あなたに会いたいside香苗
side香苗
なんでこんなにも恋しいのか。
夢であれだけ濃密な日々を過ごしていたのに夢が絶えてしまえばただの日常。香苗が蜜月の夢を見なくなって一年が経とうとしていた。
「香苗ちゃん。大丈夫?」
隣席の真雪が香苗を案じ、その憔悴ぶりに眉を潜めた。
「大丈夫です。それに明日は週末ですし、従姉の結婚式もありますから……少し痩せてラッキーと思っておきます」
真雪に以前相談してから二週間で夢は終わってしまった。しかし雪夜の温もりや甘い言葉は一年経った今でも香苗の体に残っている。
「会ったことのない芸能人に恋をするなんて……もう諦めないといけませんよね」
その一言に香苗の今の全てが詰まっていた。
***
「さっちゃん!綺麗!」
「なえちゃん」
この従姉の幸せを香苗は願ってきた。そして目の前の花嫁姿の従姉が再び幸せになれるのを香苗は心から喜んでいた。
「本当に良かった。さっちゃんが幸せになれるのをずっとずっと待っていたの」
「なえちゃん……ありがとう」
「それにまさか相手が芸能人とか!詳しく聞かせてくれる?」
従姉、咲子の相手があの手塚公平なのだと親族全員が沸き上がっていた。そこへ「咲子さん……今いい?」と艶やか声が聞こえてくる。咲子と香苗は振り返った。
「公平さん」
グレイのモーニングを着た公平が部屋の入り口にいた。芸能人らしいオーラに香苗は目を見張る。――流石芸能人!でも雪夜の方が素敵だわ。とつい雪夜と比べて少し気落ちした。
「公平さん。こちらがなえちゃん、従妹の志村香苗ちゃん」
「香苗ちゃん。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします。さっちゃんを必ず幸せにして下さいね」
「うん。必ず幸せにするよ」
その自信に満ちた声に香苗は幸せな気持ちになる。
「公平さん、香苗ちゃんはね、東京の商社の営業さんなの!あっ!香苗ちゃんとの写真、撮ってもらっていい?「さっちゃん、時間だよ」
わたわたと騒々しい咲子に香苗は突っ込みを入れて笑った。
***
「雪夜!」
「……香苗?香苗?」
夢に現れた雪夜に抱き締められた。久しぶりに雪夜の温もりがする。やっぱり雪夜が好き。
「雪夜!キスして……いっぱい抱き締めて……いっぱい……して」
「香苗……会いたかった。まだ捜し出せなくてごめん。でも絶対に捜すから……待っていて」
雪夜に翻弄され身体中を熱くしめくるめく夜を過ごした。
ピピピ………………
「雪夜……」
せっかくの日曜日だと言うのに一年ぶりの夢に香苗は熱い体を持て余し、喜びと悲しみを味わう。
「……なんでまた夢に出てきたの?諦めきれないじゃない」
香苗はその日一日泣き過ごした。