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午後8時30分
警察が集まりつつある時に、シルキーとユーリはジーニアス警部に美術館の入り口で会った。
ジーニアス警部は、体格が整っていて、活気も溢れていて、三十代後半に見えた。
「もう来てたのか」
「ええ」
ユーリが答えた。次にシルキーが聞いた。
「警備はどうなってるんです?」
「入り口と裏口、あと、ネックレスがある部屋の入り口とそのまわりに配備している」
「他は?」
「いや、それだけだが、何かあったのか?」
「いいえ」
シルキーは笑みを浮かべて言った。
「それじゃあ、私たちは失礼しますね、警部」
「ああ」
二人は美術館の中に入ろうとしたが、ジーニアス警部は、ユーリを呼んだ。
「ユーリ。ちょっといいか?」
「いいですよ」
シルキーはユーリの目を見て、ユーリは頷いた。
『先に行ってる』ということだ。
「何ですか?」
「お前たち、何か隠してないか?」
「何か知ってても、大切な情報は教えませんよ。警部だってそうじゃないですか。警察は重要なことは言ってくれないですから」
「それはそうだろ・・・・・・」
「だから、探偵も、同じなんですよ。では、私も失礼しますね」
軽く会釈をして、ユーリも美術館の中へ入っていった。
ジーニアス警部は渋々、あぁと言って、ユーリを見送った。
そして、『シルキーある所にユーリあり』だとジーニアス警部は思った。
午後8時50分
美術館の屋上に双眼鏡で下を見ている人影があった。
しかし、誰もその影には気づかず、今か今かと怪盗を待っていた。
だが、その人影こそが、怪盗ミルティスだったのだ。
「こりゃー、マスコミさんがいっぱいだわ。まっ、俺がいろんな所に予告状を送ったからな」
彼は、時計を見た。
「午後8時50分。そろそろ行きますか」
彼は、左脇にはさんでいた制帽を深くかぶった。
彼は美術館に客として入り、屋上に忍び込んでいた。途中で、手頃な警備員を掴まえて、気絶させ、服を奪い取り、現在に至っている。その警備員はというと、トイレの座椅子に座り、スヤスヤと眠っていた。
「行動開始」
彼は屋上から、ネックレスのある部屋へ向かった。階段を下りていると、ちょうど、ジーニアス警部と鉢合わせした。
(やはり、警部も来ていたか)
彼は冷静だった。
「ちょっと、君」
「はい」
「今、ネックレスのまわりの警備を強化している。君もそっちにまわってくれ」
「分かりました」
警部は彼がまわりを巡回している警備員と思っているようだ。
彼は言われた通りにそこへ向かった。
(警部通過)
彼はそれから、何人か会ったが、誰にも気に留められずに部屋に到着したので、少し面白くないような顔をしていた。
そして、彼はネックレスのある側で警備している振りをした。
警備員や警察関係の者がいろんな場所に大勢いるため、誰がいなくなったとか、人物が変わっているなどという細かいことを気にする者はいない。ということは、忍び込むには好都合というわけだ。だが、誰も気づかないというのもスリルがなく、少し寂しい気がしてしまうのが、怪盗というものだ。
午後8時59分
ネックレスがある部屋の中にいる者が叫んだ。
「あと1分だ!気を抜くなよ!」
「はっっ!!」
全員が叫んだ。そして、彼も。楽しんでいるようだ。
(そういえば、警部がいるということは、あいつらもいるんだろうなー。こいつは楽しめそうだ。9時になれば、電気が消えるように仕掛けをしている。その隙に盗む予定だったんだが、そうもいかないだろうな。あの探偵さんたちは)
彼は軽く笑った。まわりに気付かれないように。
部屋には時計があり、彼はそれを見てカウントをした。
(3、2、1、GO!)
――やはり、電気は消えなかった。
まわりは、ちょうど予告の時間、午後9時になったため、緊張感が漂っていた。
(仕方がないか。初歩的なやり方で盗ませてもらうよ)
彼は懐から、コインぐらいの大きさの物を二つ出し、一つは床へ、もう一つは天井に向かって投げた。
すると、そこから勢いよく煙幕が吹き出した。途端に、まわりは煙に包まれた。騒ぎその場所から動く者や冷静にその場を動かない者、いろんな者がいる中、彼はすべての人を避け、ネックレスの場所へと辿り着いた。
赤外線も付けてないとは不用心だな。それほど、自信があったのか?俺もなめられたものだ。
彼は軽くネックレスを盗み出した。
しかし、彼はすぐにそこを立ち去らなかった。