彼の名前、あたしの名前
この前まで春のポカポカ陽気だったのが、今では夏の暑い陽が射している。
あれからあたしと洋輔さんとは全くと言っていいほど進展が無い。
ハァ。いつになったら近付ける日が来るんだろう??
夏休み間近の教室の中は、ビタミンカラーみたいな派手な原色のカラフルな色で彩ったように、クラス全員が浮かれている。約1名以外は。
あたしは机に伏せてぼーっと窓の外を眺めていた。
「藍梨〜。何つまんなそうな顔してんの〜?」
結希だ。
「だってぇー。あたしはみんなみたいにダーリンがいる訳じゃないし。夏休みになっても宿題に追われるだけの日々だもん」
「そんな悲しい事言うなよー。いっそのこと、例の彼に話し掛けちゃえばいいじゃん?」
「そんなサラッと言わないで」
あたしだって何回もそうしようとしたけど、寸前で勇気が無くなるんです!
「あんたはこういう事になるとホント消極的っていうか、マイナス思考っていうか…」
結希が呆れたという顔であたしに言う。
そんな事言われてもなぁ。
最近洋輔さんを見かけないせいか、あたしはパワー不足で、目があらぬ方向を向いているのが自分でもよく分かる。
恋の病。重症です‥。
今日もいないんだろうな。
放課後、教室の掃除を終え、駅に行った。
ん?…あっ!
いた!あの人が!!喜びで飛び上がりそうだった。
今日こそ話し掛けてみよう。このまま何も進まないのは良くないよね!
「あの〜…」
「はい?あっ。また会ったね!あの時の子でしょ?」
「はい!」
嬉しい!覚えててくれたんだ。
「どうかしたの?」
そうだ。何も考えないまま勢いで話し掛けちゃったよιι
「あ、あの時、指輪拾ってくれてありがとうございました!」
何とか理由を見つけてそう言うと、
「どう致しまして♪そんな大したことしてないのに」って笑ってくれた。
その笑顔、素敵すぎます!
「名前、なんて言うの?」
「水野藍梨です!藍色の‘藍’に、山梨の‘梨’で藍梨!」
「へぇ〜。可愛い名前だね☆俺は、相川洋輔って言うんだ。」
相川って名字なんだぁ!名前までかっこ良く思える。
「あ。バス来たね」
洋輔さんはバスに乗ると、自分の席の前を指して
「ここ座る?」
と言ってくれた。
あたしは勿論そこに座った。
バスの中で、悠さんがあたしの友達の彼氏だってことや、洋輔さんは大学生ってこと、悠さんと洋輔さんは中学の頃からの友達ってこと、いろんな話をした。
楽しい時間はすぐに過ぎてしまう。洋輔さんが降りるバス停に着いて、
「バイバイ」
と手を振ってくれた。
あたしも
「さようなら☆」
と手を振った。
思い切って話し掛けて良かった〜☆☆☆
自分で自分を誉めてあげたい。中学の時から男の人になんて自分から話し掛けたことなんて無かったから。
家に帰ってからもドキドキしっぱなしで、その夜はなかなか眠れなかった。