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 青いキャンバスに白い絵の具で書いたような雲が浮かびあがる月夜に、一つの人影があった。

 その人影は、深緑色に見える草原に立っていた。深くフードをかぶり、一枚の布で体を全て包んでいた。ただ、見えるのは鼻と口だけ。

「あれから、一年か……」

 少年は、一言だけ発し、不敵な笑みを浮かべた。

 少年は何かを思い返していた。 この不敵な笑みが、唯一、少年と分かる部分だった。


  午後2時35分


「あっ、すみません!」

 彼女は、ぶつかった人に頭を下げて、すぐに謝った。相手の顔を軽く見て、すぐさま、前を向き、その場から走り去った。

 彼女の名前は、シルキー・ユーロ。淡い茶色の髪のセミショートで、活発であるのが一目で分かる笑顔が彼女の特徴であった。

 彼女は、この町、デルキスで、探偵をしている。探偵といっても、人探しや浮気調査をするわけではなく、警察関係の仕事に関わっている。ときどき、警察の依頼で知恵を貸すこともある。

(さっき、ぶつかった人――どこかで……)

 シルキーは、考えていた。さっき、ぶつかった人物に見覚えがあるような気がしたからだ。

 考えたまま、シルキーは探偵事務所に着いた。慣れている道だからこそ考えながらでも目的地に着けるというのは、人間は便利だとシルキーは思った。

 シルキーのいる探偵事務所は、二階にあり、一階はコンビニで、ここは便利な場所だった。

 シルキーは階段を駆け登り、勢いよくドアを開けた。

 部屋の中には、シルキーともう一人の机と椅子があり、ドアの近くに依頼人とシルキーたちが座るソファーとテーブルがあった。とてもシンプルな部屋で、隣に資料室と書いている部屋があった。

「ユーリ、ちょっと、怪盗3623の資料出してくれない?」

「いきなりどうしたの?前は、諦めた、なんて弱気を言ってたくせに、その怪盗の資料を出せなんて」

「どうもこうもないよ。ちょっと、気になってね」

「そう。なら、少し待ってて」

 ユーリは、隣の資料室に入った。

 ユーリは、シルキーに深くは聞かなかった。それは、のちに、自分に話したいときに話してくれると思ったからだ。

 ユーリとシルキーは、そういう仲だった。

 ユーリ・カイラは、シルキーの助手をしている。黒髪のセミロング。一見、おとなしそうに見えるユーリだが、仕事となると自ら進んでやるので、シルキーがユーリを頼ることもある。

 ユーリは大量の資料の中から、ご指名の物を見つけて部屋を出た。

「シルキー。はい」

 ユーリは、シルキーにそう言うと資料を手渡した。

 資料といっても、黒地のファイルに『怪盗3623』とタイトルがついていて、中には、切り抜きの新聞紙やら、集めた情報の紙がごった煮のように詰め込まれていた。

 ユーリは整頓上手だが、シルキーは苦手だった。

 シルキーはその資料を受け取ると、早速、中を見た。

『怪盗3623、通称、怪盗ミルティス。特に、アクセサリー類(宝石付き)を主として盗んでいる怪盗。性別は男。姿を隠さないため、顔が知れ渡っているにもかかわらず、捕まったことがない。盗み方は獲物がある場所に予告状を出し、その時間通りに盗み出すというやり方。この半年間、姿を暗ましている。』

 そう書いてあった。

 写真もあり、ぼやけて見にくいのだが、シルキーはその写真が気になった。

 すると、突然電話がなった。

 これがこの話の始まりだった。


 午後2時55分


「シルキー、ジーニアス警部から、電話よ」

「ジーニアス警部?ちょっと、待っててって言っといて」

「OK」

 シルキーはファイルを閉じて、電話を受け取った。

「もしもし」

『シルキーか?』

「はい。どうしたんですか?」

『用件の前にFAX送るから見てくれ』

「ユーリ、FAX来てない?」

 シルキーは受話器を伏せて、ユーリに訊いた。

「今、来たわ」

 シルキーはユーリからFAXを受け取った。白紙に長方形のカードがコピーしてあった。カードにはこう書いてあった。

【今宵、午後9時にて、デルキス美術館にある赤い涙の結晶をいただきにまいります。怪盗ミルティス】

「予告状ですね」

『あー。それで、お前たちも来るかと思って電話したんだが』

「もちろんですよ。――あと、今回、別行動とっていいですか?」

『かまわんが、警察を信用してないみたいだな』

「そういうわけではないんですけどね。ちょっと、気になって」

『まーいいが、そういや、捕まえるの諦めた、とか言ってなかったか?』

「ユーリと同じこと言うんですね。それはそれ、今は今ですよ。それじゃ、現場で」

『お、おう』

 ジーニアス警部は曖昧に答えて、電話を切った。

 そして、シルキーも受話器を置いた.。

「これって、予告状?」

 ユーリが聞いた。

「当たり。それより、ユーリ。赤い涙の結晶って知ってる?」

「知ってるわよ。今日、チラシ入ってたし」

「で?」

「赤い涙の結晶っていうのは、ルビーを涙の形に削って、ネックレスにした物でね、デルキス美術館に贈呈されたんですって。昨日から、展示してるみたいよ」

「それを午後9時に盗むってわけね」

「そういうことね」

 ユーリはシルキーの言葉を待った。

「ユーリ」

「何?」

「今日、ここに来る前に人にぶつかっちゃって、その人が、その怪盗に似てたの。分からないけどね」

「それが、本物だったら、美術館の下見に行くかもね。ということは、私たちも?」

 行くのよね、と言いたいのである。

「そういうこと。話が分かる人で助かるわ」

「だてにあなたと相棒してないってことよ」

 ユーリはシルキーに笑顔で言った。

 デルキス美術館は探偵事務所から、自転車で二十分ぐらいのところにあって、国道沿いの有名な美術館だ。敷地も広く、お金を払えば誰もが気軽に入ることが出来た。

 そして、二人は美術館に行き、客として入り、中を見てまわった。

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