをする。すると、イメージ通りに手の上にコップが落ちてくる。

「やばい、なんだこれ、すごすぎる」

「まあ、あたしの発明だからな」

「能力は私のですけどね」

 満足そうな杏の声にざくろが補足する。

 俺はそのあとコップを元の場所に戻し、帽子を取り外した。

「次は真央かな?」

 俺は真央に帽子を渡すと、意外なことに受け取らず

「私はやめとくよー なんか、めんどくさいやー」

 真央は能力を共有する装置を被るのを断る。気分屋の真央のことだやりたいことも特にないのだろう。

「そうか、ならみんなやったな」

「マスター 私がまだです」

「……お前にこれを渡すのは危険な気がする」

「それは差別です。マスター」

「どうせ、お前は自分のパンツをもっかい脱いで、勝手に恥ずかしがるんだろ?」

「なぜそれを……!」

「はあ……」

 こうして、ざくろの能力を体験するという遊びは終わる。そのあと、夕を叩き起こし、みんなで神経衰弱をする。これは正直スフィアが強すぎるからいつもやらないのだが、たまにはいいかなと思いやってみたのであった。結果は夕がドベでスフィアがダントツの一位、俺はと言うとドベから二番目、ブービーだった。


 みんなを見送って、スフィアと家に帰る途中。

「スフィア、今日の装置でもう気づいていると思うけど、杏の家に戻るぞ」

「了解です。マスター」

 俺たちは今来た道を引き換えし、杏の家に戻りノックする。今回は鍵が閉まっている。

「やはり、お前は相棒だよ、入ってくれ」

 杏は嬉しそうな笑顔をすると。俺とスフィアを招き入れた。

「今回の装置、能力を共有するのはおまけで、本当はざくろの力を計ったんだろ?」

「ご名答だ、広兼。そう、もし今後、暴走したざくろを止めるためにどれくらいの力のEES(ESP Equipment Seal)が必要なのか計りたかったのだが、予想外の結果だ」

 EESとは超能力を抑える装置だ。

 そういって、俺にパソコンのモニター を見せる。

そこには、1から10のメモリが書いてあるグラフがあり、下に、念話能力テレパシー透視能力クレヤボヤンスなどの名称が書いてある。そして、瞬間移動能力と物体移動能力のグラフの部分は振り切れていた。

「ば、馬鹿な、世界基準の超能力測定結果を振り切るなんて」

 俺は愕然としていた。

「あいつは、この世界にいる超能力者でもトップクラスの能力を持っている。それも二つもだ」

 杏も真剣な顔で言った。

「ざくろさんはまだ超能力の集団に入ってないのが吉でしたね」

「そうだな、あいつがどこかに所属して訓練を受けていたとしたら、あのとき俺達は本気でかからないとまずかったな」

 スフィアと俺はあのときの対応の仕方がとても危険だったことを今になってわかり身震いした。

「これからもあいつはあたし達の友達だ。それに変わりはない」

「もちろんだ、あいつは普通の日常を望んでる。それを壊す奴は俺たちが許さない」

「マスター の意見に同意です。ざくろさんは仲間です」

 俺達、3人はざくろという一人の友達の平和を守る決意をするのであった。

 そのあと、杏は強力なEESを作ると言って、集中しだしたので、俺とスフィアは家を後にするのであった。


 このとき、本当に日常を守るべきだったのは、ざくろではなく別の人物だったということに、3人は気付いていなかった。


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