第九話 休日
私立水鳥学園はテストが終わると二日間の試験休みが設けられる。
俺たちはざくろ暴走事件のあと、試験休みの二日目に遊ぼうという約束をした。待ち合わせは杏の家だが、ざくろと真央と夕は場所を知らないので、俺が案内するために待ち合わせを九時に学園の前にした。
今日は試験休みの一日目、スフィアは『乙女の秘密です』とか言って、どっか行ったし、愛は吹奏楽の練習で家には居なかった。要するに俺一人だ。
「ふむ、いい機会だ」
俺は台所に行き、道具を用意する。そして、焼きプリンを作り始めるのであった。
……………………………………気が付いたら5種類もの違う味付けの焼きプリンが出来上がっていた。2つは満足の行く出来だと自負できる。あとで妹とスフィアに味見してもらおう。
気が付いたら、夕方。
夕食の準備をしなければいけない。冷蔵庫に鶏肉があったので、唐揚げと野菜サラダを作った。
ちょうど出来上がったころにスフィアと愛が帰ってきた。
「いい匂いがすると思ったら、うちの家だったのか、この匂いは唐揚げかな?」
「多分そうでしょう、料理と音楽にはうるさいマスターのことです。きっと今日もおいしい料理が食べれますね」
スフィアと愛が喉をゴクリと鳴らす。
俺達の家族は母が他界、父がRCON本部にいるため、家事などは俺とスフィアと愛の3人で当番制となっている。
「スフィアと愛の料理もおいしいのだが、本と寸分違わず味付けをするのでオリジナリティがなく、逆に愛は勘で作るので、同じ料理でも味がばらばらである。まったく、料理に失礼だ」
「兄さん……思ってることが声に出てる」
「マスター コメントが辛口です」
席に着いた二人は、ジト目を向けてくる。
「す、すまん、つい声が出てた」
「まあ、兄さんの料理が僕と姉さんの料理よりおいしいのは事実だからね」
愛もしぶしぶと納得して、食べ始めた。
「むぅ、やっぱりおいしい、僕もこれくらいの味が作りたい」
「ははは、いろいろ試行錯誤した料理だからな、すぐに真似されちゃ敵わない」
愛は野菜サラダを食べながらつぶやく。
「やはり、料理の本と同じ分量では出せない味がします」
「スフィアは自分で何回か作ってるうちに、適量を覚えるべきだな」
「了解です。マスター」
スフィアうなづく、でも結局、試行錯誤して、原点に戻って分量通りが一番おいしいと結論付けるんだよな、こいつ。
そして、いつもこそこそ作っていた。焼きプリンをデザートとして始めて出すことにした。
「これが今日の俺の最高傑作の焼きプリン二種類だ」
俺はそういうと、夕焼きプリンを夕ご飯を食べ終わった二人の前に差し出す。見た目は同じだが、スフィアの方はカラメルが絶妙な味で、愛に出した方はプリンの舌触りがとてもなめらかなものである。スフィアは部室で食べたことあるが愛には初めてだす焼きプリンである。おいしさに恐れおののくがいい!
「なに……これ、市販の焼きプリンと全然違う。兄さんこんなの作ってたんだ」
「そうだろうそうだろう」
愛の焼きプリンが口の中にどんどん消えていく。その様子に俺は満足する。
「マスター これは前回食べた焼きプリンと比べて、カラメルソースがおいしいですね」
「スフィアの方はカラメルソースが渾身の出来だ」
スフィアもカラメルソースを褒めた。しかしそのあと。
「でも、やはりこの前、部室で食べた焼きプリンと比べると焼いている部分がほんのすこし苦い気がします」
「そこに気付くとはやはりスフィアはすごいな」
そうなのだ、今回のプリンは全体的に焼き加減を少々ミスったのだ。
「部室に置いていた4つのプリンはこの一か月の中では自信作の4つだったからな、焼きプリンがおいしいのはできて三日くらいだからちょうど運も良かったんだ」
「マスター は焼きプリンのこだわりはすごいですね」
「うんうん、僕も兄さんが何か作ってるのは知ってたけど、ここまでだったとは思わなかったよ、音楽以外にもこんな趣味があったなんて」
スフィアと愛は改めて感心するのであった。
そのあと、焼きプリンを食べながら愛が言ってきた。
「兄さんと姉さん、頼みがあるんだけど、今度のコンクールの時にやる曲を聴いてほしいんだけど、いいかな?」
愛がすこし恥ずかしそうに言ってきた。愛は水鳥学園の吹奏楽部に所属している。愛の吹く楽器はクラリネットだ、そしてファーストのトップを務めている、水鳥学園は中学と高校でバンドを分けており、どちらも結構な強豪校なのでレギュラー 争いも厳しい、だからたまにこうして俺とスフィアに聞いてもらうのだ。愛曰く、素人の意見でも参考にはなるらしい。
「じゃあ準備するからちょっと待って」
愛は焼きプリンを口に詰め込むと、急いで自分の部屋に入ってチューニングを始めた。10分くらいしたら降りてきた。
「それでは不肖、鷹目愛の演奏をお聞きください」
うやうやしく礼をすると。曲を吹き始めた。
曲は吹奏楽のための協奏的序曲という曲の一部だった。
この曲は最初金管楽器のファンファーレのような曲調から始まり、一旦静かになり、フルートのソロで静かにかつ細やかに始まる。そして段々いろいろな楽器が合わさって、盛り上がりが最高潮に達する前に、スネアドラムと一緒に木管もクレッシェンドが掛かり、最高潮の16分のリズムが非常に心に残る曲である。そのあとにサックスのソロがあり、最後は金管楽器のファンファーレで占める。そんな感じの曲だ。文章で説明しても正直伝わりにくいので一度聞いてみることをおすすめする。って、俺は誰に説明してるんだ?
今回、愛はその木管楽器のフルートのソロのあとに重ねるように吹くクラリネットのソロの部分を吹いている。
やがて、その部分を吹くともう一度、俺とスフィアに礼をした。
「兄さん、姉さん。どうだった?」
「まだ練習中なのかもしれないけど、16分音符が待ちきれてない感じがしたな」
「私はやはり、音が高くなった時の音程が気になりました」
それぞれ感想を言う。
「なるほど、ふむふむ。分かった。参考になったよ、ありがとう!」
そういうと、愛は自分の部屋に入って。練習を始めるのだった。
「正直、俺は驚いているんだけど、中三であそこまで楽器って吹けるもんなのかな」
「努力のたまものでしょう」
俺とスフィアは楽器を吹けない、何で詳しいのかと言うと。RCONの訓練所にいるときに、たまたま街の祭りで吹奏楽の行進をしていたので、そこで俺が聞きほれてしまい、それ以来、いろんな吹奏楽のCDを聴いたり演奏会を聴きに行ったりしたからである、杏は興味のないことにはまったくついてこないので、スフィアをお供に聞いて回っていたから、スフィアもすこし詳しくなったのである。
こうして、愛のミニコンサートを聴いた俺は部屋に入って、今日の焼きプリンの味をノートに書き、改善点を書き出して次のチャレンジに向けて決意を新たにしたときにはすでに11時を回っていたので。すぐに寝た。
夢には昔、スフィアと一緒に聴いたことのある。思い出深い曲、スペイン狂詩曲が出てきたのであった。




