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探偵探偵

山荘殺人事件

 

眼前、詰まるところ俺の目の前には、床から六十センチ程足を浮かし、照明から垂れる縄に首が括られたた縊死体いしたいが吊るされている。これが誰なのか何故こうなってしまったのか、それを少し語らせて頂こう。

俺の横で苦しそうに顔を歪めさせているのが片桐総次郎かたぎりそうじろう。自称稀代の大名探偵、と言っても解決してきた事件は片手で数えられる程度、内容もちょっとした悪戯程度の物ばかり、だから、自称。そんな探偵バカと共に居る俺は一年程前の事故で両親を失い孤児院で出会い、それ以来朝から晩まで付きまとわれている被害者に過ぎない。

今回は俺の使用で山奥にあるという老館、廻影館かいえいかんに向かっていた。道案内は総次郎に任せたのだが、これが最初の間違いにして最大の間違いだった。

少し忙しかろうが、少しドタバタしていようが、少しも余裕が無かろうが俺が調べるべきだった。もしも過去に戻れるのなら殴ってやりたい総次郎を——そして過去の俺に優しく諭すだろう、バカに頼るなと。

この口振りから察せる通り遭難した。その上遭難した俺達に追い打ちをかけるように雪までもが降ってきたそれは瞬く間に勢いを増し吹雪へ姿を変える。

山の天気は気まぐれだと言うがこの時は呪いたくなった山ではなく総次郎を。

「なぁ……俺ェ寒ぃよ……心が」

その声はいつもの喋るだけで猫が飛び起きるような大声とは程遠い、か細く萎れてしまいそうな声だった。

心か、何故心と言ったかは見当がつく、荷物だろう俺は奴が取材に着いてくる条件に俺の荷物持ちになる事を要求した。

あの時は今のこいつからは想像もできないような笑顔で心受けてくれたが、さっきから弱音を吐き愚痴を零し小言をブツブツと呟いている。内容は荷物を少し持ってくれないか、そんな事を言い続けている。

「何度言えば分かる自分の存在意義を思い出せお前は俺の荷物持ちの為に生まれてきたんだろ」

「ぢげぇーよ!俺はな!この世の難事件怪事件未解決事件を端から端まで全部解決するために生まれてきたんだ」

「そうか、ま、生きるにせよ死ぬにせよあと少し歩いてから死ね」

あと少し、俺達はただ無闇矢鱈に遭難していた訳ではない、吹雪が酷くなる前に俺が見つけた山荘に向かっているのだ。

「お前がさっき見たって言ったの幻覚じゃないと良いんだけどな」

「貴様じゃないんだ幻覚など見るものか」

「まぁ信じるよ、つかマジじゃないとガチで俺たち死ぬし」

「例え人道を外れようとも生き残って伝えなくては総次郎は……美味かったと」

「俺だけ死ぬ前提!その上カニバリズム!?」

総次郎はヨシっ!と力を込め直し、雪の中をガツガツと進んで行った。

沼よりも重く土よりも細かい雪に足を取られながらも四十分程歩き、目的の山荘へ着いた、距離的には三百メートル程しか進んでいないんだろうが、雪が足取りを鈍らせた。

建物の前まで来てやっと分かった事だが、電気が着いている。何より微かだが人の笑い声のようなものが聞こえる。

まさかこんな山奥に人が居るとは、こればかりは少し驚いた。

「おい、突っ立ってねぇで早く入れてもらおうぜ?寒くて死んじまうよ。俺指切り落としたくねぇよ……」

さっきより、少し元気を取り戻した様子でそう言った。

「そうだな」

軽く適当な合図値を返して玄関の前まで行きノックをすると少しして男が顔を出した。

二十代前半程の男だ黒髪に短髪ツーブロック。Tシャツにジーンズを身につけている。

男の手にはスキーで使うであろうストックが握られていた。

まぁ、旅行か何かは知らないが、こんな山奥にそれに吹雪の中の尋ね人だ。警戒するのも当たり前か。

男は少し困惑したような声色で「君達は?」と尋ねてきた。

問に答えるように総次郎が言葉を続けた。

「俺達、遭難したんす、助けてください」

その発言を聞いて男は、はっとした様子で背中にストックを隠し「とりあえず入って」っと快く言って貰えた。

扉を開け入った瞬間に外とは明らかに違う温かさがあった。

一つ目を閉じ息を吐き吸う、喉を通り肺に暖かい空気を送る。文字通り一息ついた訳だ。

落ち着くな……。

つい先程まで唾液すら凍りつきそうな中を歩いていたのだこれくらいはしたくなる。

目を開ける時下駄箱の隅に何か光っているものが見えた。なんだと思い拾い上げる。

指輪だ、照明の反射で光って見えたのか。

内側にはAKの頭文字が刻まれている。

「何やってんだ行こうぜ」

指輪はポケットに仕舞い総次郎元いその先にいる男について行く。

廊下を歩きダイニングの方まで案内された。キッチンに一人、女があっている。

阿久津(あくつ)くん。その子たちは?まさかさっきの?」

キッチンに立っている茶髪ショートボブの女がそう言った。そして俺達を出迎えたストックを持っている男は阿久津と言うらしい。

「あぁ、遭難したそうだ」

阿久津はさっきまでと変わらぬ普通の声色でそう言った。

それを聞いたキッチンに立っていた女が、え!っと声を上げたと思えば畳み掛けるように続けた。

「遭難!?阿久津くん。そういう事ならもっと急いで早く言ってよ〜」

茶髪の女がこちらまで駆け寄り総次郎の手を取り体を見渡す。

「君たち大丈夫?大丈夫な訳ないよね怪我とかはしてない?」

「え……はい!」

冷え切っているはずの総次郎の頬が仄かに赤みがかっている。

「君も大丈夫?」

「自分も特には」

「え〜と、じゃあまずはお風呂だよね、阿久津くん、この子達にお風呂貸してあげて」

「了〜解!」

話を聞くに俺達は風呂場に案内されるようだ。正直有難い吹雪の中を歩くのは相当堪えた。

「そろそろこれ下ろして良いか……流石に死ぬ……」

そう言えば荷物を下ろす許可を出していなかったな。こいつもバカな奴だ律儀に許可を待つなど。まぁ持たせる理由も無いし、こいつへの意地悪もこの辺で良いだろう。

「好きにして良いぞ」

「その言葉を待ってたぜ!」

不作法にドサッと荷物を下ろしたが、今の俺はそれに対し小言を言う気力は残っていなかった。

「はぁ〜体が軽い。今ならギリギリ音速で走れそうだ。重り外したロック・リーもこんな気分だったんだろうな、今の俺なら分かるぜ」

本当によく喋る、少し前までの萎れた顔が見る影もない。ま、こいつの戯言は無視して一つ聞いておきたいことがある、聞かなくてはならないことがある。

「阿久津さんここに電話機ってありますか」

「あぁ、あるけど、この吹雪だからね繋がらないと思うよ。まぁ、明日には止むと思うからその時親御さんに連絡を入れるよ」

旅館に一本連絡を入れておきたかったが仕方が無いか。

「それじゃあ、着いてきて風呂まで案内するから」

「ほら行こうぜ冬至」

適当に生返事を返しついて行く。

さっき通った廊下を戻り階段を上がって三階の一番奥の部屋まで案内された。

二階と三階をパッと見た感じ同じ作りだった。一階はリビングにその上から二階に個室が三部屋、三階にも個室が三部屋の計七部屋だ。

「この部屋今は誰も居ないから使っちゃっていいよ」

案内された部屋はベットが壁際に添えられ窓の横に机が置かれただけの言ってしまえば質素な味気のない部屋だった。

「じゃここにタオル置いておくから、この部屋で休んでてもいいしお腹が減ったら俺かさっきのお姉さんに言ってくれ」

「本当、何から何までありがとうございます」

俺はペコリと頭を下げそう言った。

ここまでされては礼の一つでも言わなくては流石に申し訳がない。

「え!」

何故だが総次郎が声を上げた。

「急に叫んでどうした喧しいぞ」

「いや……お前って……マジで頭下げれるんだな」

「は、全くもって失礼な奴だ、俺をなんだと思っているんだ。礼節くらい心得ているわ、お前みたいな痴呆と一緒にするな」

「礼儀がある奴はそんな口の利き方しねぇよ!」

俺に一言強く言うと体をずらし阿久津に向き合い。

「っと、自分も何から何までありがとうございます、えぇっと名前聞いてもいいっすか」

一息ついてからこう続けた。

「俺は長野原阿久津ながのはらあくつ。二人はなんて言うの?」

待ってましたと言わんばかりに張り切った口調で総次郎が自己紹介を始める。

「俺は稀代の大名探偵の片桐総次郎かたぎりそうじろうこっちの口と目つき悪い方が夜行冬至やこうとうじで俺の相棒っす」

こいつの戯言にも飽き飽きする。何度言ったら分かるというのか。恐らくは何度言っても分からないだろうが、否定をし続けなくては言葉通りに受けってしまう。

「名前しか合っていないだろうが、俺はお前の相棒でも無ければ助手でもないぞ、あまり適当を言うなよ」

「口と目つきの悪さは否定しねぇのな」

ああ言えばこう言う。

ここに到着する前に事故に見立てて殺しておくべきだったか、まったく悔いばかりの人生だな。

「はは、分かったよ夜行くんと片桐くんだね、さっきも言ったけど休みたいならこの部屋で休んでいいから、それじゃあね」

そう言い部屋から去っていった。

「総次郎お前から入っていいぞ」

「え、やったぜ!それじゃ行ってくるぜぇ〜」

そう言って風呂場の方へ歩いて行った。

俺はと言うと窓際に備え付けられている机から椅子を剥ぎ取り腰をかける。

「はぁ……」

座ると同時に自ずとため息が漏れてた。遭難に続く災難でかなり疲れたからだろう。

外の吹雪は一層と強くなり、ガタガタと窓を揺らしている。窓から覗けるのは白が支配している世界だけだ。

そんな何も書かれていないカンバスのような世界をぼーっと眺めながら考える。次回作の現場はどうしようかと、元々旅館を舞台にするつもりだった、だからこそ取材に行くつもりだったが山荘も捨て難い今はそう思える。

吹雪の中の山荘。トリックはどうしようか、ベターなのは自殺偽装、外部犯、事故偽装、他殺偽装、自殺、事故。この辺りだろうかふうん……悩んでしまうな。

窓硝子がガタガタと唸りを上げている。吹雪が一層強くなったのか外から窓を叩かれているような音が部屋中に響く。

それにしてもあれだな、この吹雪の中あいつはあの荷物を運び切ったんだよな、あのありとあらゆる瓦礫や鉄屑を詰め詰め込み七十キロまでにした旅行鞄を、流石に驚かされた。

すぐに音は上げたが結局最後まで下ろしはしなかった。探偵なぞやらずに何かスポーツでもやれば個人戦ならば全国区までは余裕で行けるものをバカ正直というか体力バカというかただのバカというか探偵をやるには少しばかりいや大いに頭も考えも甘すぎる。

っと洗面所の方か総次郎の声が聞こえてくる。

「上がったぜぇ〜」

風呂場の方から頭を拭きながら出てきた。

「いやぁ〜あれだな、なんつーか冷えた体に染みるな」

「それは良かったな」

「ところでさなんで俺先に入れてくれたん?」

「先に入ったら湯が温まるまで時間がかかるだろ」

そう言って総次郎をどかし洗面所の方へ行く。

服を脱ぎ。風呂場へはいる。バスタブは無い。部屋の中は外とは比べ物にならないほど暖かいが服を脱ぐとなると寒い早いところシャワーを浴びてしまおう。

シャワーやら何やらを済ませて上がると総次郎が筋トレをしていた。

「風呂……どうだった」

「何の変哲もないただの風呂だ」

「そうか……よ、じゃ、お前はどうする、寝る?」

「いや腹が減った、何か食いに行こう」

それを聞き腕立て伏せの体制からバク転をし起き上がりこう言った。

「OK」

確か腹が減ったら長野原かあの女に言えばいいと言っていたな。

階段を下り、一階に行くと阿久津とあの女が一体型ダイニングキッチンを挟んで話をしている。

他のやつは皆部屋にいるのか。

俺は長野原の二つ横の席に座り総次郎の方を見た。

「阿久津さーん、お風呂貸してもらってすぐで悪いんすけど、お湯沸かしてもいっすか」

総次郎が自分の荷物からカップ麺を取り出しながらそう言った。

なんでこいつ旅館に行く予定だったのにカップ麺を持参して来ているんだ訳が分からん。

「なんだったらこれから夕飯だから一緒に食べる?」

俺と総次郎は長野原のその誘いを断る理由もないので受けることにした。この状況下で断る理由を探すとしたらなんだろうか。

実は長野原達は食人趣味の狂った大学生、食事会の会場が山奥のここだった、奇しくもそこに迷い込んでしまった俺達は……これならば食事に何か盛られても可笑しくはいか。

そんなくだらん妄想は早々に打ち切りというか飽き総次郎達の話に耳を向けてみる。

「え!マジで良いんすか、何作るんすか」

「作るのは俺じゃなくてこっちの」

長野原が指差す方にはあの茶髪の女がいた。

「夜行くんと片桐くんだよね、私は浦添久一うらそえくいだよ〜」

茶髪の女は浦添久一と言うらしい。

浦添はそこまでは長くはない髪を振り払いそういった。

「とりあえず、これ飲んでてね」

そう言われ豚汁を二つ渡された。

「久一の料理は絶品だぞ、そこで俺にもちょうだい?」

「ダーメ阿久津くんは後、ご飯まで待ってなさい」

総次郎が一つの疑問を二人に投げかけた。

「そういや阿久津さん達ってなんで、こんな場所に住んでるんすか?趣味っすか?」

ちょっとした間の後長野原と久一が笑いだした。

「住んでないよ、この時期はサークルのメンバーで遊びに来てるんだ」

「ま、まぁこんな場所に住んでんわけないっすよね、りょ、料理!手伝いますよ」

照れ隠しか感謝の気持ちかは知らんが台所に回り込みそういう。

「いや、大丈夫、気持ちだけでいいよ」

久一が優しい口調でそう言ったが総次郎は引く気がないようだ。

「任せてくださいって推理も料理も理の着くもの同士どっちも名級にすごいっすから」

その理屈は分からんが確かに何故だか知らんがあまり認めたくはないが……総次郎の料理は美味いこいつが入れる珈琲も美味い。

さっきこいつはスポーツでもやればいいと言ったが料理でもその位は行けるだろう。本気で探偵を辞めるよう言うのが優しさなのではないだろうか。

「んん〜じゃあ手伝ってもらおうかな」

どうやら奴らは和食を作るらしい、まぁ汁物が豚汁なのだから当たり前と言えば当たり前だが。

二人が本格的に調理を初め出して少々暇になったので長野原に話を振ることにした。

「長野原さん、ここには何人ぐらいで来てるんですか」

「あぁ七人だよ、夕飯の時にでも紹介するよ、それでこっちも聞きたかったんだけどさ、あの荷物何入ってんの?ちょっと退かそうと思って持ったら、めちゃくちゃ重くてびっくりしちゃったよ」

別に隠すような物でもないか。

俺は総次郎に聞こえるように話し出した。

「中身はただの我楽多、その辺で拾った煉瓦とか鉄板とかです」

「なんでそんなに持って山を」

いまいち掴めないと言ったような口ぶりだった。

「中身は何でも良かったんですけどね、大事なのは重さの方で」

「重さ?」

長野原はモンティホール問題の答えを聞いた総次郎のような表情をしている。

「こう見えて物書きをしていまして、書いている中でふと疑問に思いまして人を一人運ぶのがどれだけ大変かと」

それを聞いて上機嫌で台所に立っていた総次郎が声を荒らげた。

「やけに重いと思ったら!そんな、そんな事の為に俺は山道を……」

奴の目が微かに潤んでいるように見えたが、恐らく玉ねぎを切っているからだろう、と気には止めなかった。

長野原は少し苦い笑みを浮かべながら俺たちに質問をしてきた。

「二人は探偵をやってるんだったよね、今までどんな事件を解決してきたか教えてよ」

「私も気になる〜」

ふんっと腰に手を当て胸を張り自身げに総次郎が語り出す。

「言いましょう!俺たちが解決してきた難事件の数々を先ずは……」

「自分ら誰や」

後ろから女の声がした。

振り返ってみると髪を腰程まで伸ばした長髪の女が立っていた。

「さっきチャイム鳴ったろ、それだよ」

長野原が女にそう言うと女はバカでも見るよ表情で喋り始めた。

「は!読めたで、こいつら、遭難したんかそこの荷物もそいつらのやろ、ちんちくりん共うちらがちょうど来とるときで良かったなぁ、ウチらが来とらんかったら凍死してたで」

愉快そうに笑いながら台所の方へ足を運んで行った。

下手な関西弁を使う女だ、そんな事よりあいつと一緒にされた事が気に入らん。

少しの報復の意味を込めて関西女に喋りかけた。

「その慣れない喋り方辞めてもいいですよ疲れるでしょう」

そう言うとエセ関西女はゲラゲラ笑いながら冷蔵庫から麦酒缶を開け飲み喋りだした。

「お前、良く分かったな、あっちの方の出身なのか?」

標準語になると更に男勝りに聞こえてくる。

「いや、最近ちょうど犯人が関西人だったものでして」

「犯人ってお前、警察か探偵でもやってんのかよ」

そう言えばと言う表情で長野原がエセ関西女に伝えた。

「この子達、探偵やってるんだってさちょうど事件の事聞いてたとこなんだよ」

女がはぁーんとニヤニヤとしながら聞いてきた。

「ちんちくりんの少年探偵団は一体どんな事件を解決してきたのかな?」

ちんりくりんの少年探偵団。これには語弊がある正確にはちんちくりんの少年探偵だ。勝手に放り込まないで欲しい。

パンと手を叩く音が鳴り響いた、音の主は総次郎だ。

「それでは気を取り直して今まで解いてきた数々の難事件をご唱和ください!」

本当にバカだなこいつ……。

それから総次郎は「老人ホーム連続神隠し事件」「首無し盗人首狩り事件」「非行少年火行事件」それらを意気揚々に自信満々にさながら落語家のように語り。終わる頃には関西女元い三豊一二三みとよひふみの麦酒缶が三本目を開けていた。

「はぁーん、ま、探偵っちゃ探偵やな見習いレベルやけど」

三豊はどうやら親が警察官のようでその影響で刑事ドラマが好きらしいのだが、好きすぎるあまりに登場人物に影響を受けて口調が犯人のようになってしまうというのだ。

なぜ犯人なのかと言うと本人曰く「刑事ドラマちゅうのは結局は犯人が捕まる、警察側で見るより犯人の心情を想像しながら見る方がハラハラドキドキするんや」っとらしいのだが。正直その考えは分からなくもない、というかそもそも俺の考えが警察も探偵すら事件を解決するための舞台装置にすぎない。少なからずこう思っている節が昔からある。多分これは父の影響だ、父は俺と同じ作家だった。俺と同じく推理作家だった。

偏屈で捻くれ者、親としては完全に終わった性格をしていた。

父は日頃から言っていた。

「正義も悪も存在はしない。この世は謎と解のみだ」っと。

ま、ともあれ三豊の言葉見習い探偵には賛成だ、いや以下か。

「ま、こいつは見習い以下の名ばかり探偵ですよ」

「俺はすごいと思うけどな、まだ中学生なのあんなに解決してきて……」

長野原がフォローに入ったがそれに三豊が側って入ったる。

「ダメやダメ全然ダメやまだ探偵として一ちゃんやらな、あかん事件が残っとるやろ、目つきの悪い方は分かっとるんちゃうか?」

探偵がやらなければならない事件。ま、確かにそれを経験した時総次郎も今よりも少しは薄紙一枚分はマシになるだろうな。

ま、ここで俺が言ってしまうのも面白くないか。

「どうだろうな、迷探偵お前はどう考える」

「え?俺?、んん〜一番やらないとダメな事件しょっ?……怪盗関係は一応やってるしな怪盗言つか泥棒だったけどやっぱ黒の組織的な?」

「全然違うな、流石は名ばかり探偵だ」

「せやな、沖縄と北海道くらいちゃうわ、つかやっぱ自分分かっとるやろ」

「さぁ」

長野原と総次郎は心底分からない不思議だと言った苦悶の表情を浮かべている。

「阿久津くんも分からへんのか?」

「探偵で?まだこの子達がやってない事件……分からん教えてくれよ一二三ちゃん」

「しゃーないな教えたるわ、ほれ言ったれ夜行はん」

その前振りで俺に飛んでくるのか。

どうしても俺に言わせたいらしい。これは逃げられないな。

ま、あいつの無様な顔を見れたし良しとしよう。

「殺人事件。ですよね」

そう言うと麦酒を一口飲み喉を潤してから喋りだした。

「せや、探偵がやる事件と言ったら一に殺人事件、二に殺人事件でしょ、あんたらは殺人事件も死体すら見た事ない子供、だから探偵見習い、合点がいったかな片桐くん」

総次郎はと言うと口を窄め何かを考えている。

ま、殺人事件は疎か犯罪すら起きない探偵小説は幾つかあるのだが、三豊は知らないのだろう。

窄めた唇を動かす。

「まぁ殺人事件が起きてもこの名探偵、片桐総次郎には赤子の手をあやす、よりも簡単な事だぜ」

「随分と子供が好きなのだな」

「ん?ちびっこ共は好きだぞ」

「そうかよ、探偵なぞやめてピエロでもやっていろ!」

そう言いながら総次郎の手を締め上げる。

「っと!話してるうちに、なんかええ匂いしはりますな」

確かに食欲を刺激する香辛料の良い香りだが、この匂い……。

「あと少しっすよ、ね久一さん」

「うん、片桐くんが手伝ってくれたから、思ったよりも早く終わっちゃったぁ、ありがとね」

「あ、ありがとうございます!」

ニヤニヤと鼻の下を伸ばして頬を赤らめて、こいつはこういう女が好みなのか。

「じゃあ阿久津くん皆のこと呼んできてくれる」

「分かった」

阿久津はダイニングを出て階段の方へとかけて行った。

「この匂いは中華やな」

そうだ確かに匂いは中華料理、特有の香辛料の香りがたゆってくる。たが事前には和食と聞いていたのだが。

ま、どちらでも良いのだが一つ聞いてみるとするか。

「和食と言う話じゃなかったのか?」

「いやぁ〜なんか久一さんと作るの楽しくなっちゃって気づいたら中華になってたわ」

そんな事を笑いながら言っているが、何を言っているのかさっぱり何一つ分からない。

どこをどう間違えれば和食が中華になる?。

「貴様、頭でブルーチーズでも作っているのか」

「ブルーチーズ?頭は頭だぞ?」

「ふん、丹精込めて作っているようだな」

頭の上に疑問符を浮かべているのが良い証拠だ。

「ごめんなさいね和食って話だったのに、私も片桐くんの手際がいいから楽しくなっちゃってつい」

「まぁ細かい事気にすんなや味濃い方がツマミになるしハッピーやん」

少しすると見知らぬ顔の茶髪の男と黒髪の男が二人降りてきた。

どちらも眼鏡をかけている。だが黒髪の方は、何故だか知らないが、スーツを着ている。

なぜこの場所でスーツを?その疑問の答えを考えていると。

「やぁやぁ、片桐くんと夜行くんだね、話は阿久津先輩から聞いてるよ。ここで一つおこうに火をつけておこう」

スーツの男がそう言うと隣の茶髪の男が総次郎をもがクスクスと笑いだした。

よく今のオイミャコンよりも寒い駄洒落で笑えるものだ。

「ほんま、れんくんいつもクールやのに古亀こがめくんのクッソ寒っいダジャレでよう笑うよなぁ」

三豊の発言から察するにスーツの方が古亀こがめ、茶髪の方がれんと言うらしい。

「おい、連、夜行くんの方笑ってくれなかったぞ何でだよ……」

「そんなの。決まっている」

「なんだ?」

「お前のダジャレがつまらない、からだ」

「な、に……」

古亀はさながら糸の切られた操り人形のように倒れ崩れ項垂れた。

そんな古亀に連が手を差し伸べながら。

「だがそう悲しむことは無い、なぜならお前のダジャレはつまらないが笑う者がいる。その事実を忘れるなさぁ立て古亀!」

「……連!」

俺は一体、何を見せられているんだ。

友情ごっこ……というよりはコントだな。

「あれ?かなめくんと鹿嶋くんは?」

久一が古亀に問いかけた。

かなめ、鹿嶋。誰だろうか、まぁ先程長野原がここに来ているのは七人だと言っていたその最後の二人なのだろうが。

「ちょっと阿久津先輩と話してくるそうです」

それを聴き、ふうんと一言言って、料理を運び始めた。

奴も慌てて奴も配膳を始めだした。

長野原が降りてきたのは料理が全て並び終わる頃だった、長野原は二人の男を連れている。

一人は金髪体格は普通程度、もう一人は黒髪乗った細身の男だ。

これで七人全員か。

そして改めて料理、に目を向ける。

並べられた食事を見て少々驚いた。乾焼蝦仁えびちり、中華まん麻婆豆腐まーぼーどうふ天津飯てんしんはんから東坡肉とんぽーろー胡麻団子ごまだんご杏、仁豆腐あんにんどうふそこから名前も分からない料理を含めれば十五品以上。何故ここまで豪勢になったのか分からないという表情をこれを作った奴ら以外全員がしている。

「いやぁ〜作りすぎちまったかな」

「……なにこれ……」

長髪の男は満漢全席のような品々を見てそう言葉を零した。

俺も見た時は言葉を失った。

「どっからどう見ても中華料理やろ、そないなこと言っとらんでちゃっちゃと食おうで、つかいただきますやで〜」

ガツガツと掻き込み麦酒で流し今まで生きてきたのはこの瞬間の為だと思わされる喜色満面きしょくまんめんな笑顔だが何故だか目が潤んでいる。

「なぁ久一ちゃん片桐、ウチの家の専属料理人にならんか……」

一二三は泣きながらそう唱えた。

「一二三ちゃん飲みすぎだよ」

笑い上戸か泣き上戸か分からん女だな。

皆は慣れているのか、その光景には誰も触れていない。

唯一、総次郎が「俺は高くつきますよ」と言ったくらいだ。

「そう言えば二人ってなんて言うんすか?」

総次郎が阿久津が連れてきた二人に名前を聞いた。

先に長髪の方が答えた。

「まずさ、どっちがどっちが教えて」

「俺が雷鳴の如く名を轟かせている名探偵その名も……」

「俺が夜行でこっちが片桐です」

「あぁ、ありがと、俺は柴島鹿嶋しばしまかしま、話はだいたい聞いてるから、よろしく」

「俺の台詞最後まで言わせろよな」

「何か言っていたか?すまないな、お前の声が耳障りすぎて聴くことを放棄していたようだ」

「そうかよ、そんじゃ、そっちの金髪のかっこいい兄ちゃんはなんて言うんすか?」

かしわかなめ。一応、副部長をさせてもらってる。よろしく」

社交辞令的に俺も「よろしくお願いします」と返し話を切った。

「そんでずっと気になってたこと聞いていっすか」

そう言いながら古亀を指さす総次郎。

「なんでスーツ来てるんすか?」

「よくぞ聞いてくれた、誰も触れてくれないから俺が可笑しくなったのかと思ってたところだ」

「古亀くんは、いっつも可笑しいやろ」

古亀はコホンと一息付きこう言った。

「こんな山奥の家で大学生がスーツで生活してたらさ……面白くね?」

こいつの事は大体分かった。総次郎と似たタイプのバカだ、気づくのが遅いくらいだったか。

「連、面白いよな?」

「何を言う、面白い訳が無いだろ」

「え……」

「お前の面白さは面白くない所にある。そんなお前が俺は好きだ」

こいつらは芸人でも目指しているんだろうか。

「本当に連くんと古亀くんは仲がいいね」

浦添がそう言うと三豊が小指を立てこう呟いた。

「お前ら、できてるんちゃうか?」

「言っていなかったが、俺には可愛い可愛い彼女がいるぞ」

部屋中に「え」っと言う声が響いた。

「れ、連くんは黙っとったらモテそうやからなァ……」

「言ってくれれば良かったのに〜」

「嘘……だよな?」

「古亀そう言えばお前にも言っていなかったな」

「嘘だと言ってくれ俺たち彼女いない歴年齢コンビだったじゃんよ」

「悪いが嘘でも何でもないぞ」

「あれだよな、二次元だよなお前そういうの好きだろ?」

「二次元でも四次元でもなく三次元だぞ」

「しゃ、写真を見せてくれ、俺は自分の目で見ない限りはし、信じないからな」

連はこれもネタの一環であるかのようにスムーズに胸ポケットから写真を取りだした。それを見た古亀は膝から床へガクッと効果音が響きそうな程に見事に倒れた。

こちらから写真は見えなかったが古亀の反応から見て偽物ではなかったらしい。

皆がその写真を見に連の方へと足を運び、またしても部屋中に驚愕の声が響いた。

写真を覗いて確認してみると華奢な体にボブカットの綺麗な女性が写っている。

「おい連お前どこでこんな美人捕まえてきたんだよ」

長野原の問に答えた。

「先週駅を歩いていたら、壺を買わないかと言われてな、そこが初対面だ」

ガヤガヤとはやし立てていた声が静かになっていくのを感じる。

「連くん?その壺って幾らくらいしたのかな?」

「四十五万、幸せを呼ぶ壺だと言われてな、思わず買ってしまった。その後に付き合わないかと言われてな、幸せが直ぐに降ってきたんだ」

「連くん、それどっからどう見ても詐欺やろ詐欺」

誰もが思い当たり言い淀んでいた言葉をいとも容易く言ってのけた酔っ払い。

「詐欺……だと……」

「言いづらいけど私もそう思うよ」

「そう言えば一度も手を繋いで居ない……なら俺が今年二年バイトで貯めた五十万はどうなったのだ」

「五万残っとるやん、今度焼肉奢れや」

三豊この女人の心というのが無いのか。

「な……」

「詐欺師に騙されて可哀想なお前を抱きしめてやる、こいギシ!」

抱き合った二人を横目に次の話の話題でもないかと総次郎が全員を見渡していると柏の所で顔が止まった。

「かなめさん何かすげぇ金色の時計つけてるっすねそれ幾らくらいしたんすか」

「確か……七十万とかそんくらいだったと思う」

総次郎は値段に顎を外していた。

「な、な、な、七十万!?じゃあその首のネックレスは……」

「これは八十……九十万だったかな」

「パひゃ〜すごいっすね」

「投資で一山当てたんだ、すごいっしょ」

柏は少しし鼻につくような言い方でそう言う。

ま、実際鼻につく奴なんだろう。三豊と銚子の表情から取って取れる。

「かなめ先輩は確か来週はオーストラリアの方へ行くのだったよな」

「それは来月、来週はハワイだ」

「ハワイつぅとちんすこうっすよね」

総次郎それは沖縄だ……。

「それハワイちゃう沖縄や、ほんま料理はぎょうさん美味いのに頭はぎょうさん悪いんやな」

夕飯は終わった。皆に美味い美味いと言われ続け総次郎は終始までにやけ顔だった。

俺達はさっきの角部屋とは違い。その一つ隣りに案内された。

さっきの部屋はベットが一つだったがこの部屋は二つ。

これが理由か。

この部屋にいた柏かなめは逆にさっきの部屋に移動をした。

部屋はベット一つ分狭くなった。

ま、これでも何時もの部屋よりかは幾分か広いが。それに二段ベッドじゃないのも大きい。

「なぁ久一さん可愛いよな、俺に優しかったし、わんちゃんあるかな」

終始ニヤついていた原因は料理を褒められたからではなく、これか。

「それなら、長野原との奪い合いだな、応援はするぞ?失恋をまじかで見てみたい」

「ん?阿久津さんと奪い合い?まぁ久一さんならモテてると思うけど何で阿久津さんだけなの?」

こいつ気づいていなかったのか。

今から見れるのか失恋の顔を。

「あの二人が付き合っているからだ」

「え……な、なんでそんな事一言も言ってなかったじゃん」

ふうん……このような顔をするのだな。

表情筋という表情筋から全て力を奪い去り眉を垂らし頬を垂らし背中を少し押してやれば倒れそうな程に背を丸めるのか。

さてなんて返したものか。

「ま、探偵を名乗るのならば一目見た……いや一指見た時点で気づくべきだ、と言っておこうヒントは幾つもあったぞへっぽこ探偵」

「傷心中の俺にそんな謎々めいた事言わねぇでくれよ。やってる余裕ねぇって……」

「探偵の分際で謎を放棄するとは探偵失格。いいご身分だ恥を知れ!恥を抱きながら無惨に無様に指の先から冷たくなるのを感じながらじっくりと凍死しろ!」

「え?なんか酷くない!それが失恋した俺にかける言葉かよ、俺じゃなかったら部屋から飛出て泣いてるぜ?」

窓の鍵を開ける。

「ほら、飛出て良いぞ何秒飛べるか数えといてやる、死ぬ気で足を動かせば空を掛けれるかもしれんぞ?」

「俺が言った外は建物の外じゃねぇ部屋の外だ!」

そう声を一つ荒らげてか話を変え話し出した。

「それでだ聞き捨てならない言葉が聞こえたぜ誰が探偵失格だって」

そう言った総次郎の顔は何時もの阿呆面に戻っていた。

「お前以外に誰がいる。頭の次は目が悪くなったのか」

「そこまで言うなら乗ってやるよ、お前の言う謎々!完璧に解明してやる!」

本当、単純なヤツだな。

ま、これでしばらくの暇つぶしにはなるな。

かれこれ一時間、部屋の中をぐるぐると回ったり、ベットに座り込んだりして考えていたが答えが出る気配はなく。最後にトイレに行ってくると言ったきり四、五十分は帰ってきていない。

まさか本人に聞きに行ったのか?。

そんな事が一瞬頭をよぎったが奴はバカだがそこまで空気の読めない奴ではない。なかったはずだ……。

そう考えて指を次の頁へと走らせると、なにかの呪いの様に扉がバタンと開いた。

「分かったぜ!」

開いた理由は俺が突然超能力に目覚めたからではなく、バカ探偵だった。

「随分と掛かったな、能無し探偵」

「まぁまぁ聞けよ今回ばかりは百点満点中の百点満点だぜ……多分」

「右往左往するお前の姿を魚にもう少しこれを読みたかったが、まぁいいだろう、珍けな脳味噌で捻り出した的はずれな答えを、聞いてやる」

「なんで間違える前提なんだよ!今回ばかりは自信があるんだよ」

「本人に直接聞いた訳ではないだろうな」

「まっさぁ流石にそんな事はしてねぇよ、それじゃあ聞いてもらおうか」

よっと一つ手を叩いてから話し出した。

「ズバリ日焼け跡だ他の人らは日焼けしてなかったけどあの二人だけしていた。この季節に日焼けする訳ないから、旅行にでも行ってたんじゃないかな二人っきりで、答えはさこれだと思うんだけど、付き合ってるって断言するにはまだ足りなく無い?まさか、こんな証拠だけで言ったわけ〜」

俺の額を指でつんつんと着いてくる。

「そうだなお前の言うとうり足りない。何が足りないか教えてやろうか?」

「え、教えてよ」

「お前の頭だよ阿呆探偵。日焼け後に気づいたのなら日焼けしていない場所にも気づけバカ」

「してない場所?」

「二人は薬指だけ日焼けがしてなかった」

「そうだった……かも?だけどよその日焼け跡もたまたまかもしれんじゃん。やっぱり弱いって」

「お前の言う通り日焼け跡だけじゃ、まだ足りない。これを見てみろ」

ポケットから頭文字入りの指輪を取り出す。

「これ久一さんが首に掛けてたやつと同じやつじゃん」

「内側を覗いてみろ」

「AK……頭文字か?」

「そうだそれに当てはまるのは」

「阿久津さんと久一さんくらいしか居ない。けどお前どこで盗んできたんだよ」

「人聞きの悪いこと言うな玄関に落ちてたんだよ」

「いやすぐ返せよ手癖の悪いヤツ」

「仕方ないだろ、その時は誰のか分からなかったのだよ」

そんな事を言うと事件の謎を解く糸口を見つける数秒前の様な声色で奴がこう言った

「?ちょっと待て、それが決定的証拠って奴だよな」

「そうだな」

これ以上のヒントがこの謎にはないからな。

「じゃよ、俺どうやって答え当てたら良かったんだ?」

「そんなもの知らん自分で考えろ探偵だろ?」

総次郎が呆れ混じりの声で。

「はぁ〜そうだった、お前からの謎は、いつも全部が全部、端から端まで中までたっぷり意地悪で詰まってるんだった。疲れてて頭から抜けてたぜ」

「下手な言い訳は付けなくていいぞ、バカだから忘れたのだろう」

「え、普通に口悪過ぎじゃねぇ泣くぜ泣くぞ?暴れるぞ」

そう言って床をゴロゴロゴロゴロ転がっている。

二、三分転がり続け何やら窓の前まで歩いてきたと思ったら窓を開け放った。

「涼しい……ぜ」

開いた窓からは水が決壊したダムのように部屋に雪が入ってくる。

「閉めろバカ!」

外に顔を出していた総次郎を引っペがして窓を閉めた。

振り向いて床を見る。

窓を開けたせいで吹雪が入り床が濡れてしまったな。

「床、拭いておけよ」

「へいへい」

床を拭いた総次郎は相当疲れていたのか横になるなり、死んだように眠っている。

俺が寝たのは十一時頃だったか。

次に目を覚ましたのは一時過ぎだった。少し喉が乾き、洗面台で一杯水を飲みベットの中へと帰った。

そのついでき窓の外を覗いて見たがガタガタと窓を揺らす吹雪は弱まる気配を見せていない。本当に明日には止むのだろうか。羽直に一言言っておきたかったが、まぁ別に良いか。

寝よう。

…………………………………………………

眩しい……。

総次郎が起きて気も使わず電気をつけたか。一つ叱責でもしてやろうと思い目を開けた。が部屋の電気はついていなかった。俺はサンサンと指し示す眩い程の朝日で目を覚ましたようだ。

時計を確認すると七時半だと分かる。

窓から外を覗いてみると昨日の吹雪が嘘だったかのように空は蒼く澄み渡っている。

だが地面に積もった雪があれは嘘では無いと強く教えてくれる。

これなら電話も使えるだろう。

総次郎の奴は阿呆面で寝ている。

眠気覚ましに顔を洗ってから一階の固定電話へ向かった。

ダイニングには既に雲谷連、銚子古亀、三豊一二三、柴島鹿島の計四人がいた、なぜだか知らないが雲谷連と銚子古亀はソファで寝ている。

「ここの電話、借りますよ」

部屋全体にそう一言言って旅館に電話をかけ事情を説明した。女将の話を聞く限り羽直の奴は無事につけたらしい。女将から羽直の部屋に電話を繋いでもらうことにした。

数コールの後声が聞こえてきた。

「……はい……朝食は確か八時でしたでしょう……なんの御用で」

このどこか不気味な幸の全く感じられない聞いてるだけで不幸になりそうな声は間違いなく羽直だ。

羽直修はじきしゆう。父からの付き合いの編集だ。

自分第一主義の男こいつとの付き合いはそこそこになるが何かを助けられた経験は未だにない。取材に着いてくる理由も俺が未成年だからではなく自分が旅行したいから、そんな所だろう。

「羽直さん、おはようございます」

少しの沈黙の後返事は帰ってきた。

「………これはこれは夜行先生ご無事でありましたか、連絡がつかないものですから、心配してましたよ」

「心配とは朝食の心配をかな?」

「夜行先生方の方をですよ、私には生存報告と言った所ですか?」

「はい。後で俺達が吹雪の中を歩いていた時に羽直さんが何をしていたか教えてくださいよね」

「………あぁ……すみません電波が悪くなりそうなので私はこの辺で」

プープーという音だけが受話器越しに聞こえてくる。

ま、これで捜索届けを出されるとか面倒な事にはならんで済む。

昼にはここを出よう。泊まれはしなかったが見て回るくらいの時間は十分取れるだろう。

「夜行や、片桐の方は寝とるんか?」

後ろの方からそんな声が聞こえた。

この可笑しい関西弁は三豊か。

こいつは昨日の料理を相当気に入っていたようだからな総次郎に朝食でも作らせる気だろうか。

三豊の方を向いて、分かったのだが、かなり酒臭い朝っぱらから飲んでいるのかこいつは。

いやこれは……。

テーブルというテーブルにワインボトル、一升瓶、麦酒缶が散乱している。

朝からじゃない昨日からずっと飲んでるな雲谷と銚子があそこで寝ているのはこれか、飲まされて。

「奴ならまだ寝てますよ」

「せやか、ならええわ」

そう言いさっきまで座っていたカウンターに戻り麦酒を飲み始めた。

そうだな、今なら指輪を返すのにちょうどいいだろう。

その足で三階まで上がって気づいたが俺は長野原の部屋を知らない。

まぁ、一部屋一部屋見ていけばいいか。

最初は俺達が寝泊まりした真向かいの部屋の扉をノックした。

が反応は無いドアノブに手をかけると少しの力で下に下りた。失礼しますと心の中で言いながら部屋の中を除くが人の姿は無い。恐らく下にいた既に起きているやつの部屋だったのだろう。

次に今俺がいる部屋の左隣に位置する部屋を尋ねることにした。

コンコンとノックをするとすぐに中から声が聞こえ扉が開いた。

「夜行くんどうしたの」

長野原の部屋はここだったか。

少し窶れているように見えるがこいつも昨日飲まされたのだろう。

「落し物を届けに、これ長野原さんのですよね」

指輪を長野原阿久津に渡す。

「どうしてこれを」

他の者に隠しているなら俺も知らないふりをした方が良いか。

「長野原さんがこれを落とすところを見まして違いました?」

「いや、これは僕のだよありがとう」

そう言いながら直ぐにズボンのポケットにしまった。

「じゃあ、ありがとうね」

早々に話を切られ扉を閉められた。

そうだな、やることも無いし部屋に戻って本の続きでも読むとしよう。

………………………………………………

部屋に戻りしばらく本を読んでいたのだが何やら廊下からドンドンと何かを叩くような音が聞こえる。

つい先程起き、まだ夢半ばといった総次郎を連れて廊下に出てみると部屋の前に柴島鹿島が立っていた。だが音を出しているのは柴島では無い、音の方を見ると長野原阿久津が隣の部屋、柏かなめの部屋の扉をこじ開けようとしている。

「これは?」

そんな言葉が零れた。後ろからの声だった総次郎だった。

「なんか、幾ら呼んでも、かなめから返事がないから心配になってこじ開けるんだとさ」

「阿久津く〜ん、いいのあったで〜」

階段の方から声がし、見てみると俺が重し代わりに鞄に詰めた鉄パイプを三豊一二三がブンブン振り回しながら走ってきている。その後ろから浦添久一が心配そうに見ている。

不用心だったゴミだと思って部屋まで運ばせるのを忘れていた。

「あぁ、ありがとう」

鉄パイプを手に取り、一心不乱に扉へと叩きつける姿はどこが狂気的であったが、反応がない友達を心配しての行動だと考えると見方も変わる。

そして数回数十回と叩きつける、うちにドアノブの横の部分を壊れ、穴が開きそこから鍵を回して扉を開ける事に成功したらしい。

それを見た三豊は「ウチが起こしてきてやるよ」と言い長野原を押しのけ扉を開ける。

キキキと言う扉が擦れる不気味な音と共に開かれる扉はどうにも重そうに感じた。

「え……」

三豊は部屋の中に入るどころか一歩引き声を漏らした。

それを聞いてか長野原が部屋の中を除き。うわぁァァァァァァあと。洋画でしか聞かないような叫び声を上げた。

俺も気になり長野原を押しのけ部屋の中を覗いた。

そこには、部屋の中心に床から六十センチ程足を浮かし、照明から垂れる縄に首が括られた。柏かなめが吊るされている。

「これは……」

「き、ぎゃ、ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

総次郎は俺の横でまだ目覚めきっていなかった目を見開きながら叫び、腰が砕けたようにその場にへたり込んだ。

部屋の中へ入り脈を確かめる。

手首から脈は感じられない。暖房のせいか嫌に暖かい手首から指を離す。

「おい、これ見てくれ」

いつの間にか部屋に入っていた長野原の声が聞こえた。

長野原は机の上に置かれたノートの事を言っているようだ。

机の方へ行きノートの中身を覗いてみる。

「遺書だな」

内容はこうだ。

「死ぬ事にしました。突然の事で驚かせてごめん。借金で首が回らなくなって、毎日毎日取り立てに怯えて、そんな生活が惨めになって、嫌になって、死にたくなって、ここに来たら何か気持ちも変わると思ったけど、何も変わりませんでした。父さん母さんごめん。皆本当に驚かせてごめん。」

少し雑な気もするが大学生、それも借金で首が回らなくなる程の馬鹿が書いたと考えれば納得できないことも無い。

「……相談の一つでもしてくれれば」

そう言いながら机を叩く長野原の握り拳からは血が滴っていた。

「総次郎、警察に連絡をしてこい。電話は一階にある」

返事がない。

振り向くと震える両手で耳を塞ぎ力いっぱいに目をつぶった総次郎の姿があった。

「おい!総次郎!探偵ならば足を動かせバカ探偵!」

そう怒鳴ると聞こえたのか頷き。

奴は何とか壁に手を付き立ち上がって階段の方へとフラフラとした足取りで消えて行った。

ふん、さながら小鹿だな。

俺は柏かなめが首を吊るために使ったであろう椅子に立ち遺体の首元を確認すると、首元に目新しい首を絞めた跡がある。首吊り自殺なのだからあって当たり前なのだが少し可笑しい。何故なら今も首を締め付けている縄とは明らかに違う跡が微かだが確かにある。

これは……そうだベルトで付く跡だ。以前に総次郎で試した事があるから間違いない。

一つ気になり窓の鍵が掛かっているか確認すると案の定掛かっていた。

部屋の全体図をよく見てみる。

昨日とどこか変わった所はないかと。

……少し見た感じだが部屋が綺麗になっている。他は……分からんな。

総次郎にある事を伝える為に部屋の外に出るとまだ中を見ていない浦添久一が話しかけてきた。

「な、何があったの」

「遺体です、見ない方が良いですよ」

「嘘……かなめくんが……」

身をだくようにして震えている。まぁ昨日まで生きていた友達が死ねば誰だってこうなる。

ここで気づいたのだが三豊の姿が無い。奴に警察への連絡を頼んだ時には、もういなかったな。

まぁそんな事は後でいい。

一階まで行きちょうど電話をかけ終わったであろう総次郎にある事を伝える。

「仕事だ、探偵」

「仕事って……あれ……自殺じゃねぇの?つかもう見たくないよ」

「腰抜けが、あれは他殺それも密室殺人だ。探偵を自称するのなら、このくらいの謎、説いてみせろ!」

「自殺じゃないって証拠は」

「証拠なら自分で見つけ出せ、曲がりなりにも探偵なの……」

「わーったよ」

奴は自分の方を二、三回叩き何かを決心して階段の方へと向かって行った。

案外早かった。

もう少し後寝ると思ったが、ま、こちらとしてはありがたい。

さて、どうするかな。犯人に目星は着いたが、どうにもこうにも証拠がない。証拠ならあいつが集めるが、こっちも少しは探っておくか。

そうだな。

なにかないかと視線を泳がせているとソファで寝ていた雲谷連と銚子古亀が目に入った。

あいつらに話を聞いてみるか、一晩中飲んでたのなら何か聞いているかもしれない。

銚子古亀と雲谷連。どちらから話を聞こう。

ソファの前まで歩くと目の前にある暖炉が少し暖かい事に気づいた。

ま、ともあれ、どっちから話を聞くか……。

「起こしてすいません。雲谷さん少し聞きたい事がありまして」

雲谷の方を起こす事にした。理由は鼾がうるさかったからだ。

「聞きたい事とは何だ、俺に分かることなら答えるぞ」

「昨日この山村で誰がどの部屋で寝泊まりしたか教えて貰っていいですか」

「あぁいいぞ。なぜなら、聞かれても問題がない事だからだ。三階は阿久津さん、そして、かなめさん、俺と古亀と夜行君らだ。っと言っても俺と古亀はここで寝たがな。」

俺たちの向かいの部屋も二人用の部屋なのか。

「二階が一二三先輩と久一先輩だ。」

「二階に泊まった二人の部屋は」

「二人とも階段から見て奥の部屋だ。なぜなら、前の二部屋の一つは掃除中もう一つは物置だからだ。」

そうだったのか。

「それじゃあ深夜に何か物音とかしませんでした?」

「深夜と言うと零時から何時なのだ?」

「零時から五時くらいまででいいです」

「昨日の事はあまり覚えていない。なぜなら一二三先輩に大分飲まされていたからだ」

確かにしょうがないと思えるほどの酒瓶が机を埋めつくしている。

「じゃあ睡眠時刻は覚えてますか?」

「覚えていない何故なら……」

「最後に昨日、誰かがあの暖炉を使っているのを見ましたか」

話に割って入ったら少し眉を細めたが綴がなく質問には答えたくれた。

「いや見ていない。というか、あそこに火がついているのを見た事がない。何故ならあそこの暖炉は壊れているからだ。」

「そうですか。ありがとうございました」

全く面倒の臭い喋り方をするやつだな。銚子と言う男はよくこんな奴と付き合える。

「俺の方も、一つ聞いていいか。なぜなら、なぜこんな事情聴取のような事を聞くか気になったからだ」

ま、気になるか。

「柏さんが部屋で首を括られたんです。今は警察を呼んでいるところです」

「先輩が!?」

空いてるか空いていないか分からなかった瞼をこれでもあと開き驚いている。

「部屋、なんだな」

「はい。それと上に行くのなら総次郎に伝言を頼んでいいですか」

「あぁ良いが」

「謎を全て解き終える前に投げ出してみろ毎夜毎夜、例えお前が地獄にいようが輪廻転生したとしても枕元で嫌味を言い続けるぞっとお願いします」

「あぁ分かった」

そう言うと部屋から階段の方へと走って行った。

案外、柏かなめも人望はあったのだな。

そして俺はまだ仄かだが暖かい暖炉の前に立つ。

話を聞いて確信した。やはりこの暖炉で犯人は何か証拠を灰にした。

何を焼いたか分かれば、楽なのだがな。わざわざ焼き捨てる程事件の根幹を担っているようなもの。安直に凶器と考えるべきか、だが凶器がベルトならばわざわざ焼かなくとも着けるか仕舞うかすれば良い。態々人が寝てる前でも灰にする程見せたくないと意識が働く何か……。

思考を巡らせていると後ろから声が聞こえてきた。

「夜行くん。大丈夫?」

そんな人を心配するような声に振り向くと浦添と三豊が立っていた。心配の声は浦添久一のものか。

三豊は浦添に方を貸してもらっているようだ。

少々考え込んでしまったか。

「はい、お二人は平気そうで」

「バカ言わないで、人が、柏くんが自殺しちゃったんだよ。ちょっとウザくてムカつく事もあったけど……あったけどさ!」

そう言い関西弁を忘れは三豊は泣き崩れてしまった。

「久一ちゃん、お酒持ってきて……」

「さっきも吐いちゃったんだからもう飲んじゃダメだよ」

さっき三豊がいなかったのは、そういう事か。

浦添は酒酒言う三豊を椅子に座らせ背中を撫でている。

「夜行くん。お水入れてきてもらって良いかな」

「はい」

台所まで歩き水を入れる。

警察が来るのはいつ頃だろう。奴らが来る前に犯人を自白まで追い詰めておきたい。そうしなければ旅館の取材と言う俺の目的が叶わない、それに羽直の奴にただいい思いをさせただけになる。それだけは絶対に、嫌だ、ムカつく。

場所から考えて警察が来るまでは、昨日の大雪も入れたら二時間前後だろう。

ま、バカ探偵がどれだけやっているかしだいだな。

水を入れたコップを浦添に渡すと、ありがとうとね一言言って。三豊に飲ませ始めた。

「あの片桐くんが言ってた事、本当なの?」

「言ってた事とは」

「かなめくんが自殺じゃないかもって奴」

かも。か。

「そう言ったのなら何か証拠でも見つけたのでしょう。あいつも探偵です適当は言いませんよ」

残っていた水を飲み干した三豊はこう言った。

「それ私たちの中にかなめを殺した犯人がいるってこと!」

「ま、外部犯というのは考えにくいですからね」

「現実とアニメの区別も付けれなくなったんじゃないの現実で……そんな事件起きるわけないじゃん!」

「事件は実際に起きたんですからその現実を見てください」

「だから事件じゃなくて!事故なの!誰も、誰もやってなんかないよ!」

さらに声を荒らげて。

耳が少し痛いくらいだな。

「さっきも言いましたけど証拠もなしに適当なことは……」

「言いません」言いかけたところで三豊が胸ぐらを掴んできた。

目には大粒の涙を浮かべて。

「じゃあ!この中に私たちの中に犯人が!人殺しが居るって言うの!私たちサークルの仲間なんだよ!友達なんだよ!探偵ごっこも大概にしてよ!」

「一二三ちゃん……」

浦添は優しく名前を言うことしか出来ないと言った感じだった。

少しは止めて欲しいものだ。

「三豊さんそれはあのバカに言ってください。あと離してください苦しいです……」

「……」

手を離してくれた。

「ごめん大人気なかった。けど、久一ちゃん私こいつ目つき悪いし生意気!」

なぜ俺は今軽い誹謗中傷を受けたんだ?。

その理由を考えているとソファの方から声が聞こえてきた。

「……あ、先輩おはようございます。何で泣いてるんすか」

どうやら横で寝ていた銚子古亀が起きたようだ。

「黙れ!」

「起きて早々酷いっすよ先輩」

本当に状況が分からないであろう銚子は質問の相手を三豊から浦添へと変えた。

「久一さん本当に何があったんですか」

「あ、それがね……」

浦添久一は言葉を言い淀み結局口にはしなかった。三豊一二三も何も言う気がないらしい。

どちらも答えないただ口を紡ぐばかり。そうなれば必然的に質問は最後の俺に飛んでくる。

はぁ……結局二回説明するくらいなら二人一気に起こせばよかったな。

「柏さんが部屋で首を括られました。今警察も呼んでいるところでねす」

「!?い、生きてるのか」

それを聞いた浦添久一は首を横に振った。

「!?なんで……どうして先輩が!」

「どうも借金があったようで、それが原因らしいです」

「そうか……他の皆は知ってるのか」

「はい」

「分かった……」

おでこに手を当て俯いた。

さて、あいつが推理を披露するまで少し暇になったな。……そういえば昨日から珈琲を口にしていない。

そう意識してしまうと無性に飲みたくなってくる。

「浦添さん。珈琲ってありますか」

いつもはあいつに入れさせているのだが、今回は仕方がないか。

「台所の上のにあるはずだよ」

「ありがとうございます」

薬缶に水を注ぎ焜炉に火を付け沸騰を待っている間に上の棚にあるという珈琲豆を取るため棚を開けた。

「チッ……」

思わず舌打ちが漏れてしまったが訂正するつもりは無い。

棚を開け目に見えたのは珈琲豆ではなくインスタントコーヒーだったのだ。こんな珈琲崩れを飲むために上機嫌でお湯を沸かしていたのが腹立たしい。

だが天と地程の差があるとはいえ珈琲は珈琲。脳が血液が細胞が珈琲を求めている。ふむ……飲むしかないのか。

俺は仕方なく、やむなしにインスタントコーヒーを飲むことを決心した。

コップに粉を入れお湯を注ぐ。珈琲特有が薄く漂ってくる。

これだから嫌なのだ。普通だ何も美味くない珈琲だ。これを珈琲一杯だと数えたくない。だがこれも仕方がない事、時間が止まらない事と同義なのだ。

珈琲をもって目の前の椅子に座った時だった。雲谷連がゆらゆらとしたクラゲのような足取りで部屋にやってきた。

「連くん。ほらここ座って」

浦添久一が銚子古亀の横に座るよう促した。

そういえば長野原阿久津と柴島鹿嶋は何をやっているのか、まだ降りてこない。

ま、総次郎の奴を見張っていたりするのだろはう。傍から見ずとも一年前までランドセルを背負って小学校に元気に毎朝登校していた子供が現場の調査と意気込んでいるのだ。何をするか分かったもんじゃない。ここで一つ雲谷に調査の進捗でも聞いてみるか。

「雲谷さん。総次郎の奴はどんな様子でした」

「……あぁ片桐はこう言ってたいぞ、き、気持ち悪い……。確かにそうボヤいていた。そして俺も気持ちが悪い……人の死体なんてもう二度と見たくない」

ふん、死体にビビってまともに調査していなかったらどう詰ってやろうか。

「鹿嶋くんと阿久津くんは何やってるの」

三豊一二三がそう尋ねた。

「それはだな、よく分からなかったぞ、なぜなら俺はかなめ先輩を見てすぐに倒れたからだからだ」

「って、倒れたって連くん大丈夫」

浦添久一があわあわと手を動かしながら訪ねた。

「大丈夫だ、問題ない。そんな事よりやはり皆顔色が悪いな……こういう時は俺と古亀のギャグで」

「悪ぃ……今は……無理だ……」

まだ状況が飲み込めていない、か。

「そうか……」

そう言って何やら台所の方へ行き、ジャガイモを持って皆の前へ立った。

当然皆の視線が集まる。まるで舞台に立っている演者のように。

行きますそう一言つぶやき。

「ブーン、これがホントのフライドポテト」

じゃがいもを飛行機のように空中旋回させながら動き回った。

「どうだ」

やり遂げた雲谷連の顔は凱旋を祝われ、民衆に手を振られる英雄のような、そんな清々しい表情をしている。

「ダメだったようだな。」

すぐにその表情は崩れたが。

「では次に……」

まだあるのかやるのかと少し驚いたが制止が入った。

「今はそのギャグやめて。余計に嫌になる」

「済まない……先輩」

皆の表情はこの珈琲のような黒く暗く淀み、お通夜さながらな雰囲気が部屋中を漂っている。

まぁ実際お通夜と言うか前夜と言うか。

珈琲が余計に不味く感じる。退屈に珈琲を啜りながら時間が過ぎるのを待っているとププププと電話機が叫びをあげた。

恐らく警察からか。

ま、俺が出るものでもないな。

その電話を取りに行ったのは浦添久一だった。一言二言言った後に何故かこちらに手招きをしてきた。

受話器を渡され耳に当てる。

そこから聞こえてきたのは良く聴き知った今朝も聴いた不吉な声が聞こえてきた。

羽直から締め切り前、以外の連絡なんて珍しいな。

「さっき言い忘れたんですけどね、以前に私の後輩が担当してる方が居なくなったって話をしたじゃないですか」

確かに前聞いたが、どうしてそんな事を。

「あぁ、だが、よくある事だろ、逃げてるだけじゃないのか?編集おまえ達から」

「それがですね昨日その消えていた作家さんが見つかったんです」

「それはさぞ気の毒に」

「本当に気の毒ですよ、何せその作家さんかなり酷い死に方をしたらしいんですよ。それからですね……」

「その話は後にしてくれ」

「あれ、お気に召しませんでしたか、喜ぶと思ったんですけど」

こいつは俺を猟奇マニアか何かだと勘違いしているんじゃないか。

「いや、こっちもこっちで事件が起きてな、そっちで手一杯なんだ。何があったかは後で話しますよ」

「ふ、ちょっと、雑に死亡フラグ立てないでくださいよ、ハハハハ……」

何笑ってんだこいつ。

「そうだ、羽直さん昼過ぎくらいにそっちに一度行きますから、それまでそこで待機していてください」

「良いですけど、夜行先生の方の事件とやらは、それまでに終わりそうで?そんな時間ないですけど」

「大丈夫ですよ帰りは足元を気にして帰りましょう」

「そうですか、では。私は今から一風呂入ってくるので暫くは電話に出れませんが何かあれば女将に伝えておいてください」

電話はそこで切れた。

誰のおかげで行けたと思っているのか。ま、水周りは奴から聞けば良いか。

「誰……だったの」

「ただの知り合いですよ」

溜息をつきながら元いた場所に座りながら珈琲モドキを啜る。

ま、気長に待つか。

………………………………………………

はぁ……困ったよ、まじ困った。

冬至にあぁ言われて来たけど階段のラスト一段が上がれねぇ、つか本当にもう死体なんか見たくない。今からでも帰って……。

嫌な想像が頭をよぎっちまう。

ダメだ目を瞑らなくてもあいつに詰られる姿が想像できちまう。

はぁ……全く乗り気じゃねぇけど行くしかないかよな。

進む事を拒んでいた足に無理やり力を入れて最後の一歩を踏み越え、部屋の方へ行くと部屋の前に阿久津さんと鹿嶋さんがいた。

扉は閉められている。

見ると阿久津さんと目が合った。

「片桐くんどうしたんだ」

「いやぁ〜それが……」

パッと見完全に自殺っぽかったし、なんて言や良いんだよ。

「自殺じゃないかもしれないんすよねぇ……」

沈黙に沈黙を重ねた沈黙。

二人の顔は凄く驚いてる。だよな遺書もあったらしいし、だけどあいつが言うって事はそれなりの証拠がある。流石にからかってるわけじゃないと思う。

そう信じたい……。

「それを調べに来たんすけど、いいっすかね」

いつもは勝手に調べて証拠叩きつける感じだけど、こう事件現場に居られるとそれもできないんだよなぁ。

「自殺じゃないって、どういう事?」

「俺も見たが自殺にしか見えなかったぞ」

二人がそんなことを聞いてきた。

何も言わねぇで入れる雰囲気じゃあねぇな。

入れなかったなんて意地悪大魔神《冬至》に言ったら現場が一つ増えかねねぇから。ここは、はったりの一つでも効かせるか。

「それじゃあ自殺では無い証拠をお見せしましょう!」

そう言いながらドアを開く。

こう言うのは言ったもん勝ちだ!。

……。

後悔だ……階段で覚悟はしていたつもりだったけど……後悔だ。一瞬で目を逸らしたけど見ちまった、これから調査しようってのに見ちまったってのは如何なものかと思うが見ちまったんだ。ダメかもしれないドアは驚く程軽かったけど部屋に入る一歩が踏み出せねぇ。

「どうした」

後ろからそんな阿久津さんの声が聞こえた。

やばい早くしないと怪しまれる……だけど怖ぇ……。

今ここを引き返して冬至に詰られる責められる怖さか目の前のこの恐怖に立ち向かうか怖さか……。

それを考えるだけで自然と足が前へと出た。

「なんでもないっスよ」

今までされてきた所業を考えると自然な事かもしれない。河豚の毒を舐めさせられたり、断崖絶壁から飛び降りさせられたり、砂浜に埋められて一日放置されたり。

あれ?これ訴えたら、これ勝てるんじゃね。

そんな葛藤を経て二人と一緒に部屋の中へと入る。

「それで片桐、その証拠と言うのはどこにある」

鹿嶋さんからそんなに疑問が降りかかった。

そうだよ、まだなんも見つけねぇじゃん。つかなんも調べてねぇからなんか見つけてるわけねぇんだわ。どうしよ。とりま遺体だよなあいつの言う通り他殺なら何かあるはずだよな。

うん。

「まぁ少し待っててください」

そう言ってプラプラと足を浮かしているかなめさんの方へと行く。

足元から膝へ膝から腰へと視点を上げていき残るところは肩から上のみ。

はぁ……覚悟は決めたはずだ。

ここでうだうだやるのも流石にくどいぞ片桐総次郎。お前は探偵だろ。気合いを入れてちゃんと見ろ。

視点を更に上へと上げるキュッと絞め上がりその上を仄かな青に染めているかなめさんの顔が見えた。酷く苦しんだような表情だ。

ここまで来たら大丈夫、大丈夫だ。

少し……少しだけど慣れてきた。

二人の様子が気になり振り返ってみると、二人とも顔を背けている。

やっぱり友達のこんな姿見たくないよな。本当に他殺ならまだ事件にもなってない、この事件早く終わらせてあげないと。

首元を見るために横にある椅子に立つ。

うっ……。

死臭つーのかな嗅ぐだけで嫌な気持ちになりやがる。なるべく口で息をしよう。そう誓って首を見る。

死因は窒息死かな。頭には目立った傷は無いし首吊りだし……ん?何だこの跡、今首を絞めてる紐と違う。もっと太い何か。

この太い方の何か見覚えある気がすんだけど、なんだっけな。どっかで見たんだよどっかで。んん〜分からん保留!。他に何か首には……。

よく首元を見てみると引っ掻き傷のような痕がある。

この傷新しいな、まだカサブタもできてねぇ。

他殺だとするなら誰かと取っ組みあった時にできたってのが考えやすいか?。

「おい。片桐まさか証拠なんて無くて単純に探偵とやらの好奇心で調べてる訳じゃないよな」

後ろから鹿嶋さんの人を疑ったような声が聞こえてくる。

そうだよな、疑われてもしょうがねぇよな。まだ全然調べてないからわっかんね。

「あ、あとちょっと待ってください」

あと一箇所二箇所は無理くり調べられるかな。まぁ無難に残りの上半身と下半身か。

視線を首から下へと落としながら注意深く見ていく。胸に目立った傷は無い。もちろん刺傷なんてもってのほか至って綺麗だ体の方に触れて分かったが暖かい部屋に暖房がつきっぱなし、だからだろうか。

腕をから下へと見ていく。

鍛えてるって言うだけ結構ムキムキな腕だな、それになんか変な痣がある。例えるなら犬の顔みたいな?近くに三つ痣があって鼻と目に見える。腕を通り手首へ。昨日も見せてもらったけどすっげぇ時計だなキッラキラしてる。少し視線を落とし。手のひらを見る。普通の手だ爪も整えられてて俺よりちゃんとしてる。上半身はこんなもんか。

ベルトはキッチリ閉まってて特にこれといった変なところもない。次はどこを調べ……。

「片桐くんそろそろ」

「おい、片桐いい加減答えたらどうなんだ」

鹿嶋のこの感じからしてこれ以上時間稼ぐの無理か、まだ少し調べたかったけど。ま、この数々の難事件、怪事件、未解決事件を解決してきた俺には少々いや大々簡単すぎたな。

「鹿嶋さん阿久津さんここを見てください」

二人をこっちまで手招きして首元を見せる。

「今首を絞めてる紐と全然違う跡がもう一つ着いてるんすよ」

それを見た鹿嶋さんは冷静な口調でこう言った。

「これ一回別の紐で失敗した時の跡じゃないのか」

鹿嶋さんがそんな事を呟いた。

「確かに、そうだな」

確かに……ってそれだけを見たら思うかもしれない。が、名探偵片桐総次郎にはもう一つ切れるカードがある。

「よく見てください。首に引っ掻かれた傷があるはずです。多分すけ後ろから何かで首を絞められた時にもがいて首を引っ掻いた時についた跡じゃないっすかね」

鹿嶋さんは一瞬納得したような顔をしたがすぐにいつもの顔に戻った。

「阿久津こいつあの事知らないのか?」

「そういえば言っていなかったな」

あの事?あの事ってなんだ?。そういえば冬至の奴がなんか言ってた気がするけどなんだっけ。

優しく諭す様な口調でこう言ってきた。

「この部屋に入った時覚えてるかな」

えぇと確かドアが開かないとかで無理やり開いて、その時飛び散った破片がまだその辺に転がってるし。

軽く頷くのを見て阿久津さんは話を続けた。

「窓の鍵も閉まっていたんだ。だから誰もここから出る事は出来なかったんだよ」

ん?ようは密室?。

「あ!」

普通に飛んでた一階であいつに言われたじゃん。密室殺人だって。と、とりあえず自分の目でも確認しよう。

窓の方まで行き窓を開こうとするがガタガタなるだけで開かない。鍵を開けて下に足跡が残っていないか見てみても。もちろん何も残っていない。え、マジじゃん。

「でもなら首の傷と首の痕は」

「自分で首を吊るとしても辛い物じゃないか」

言葉が漏れていたようでそれを聞いた鹿嶋が言ってきた。

確かに鹿嶋さんの言う通りかもしれない。

廊下の方からドタドタとすごい音がして振り返ったら連さんが立っていた。

目を丸々に見開いたと思ったらその場に倒れた。

「え?……」

一瞬思考が停止したがどこか打ってないか心配だ急いで駆け寄った。

肩を抱えて揺らしながら名前を呼ぶ。

「大丈夫ですか連さん」

「……ん……あぁ……たしか俺は……そうだ先輩は本当に」

顔を上げて部屋の方を覗いて苦虫を噛んだような顔をした。

「大丈夫か連くん」

「はい……」

鹿嶋さんと阿久津さんが部屋から出て鹿嶋さんが扉を閉めた。

「まぁ分かったろ片桐あいつはもう眠らせてやれ」

「そうっすよね……」

まぁ遺体は調べたし調べたこと言ったらあいつも許してくれるか。

「片桐。そういえば夜行から伝言を頼まれている」

「伝言?」

「謎を解き終える前に俺に顔を見せてみろ。毎夜毎夜、例えお前が輪廻転生したとしても枕元で嫌味、恨みを囁き続けてやる。と言ってくれと言われている」

逃げれないじゃん。てかもう全部解いたんだってもう残ってる謎なんて………一つ残ってた……。諦める理由を奪われた!クソ!。

蓮さんを立たせてもう一回部屋に入ろうとしたら柴島さんに止められた。

「まだ調べたい事があるのか。探偵ごっこはいい加減に」

「すいません……」

良い逃げをするように部屋まで帰った。

本当にすいません。謝罪の気持ちを胸に秘めながら隣の部屋を見る。

壁を伝って向こうに行けないか見てみると、窓の上の方に人差し指の第一関節くらいの、でっぱりが壁にくっ付いているのが見えた。

こんくらいなら行けるかな。

雪が積もってて滑りそうになったけど日々日頃の冬至からの悪魔的で犯罪的な意地悪で鍛えられている俺の体はこのぐらい造作もないのであった。

やっぱり俺が窓を開けてから誰も閉めてない。

外の出っ張ってる装飾のとこを通って隣の部屋に行くことに成功した。

柴島さん、本当にすいません。

あんまり物音立てちゃ気づかれっから静か〜にしねぇと。

密室の方はまだ自殺か他殺か分かんねぇからそこは保留しとくとして。首の痕あれが妙に引っかかる。どっかで見た気が済んだけどなんだったか。

俺はとりあえずまだ調べていない部屋全体に目を向けた。

さっきはかなめさんにしか目が行かなくて分からなかったけど、この部屋昨日こんな綺麗だったっけ。埃もあんまりないし、争った痕跡も無い。なんだ?ますます分からん。犯人が居るって想定で考えるなら犯人が綺麗にしたのか?。つかここはなんで濡れてんだ?水こぼしたんかな。

んん〜証拠だ証拠、証拠無しには始まらん。

机から調べようと見ると何やらノートが置いてある。

これが言ってた遺書って奴か、えぇと内容はっと。

死ぬ事にしました。

突然の事で驚かせてごめん。

借金で首が回らなくなって、毎日毎日取り立てに怯えて、そんな生活が惨めになって、嫌になって、死にたくなって、ここに来たら何か気持ちも変わると思ったけど、何も変わりませんでした。

お父さんお母さんごめん。皆本当に驚かせてごめん。

特に変なとこないけど新しく買ったって言う時計も借金して買ったんかな。そんだけ時計が好きだったんか。

引き出しの方はなんかあんのかな。

ゆっくりと音を立てないようにゆっくりと引き出しを引く。

中は正にもぬけの殻と言った感じで何も無い。

次は……引き出しを閉めて次どこを調べるか考えるためもう一度部屋全体を見回す。

あれは、まだ調べてなかったな。

そう思いながらベットの横に置いてあるバックを見に行く。

かなめさんの荷物だよな?部屋にあるし。

中身は……至って普通だ服に財布。これはスキー用のゴーグルかな。他にはタオルとか歯磨きセットとか旅行セットって感じだな。

ベットの下わっと。流石になんもねぇか。

そこからクローゼット、風呂場色々調べたが何も出なかった。やっぱり見当たらない。こんなそそくさそそくさ泥棒みたいに調べたのはある物を見つけるためだったんだけど、それがねぇんだよな。

鹿嶋さんの言う通り一回首吊るのミスったなら、そのミスった縄がどこかにあると思ったんだけど。見当たらねぇ。うーんそれにあの痕どっかで見たんだよなんだったったけ。ベロの上まで出てきてんだけどな。

確か冬至に小説のネタでやられた奴で……その小説の被害者も首を絞められて。凶器は……あ!ベルトだベルトで絞め殺して元あった被害者のズボンに戻した。

てことはあの首の後はベルトの。じゃ凶器が見つからねぇって事は今かなめさんが、つけてるベルトが?。

一応確認してみよう。

カチャガチャとベルトを外す。

よしっと。少し抵抗感はあったがまぁ問題なしだ。

もう一度、椅子に立ち首元を見る。

うっ……さっきより臭いが酷くなってる気がする。暖房のせいで腐るんが早くなってんのかな。

ベルトと首の痕を見比べてみる。よく分かんねぇな。う〜ん大分気が引けるけど、確かめてみるか。

ベルトを首に巻く。

ピッタリだ。首を吊るってなっても自分のベルトで吊ろうと思わないよな……じゃあ犯人は本当にこれで締めてスボンに戻したのか。

気になってた痕の事は分かったし早く戻そ。

ベルトを戻そうとスボンにを見ると下りている。ベルト取っちまったからか、あ?なんでパンツ逆なんだ。履き間違えたのかな。まぁいいや。

あとはな〜んで密室だったか証明出来れば完璧だぜ。だけど部屋ん中ほとんど調べ尽くしちまったんだよな。どうすっかな……。

おーい片桐くん!。

!?へ、阿久津さん!。

声は扉の方から聞こえた。

え、俺がいることバレた?なんで?騒がしくしすぎた??。

大丈夫かい。

だけど少しおかしい事に気づいた。声は扉の方からではなく、どっちかと言うと廊下それも声もこの部屋の前に居るんだとしたら、少し小さいような。

おーい。

つかこの声俺の部屋の方から聞こえてね?。

部屋の鍵って……閉めてないじゃん!。

急いで窓の方へ行き、焦る気持ちと出っ張りを必死に押えて部屋まで死ぬ気で帰る。

まずい急げ急げ急げ急げ。

何とか落ちないで窓の前まで来られた後は部屋に入るだけだ。

ドアの方を見て着きかけたため息を飲み込んだ。ドアノブが回るのが見えたからだ。

窓の縁を蹴って部屋の中へとダイブした。

「返事が無いから開けたんだけど……そんな床で何してるの?」

表を上げると阿久津さんが立っていた。

あっぶねぇ〜あとちょい遅かったらマジやばかった。

「ちょ、ちょっと腕立て伏せをしてたんすよ」

「そっか、心配したよ。もしかしたら片桐くんもって」

「あははは。大丈夫っすよ」

「それじゃ、邪魔してごめんね」

そう言ってドアを閉めてくれた。

指痛ぇしこっちに飛ぶ時に肘打ったし。はぁ〜疲れた。

?なんかベットの下に落ちてる。

冬至が寝ていたベットの下の奥の方に紙?見たいなのがある。下に体を体を突っ込んで紙を取る。

それは紙ではなく写真。それも男女が裸で抱き合ってる所のだ。両方とも顔は打ってないけど。この男の腕の痣って……。女の人は長い黒髪だ寝っ転がってて分かんないけど腰くらいまで多分ある。この写真ってあの人のだよな?。

結局、密室の謎も犯人もまだ分かってねぇんだよな。外に足音も無かったから外部犯はねぇし。いやあったとしても吹雪で消されてるか。……吹雪?吹雪、吹雪。もしかして。

部屋を出る廊下にはまだ阿久津さんと鹿島さんがいた。

「阿久津さん。昨日全員がどの部屋に泊まったか教えてくれませんか」

……………………………………………………

珈琲を飲んでいると浦添久一が喋りかけてきた。

「あのちょっといいかな」

「なんですか?」

「夜行くんさっき夜行くん犯人が自白するって言ってたけどもう犯人夜行くんってもう犯人分かってるの?」

「なんとも言えません。まぁあと少し待てば全てが明らかになりますよ」

「そ、そう」

それからしばらくすると部屋に総次郎と長野原阿久津、柴島鹿嶋がやってきた。

総次郎の表情は暗い。奴の表情から考えてこの部屋を調べに来たと言う感じでもない。調査が終わったと見るべきだろう。

「さ、探偵お前の推理を聞こうか」

そう総次郎に声をかけたが何も返ってこない。俯いているだけだ。

「どうした、まさか分からなかったとでも言うつもりか。そんな事を口に出してみろ……」

「分かったから……嫌なんだよ、本当にこの中に犯人がいるって」

呟いたように言ったその言葉だが静まり返っていた部屋に響くには十分すぎる程だった。

「……どういう事だよ、この中に犯人がいるって、かなめ先輩は自殺じゃないのか、どいうことだ」

うっかりだな銚子古亀にその事を伝えていなかったな。

まぁ良いか。

「あ、いや……」

総次郎は言葉を濁し答えなかった。

はぁ……この事件ならこうもなるか。ま、俺もそろそろ仕事をしなくてはな。

「どういう事でもありませんよ。柏かなめは殺された、この中の誰かに。その真相にこの総次郎《探偵》は気づいたと言ったんです」

バカは阿呆顔で何言ってのっと言う顔をしているが、そんなのどうでもいい。

「それでは皆さん。どうか聞いてはやってはくれないでしょうか探偵の推理を」

皆の視線が総次郎に集まっている。

こっちまで来て総次郎が耳打ちをしてきた。

「おい、どうしてくれんだよ」

「今の俺は探偵コンサルだ場は整えてやったぞ、あとはお前次第だ。ま、精々見せてくれよ、壮大にコケる姿を、ははは」

総次郎は皆と向き合い。

「とりあえず事件現場に行くんで着いてきてください」

一階から三階に行く間に雲谷連が銚子古亀に現状を説明していた。

先頭の総次郎が扉を開け部屋の中へと入ったそれに続いて柴島鹿嶋と長野原阿久津が部屋に入る。だがその後ろにいた銚子古亀の足が止まった。まだこいつは話だけで見るのは初めてだから仕方がないか。その場にしゃがみこんで閉まった。

「通るぞ」

それだけ言って三豊一二三は部屋の中へ入った。俺もそれに続く形で部屋に入る。

結局部屋の中に入れたのは五人。他の奴らは外で話だけを聞くらしい。

まぁ誰も昨日まで生きてた奴の死体なぞ見たくは無い。

「それでこんな所で何をするん」

未だ宙に揺れる死体を見ながらそう言う三豊一二三。

「まずはこれが自殺じゃなくて他殺だって証明から」

「それって首の奴のことか、それはでも違うって自分が言っていただろ」

「それを踏まえた上で新しく気づいた事があったんす」

総次郎は柏かなめのベルトを外して皆に見せた。

「二人にはさっき言ったんすけど、かなめさんの首には二つ跡があったんす」

ふん、そこには気づいたようだな。

三豊一二三が二人に問いかけた。

「それ本当なんか」

二人は首を縦に振る。

「これを見てほしいんす」

総次郎は首にベルトを巻きそう言った。

三豊一二三、柴島鹿嶋、長野原阿久津はそれを聞いて首元を覗き込んだ。

「分かりずらいかもしれないっすけど形がピッタリ合うんすよ。自分が首吊るってなって、まず最初に自分の履いてるズボンのベルトで吊ろうと思います?それに首の引っかき傷抵抗した時に着いたんじゃないかって」

この推理を聞いて全員もしかし本当に犯人が人殺しが居るんじゃないかとか思っているんだろうか。

「だけど密室はどうやって説明するって言うんだ。あんたも自分の目で見たでしょ鍵が閉まってるの。だからドアを壊して」

声を荒らげそう言う三豊一二三。

「一二三の言う通りだ、俺も確認したが窓も扉の鍵も閉まっていた。それは阿久津もお前の連れの夜行も見ていたはずだぞ」

確かに二つとも鍵は閉まっていた。

「そうですね確かに閉まっていました。一体この密室がどういう仕組みなのか探偵の口から直接聞きたいものですね」

総次郎からの熱い視線は感じるが窓が開け放たれているこの部屋ではちょうどいいくらいだ。

「誰か頑丈で長さもそこそこあるロープを持ってる人っていますか」

その問にある者は手を挙げある者は声を上げある者は首を縦に振った。方法は違えど全員が持っている。とそう言っているんだ。

それを見た総次郎はどこか驚いたような表情で言葉を続けた。

「じゃ、じゃあ誰か一つ持ってきてください」

「俺が取ってくる。少し待っててくれ」

雲谷連に抱えられていた銚子古亀がそう言い取りに行った。

酷く覚束無い足取りだったな。まぁ、物の場所は分かっているだろうし、時間はかからんだろうな。

部屋の時計を確認する。

あと二時間も無いな、羽直にはああ言ったが、かなりギリギリになりそうだな。

少し総次郎に視線を向ける。

奴にはいつもの元気も覇気も感じられず見せる顔はどこまでも悲しげはものだ。

とことん探偵に事件解決に犯人を追い詰めるというのに向かない奴だ。今度探偵に固執する理由でも聞いてみるか。まぁどうせ漫画にでも感化されたんだろうがな。

部屋の外から声が聞こえた向くと雲谷連が登山ロープ。もう少し分かりやすく云うと柏かなめの首を括っている縄と同じ物だ。

「片桐くん。これでいいかな」

奴は「はい」っと一言。雲谷連から借りた縄を持ち窓の前に立った。

「そんじゃ、密室の方のトリックを説明します。って云ってもそんな凝ったものじゃなかったんすけどね」

そう言いながら窓から半身を出して何やら作業をしている。

どうやら建物の壁の装飾に紐を縛りつけているようだ。

柴島鹿嶋と三豊一二三は窓の方まで見に行っている。

結び終わったのか何度か縄を引っ張り強度を確認している。

「何する気なんや、自分」

「トリックの証明です。犯人はかなめさんに自殺偽装した後にこうやって紐を壁に結んだんすよ。そしてこうやって」

奴は紐を握りながら窓の外に出て外側から窓を閉めた。

窓がしまったせいで、あまり何を言っているか聞こえないが、確かに何かを言って懸垂降下を始めた。

「柴島さんあいつはなんて言ってました」

柴島鹿嶋に尋ねてみることにした。

「待ってろと言っていたが。だが、これじゃあ密室にならなくないか。あいつが言うようにこうして犯人が出たなら窓の鍵が閉められない。開くぞ、ほら」

そう言いながら窓を開けた。

「所詮子供の言う事ちゅうことやな」

廊下の方からドドドドドとすごい音が聞こえた。

「あれ、なんで窓開いてるんすか。開けないで欲しいって言ったじゃないですか」

ドアの方から総次郎の声が聞こえた。窓から降りて部屋まで戻ってきたようだ。

「早かったな」

「まぁ走ったからな……じゃなくてマジでなんで開けてんすか、これじゃ密室にならないじゃないっすか」

そう言いながら窓の方まで歩き窓を閉めついでに鍵も閉めた。

「これで密室の完成っす」

この頓知とも屁理屈とも取れる回答で全員のため息が聞こえたような気がした。皆の目から疑念の意思が伝わってくるのが分かる。だがそんな事に気づかず探偵はこう続ける。

「そして部屋に最初に入り窓の鍵を閉めれた、ただ一人の人物は……」

「俺がやった」

それは阿呆探偵が決めゼリフを言おうとした時だった。俺がやった。実に分かりやすく実に簡潔な自白だった。そしてその言葉の主。全員の視線、スポットライトを浴びているのは長野原阿久津その人だ。

「なに……言ってん……」

「かなめを殺したのは俺だ」

その言葉からは断固たる意思感をじた。

「どういう事だよ!!」

驚愕と静寂の部屋に柴島鹿嶋の怒鳴り声が寂しく響く。

「片桐くんの言った事は全部あってるよ。俺が殺して自殺偽装をして部屋も密室にした。流石は探偵だ」

驚く程、爽やかに普段通りに告げられる犯人からの事件の真相を炙り出した探偵でさえ少し驚いていた。

そんな中一人の男が近づいていく。柴島鹿嶋だ。

「本当……なんだな」

震えながら放たれた言葉に、握られた拳には一体何が詰まっているのか。

「あぁ」

長野原阿久津は吹き飛んだ軽く二メートルは。

「なに!何やってんだよ!お前!バッカじゃねぇの、内定は!昔から行きたがってた会社に受かったって喜んでたじゃねぇか。なんで、なんで……なんだよぉ……」

「済まない……」

ま、こんなものか、十二分に楽しめた。

「あぁ、そうだったお前から預かってた、これは結局なんだったんだ?」

柏かなめが握っていた指輪を総次郎に投げ渡す。

「え?お前になんか預かってたっけ……ってこれあれじゃん。お前まだ返してなかったんかよ」

「何を言うんだ。それはお前が柏さんが後生大事に握っていた物を奪い取って俺に預けさせた物じゃだろ?」

「嫌な言い方するなよ。つかそんなもん渡してな……」

気づいたようだな。ま、それを見て気づかんほど鈍くはないか。

「俺ちょっと調べたい事できたわ……ここはお前に任せっから」

そう言って総次郎は部屋を出て柏かなめのちょうど真下に位置する部屋まで来た。

「あのさ……なんでお前来てんの、任せたって言ったじゃん。聞こえんかったん?」

「お前の命令を聞くくらいなら今ここで首を括ってやる」

「自殺するくらい俺の頼み事聞きたくないのかよ」

「貴様のな!」

「俺のかよ!」

「ほら、戯言言ってないでさっさと入るぞ」

鍵の閉まっていない扉はすらりと開いた。

ま、構造的にこう変わったところは無いな。柏かなめの部屋と机の位置から戸棚の位置までまるっきり同じだ。

総次郎は入るなり窓の方へ行き窓を開け外を見上げた。

「冬至、さっきの縄もう一個借りてきてもらえるか」

「断る。さっきの問答をもう覚えてないのか。頭か耳が腐ってるんじゃないか?。全身が腐り切る前に自ら火葬した方がいいぞ。世のため人のため、そして何より俺のために」

それを聞くなり声を張上げ云った。

「だからなんでさっきから殺したがりなんだよ!俺の事嫌いなん」

驚いたな、こいつの能天気にも程がある。

「お前……何を今更、当たり前だろ」

「うぇ!?」

鶏が首を掴まれたような声を出しながら、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。

これをほっといても良いが今は時間があまりない。お遊びもこの程度にしてやるか。

「ま、今のは冗談だ」

少し慰めの言葉を送るとみるみるうちに口角が上がりその上がりに上がった口でこう云った。

「も〜う冬至ったら照れ隠しが下手なんだからァ」

よく分からないオネエ口調でこっちにうねうねと擦り寄ってくる。

「気持ち悪い!近寄るな!」

俺と肩に手を置くと以上に口角の挙がった気持ち悪い顔で「じゃあ俺借りてくるから待っててなぁ〜」と云って俺の横を通りすぎて部屋を出ていった。

はぁ少し優しくすると付け上がる、全く面倒のくさい。

ベットに座るのは少々気が引ける。そう思い机の横にある椅子に座ることにした。

ここからだと窓の外がよく見える、晴れ渡っている空には巻雲が出ている。

俺の視界に垂れている二つの糸は果たしてどこから伸びているのかな。

数分外を眺めていると部屋の外からドタドタと騒がしい音が聞こえてきた。

音の主は勿論バカ探偵だ。

「借りてきたぜ!」

いつもの様にうるさい声だ。

「そうか、なら俺は皆の所に戻るぞ、流石のバカで間抜けで愚鈍なお前にもトリックの全容がはっきりと見えてきただろ?」

そう云うと少し悲しげな声で「あぁ」と返してきた。それを聞いて部屋を出ようとした時総次郎に呼び止められた。

「全員ダイニングで休んでるから…………出来れば柏さんの部屋に全員集めて欲しいんだけど〜良い?」

眉を寄せこちらの顔色を伺うような表情で云ってきた。

「良いぞ、それくらいはしてやる」

驚いた表情で。

「え!?なに、なんの心境の変化!親になった?」

「ま、貴様が事件を盛大に読み違える所を見れたからな、俺としてはそこから後は蛇足と言う奴だ」

「探偵の台詞かよ」

「俺は探偵じゃない作家だ」

「推理作家だろ?ほとんど変わんねぇーじゃん」

バカがっと言い残し一階のダイニングへと向かった。付くとそこには——柴島鹿嶋に殴られた顔を腫らした長野原阿久を取り囲み各々が疑問質問を投げつけていた。

「あの皆さん総次郎の奴から話があるそうなので着いてきて貰えませんか」

そういうと柴島鹿嶋が。

「あとにしてくれ……」

その一人の言葉が全員の総意のように誰一人として動こうとしなかった。

ま、当たり前か、犯人は自白し事件は終わった——と思い込んでいるのだから。

「皆さん、もしかしたら長野原さんは犯人じゃないかもしれないですよ」

顔を伏せ下を向いていた長野原阿久津もこっちを見つめてきた。

一瞬の静寂を破ったのは銚子古亀だった。

「どどどど、どういうコとだよ」

「知りたいのなら着いてきてください」

そう云ってその場を後にし柏かなめの部屋まで来た。

多少強引気味だったが、全員が足を運んでくれた、着くなりそうそう三豊一二三が口を開いた。

「で、教えろや阿久津の奴が犯人ちゃうって話」

だがこの部屋に今肝心な男が居ない、まだちんたらやっているのか——いやいい機会だな。

「この密室には明らかに一つ可笑しな点がある、皆さんどこだか分かりますか、分からないのなら窓の方を見てください」

そう言いながら窓の方を見ると真ん中に一本線が、総次郎が犯人が密室を作るために使った縄が見える。

「柏さんを見つけた時にあんなものありました?」

皆、長野原阿久津の衝撃で気づかなかったのだろう。等の長野原阿久津は下を俯き表情はいまいち読めない。

「ど、どういうことやちゃんと説明……」

「こっからは俺が説明しますよ」

窓の外から声が聞こえた、縄を伝って下から登ってきたようだ。奴は縄に何かを施してから部屋へと入ってきた、そして俺になにやら耳打ちをしてきた。

「それで、話ししてたん」

「お前、話聞いてなかったのか」

「いやさ一二三さんのやつだけ聞こえてさ、ああやって登場かっこいいかなってかっこよかったろ」

とことん呆れた奴だ、ま、いい。

「密室の可笑しさについて話した所だ」

「え、密室におかしなとこある?」

「チッ、縄の事だバカ」

そう言いながら総次郎のことを押し皆の前に立たせる、これで否が応でも話を進めるだろうと。

一同の視線が総次郎に向けられる、コホンと一息ついて話し出した。

「冬至から聞いてると思うっすけど、さっき俺が云った方法じゃあの縄が回収できないんす、縄を部屋で回収したら落っこちちゃうし外で回収しても下に降りれませんから、そこでどうやって回収したのか今からするんで見ててください」

そう言って窓の方へ向かうと外へ出て上から垂れている縄を体に巻付け始めた。

「片桐は何をやってるんだ」

柴島鹿嶋はそんな事を聞いてきた、ここで俺が種明かしをするのはよすとしよう。

「さぁ、まぁ見ていたら分かるんじゃないですか」

ふうん、とどこか不満気味な雰囲気を多少感じたがそこには目を瞑っておくことにしよう。

体に巻き終えた総次郎は縄を固定していた結び目を解き飛び降りた。

一同は驚きを隠せず隠す気などなかったのかもしれないが、声を出し顔からも見て取れる。

雪が積もってるとはいえ、この高さ、落ちたら一溜りもない最低でも骨折は免れないだろう。

柴島鹿嶋が窓に駆け寄り外を見下ろす、するとある言葉を漏らしたまるで息でも吐くかのように。

「どこ行った?」

それを聞いて三豊一二三が窓の外を見る。

「ほんまや、いいひん、どこ行ったんやあいつ」

ふん、そろそろか——その時部屋の入口から総次郎が入ってきた。

それを見た三豊一二三は駆け寄り奴の方を揺すりながら問いただしている。

「どういうトリックなんや早く教えろや」

「あぁ……はい、こっちのトリックも分かれば簡単なんすけどね、この下の部屋の窓の上にも紐を結んでおくんす、それを持った状態で取り降りたら短いバンジージャンプみたいになるんすよ、そん後窓から下の部屋に入ったらと足跡もついでに残んないっす、このトリックをするにはある人物のこの部屋の下の人の協力がないと出来ない、そしてその部屋の人物とは久一さんあなたです」

総次郎がトリックの説明を始めた最初の方で何人かは薄々勘づいていたかもしれない。

長野原阿久津が否定の声を上げる——のを遮るように俺は言う。

「探偵、その推理には一つ謎が残ってる、なぜ浦添久一は長野原阿久津に協力した?、脅されていたから、いや違うそうなのであれば長野原が自白した時点で脅されていたと言えば済んだ話だ、脅されていないのだとしたらなぜ浦添は長野原に協力をしたこれが証明できなければお前の推理はただの戯言に過ぎないぞ」

そういうと総次郎は口を食いしばり、ズボンのポケットから何かを出し言った。

「……それは久一さんと阿久津さんが付き合っていたからなんです」

奴が一同の前に突き出しているのはあの二つの指輪だ。

「久一のか?」

三豊一二三が言った。

「なんで自分が持っとるんや」

「これは久一さんと阿久津さんの物っす一つはさっき阿久津さんの部屋から撮ってきたっす、もう一つはかなめさんが握ってたっす、そしてこの指輪の内側を見てくださいAKのイニシャルが刻まれてるんすこれは阿久津さんと久一さんを指してるんす」

そして一呼吸置きこう言った。

「阿久津さん久一さん。どうしてかなめさんを殺したんすか」

その問いかけと共に長野原阿久津、浦添久一の方を見る。

長野原阿久津は唇を食いしばり浦添久一は過呼吸気味に方を震わせている。

「本当なんですか先輩」

「……………」

「応えろや久一お前もなんやったんか、どうしてや」

そんな誰の問いかけにも答えようとはしなかった。

「総次郎、説明してやれ」

ま、こうなったら探偵に話を進ませるのが丸い。

「え?え……と」

こいつ動機にまでたどり着いてなかったのか名実共に名ばかり探偵だな、ま、手を貸してやるか。

「お前調査中に何か燃えるものを見つけなかったか例えばし写真とか」

「んえ、なんで持ってんの知ってるの、だけどあれ、多分かなめさんのだぜ?」

「見せてみろ」

総次郎がポケットから写真を出したのとほぼ同時に浦添久一が泣き出した、それを見てか黙りだった長野原阿久津が口を開く。俺は写真に一度目を通し話を聞いた。

「そうだ俺たちがやった、だから……あれは出さないでやってくれ、警察には全部話す、だからみんなには……」

「ん?」

総次郎はいまいち掴めないという顔をしている。

こいつらには悪いが探偵とは無神経に事件に首を突っ込み、無鉄砲に犯人を吊るし上げる、そんな者だ。

「総次郎、柏が指輪を持っていた理由を皆に説明してやってくれ、皆期待しているぞ」

しばらく一、二分がすぎた頃だった、息でも吐くかのように、「そうか……」と。近くに居た俺にやっと聴こえるかの声量で、息でも吐くかのように言った。

呟いた総次郎はこいつは涙袋に水を貯め泣きそうな顔でこちらを見てくるのを無視して話を進める。

「ま、そろそろ皆も気になっているだろう、焦らさずに言ったら……」

「ちょっと全員席外してくんないっすかね阿久津さん達と話したくて」

はぁ……とことん甘い家主貞良よりも甘い、毎度のことだがなぜ探偵をやっているのか分からない。

「ふん、好きにしろ、俺は何もしないからな」

「分かってるって」

呆気に取られている霧谷連らを部屋に残し、荷支度をしに部屋へと戻った。

それからしばらくして部屋の扉が生きようよく開いただ——そこには銚子古亀が立っていた。

「夜行くんも言ってやってくれないか」

「犯人らと鼎談するのならば好きにやらせればいいですよ、物語《事件》は終わったんですから、これからは単なる後書きみたいなものです、銚子さんが心配しているような事は起こりませんよ」

「……そうか、悪かったね支度の邪魔して」

そう言って部屋を出ていった。

個人的にはあと一二悶着起きてくれた方が面白いが残念ながらそんな事は起きず、警察に連行される二人を横目に俺達も山荘を出たのが一時間前。

この果ての無いと思えるほど長い階段を登れば目的の旅館に着く。

そう言えばアレをこいつ自身から聞いていなかったな。

「総次郎、暇つぶしがてらに聞いてやる、犯行動機それから事件の大まかな流れを聞かせてもらおうか、外したら突き落とすからな」

「俺が外すなんて空からモグラが降ってくるくらい有り得ねぇから」

それを聞いて懐から傘を取り出しさした。

「何やってんだ?」

「何って土竜が降ってきたら危ないだろうが」

「なんで間違える前提なんだよ!まぁいいぜ聞くがいいぞ名探偵片桐総次郎の名推理、語り上手な名探偵片桐、あぁここに見参!」

総次郎は聞きかじったような歌舞伎口調で意味の分からん口上を口にしていた。

「バカがいつまでバカな頭でバカなことを考えてバカな口でバカな事を言うつもりだバカ」

「な、さらっと五回も俺の事バカって言ったぞこいつ」

「それは誤解だろ」

「……お前にしてはつまんないギャグだな」

「……いいから話せ!次余計な事を口走ってみろ、あと一歩で登りきるという所でお前を突き落とすからな!」

「殺意の塊!?」

そういうと焦ったように語り出した。

「まずは事件現場だ事件現場は多分と言うか確実に久一さんの部屋だと思う」

聞き流すのは少々不憫に思えた、だから少しの相槌は返してやる事にした。

「ほうそれはどうして」

「久一さんの指輪を持ってたってことは絶対に久一さんはかなめさんと死ぬ直前に会ってんだよ。それから久一さんの部屋で揉めあって、物音で気づいたのか彼氏の勘って奴で気づいたのか阿久津さんが気づいて助けに行ってそこやり過ぎて……」

「殺ったと言う訳だな」

「おん、そん後はかなめさんの部屋に運んで、あとは前に説明した通りにやったって感じだな。ま、百点満点中……」

全く呆れた。

「零点だ評価するだけありがたいと思え」

「なんでさ!」

「説明が下手聞くのが苦痛でしか無かったぞ、探偵ならもっとスラスラと物事を順序だてて喋れるようになれ」

「まぁあ!?そんな下手なん、こんど演劇部の奴に教わり行ってくっかな。他のダメだった部分はどこよ、どうせ他にも難癖つけてくんだろ

「まぁな、つけられたくないのならそれだけの推理を作家《俺》に聞かせる事だ」

「で……なんなんだよ」

「動機だお前の推理にはポッカリと動機に関する話が抜けてる。敢えてだろうとバカだろうと探偵としては四流以下だ」

「………」

総次郎は黙りを決め込んでいる。鼎談でなにか約束事でもしたか。

「長野原達からは事件の全てを聞いたのか」

総次郎は軽く頷く。

ふうん、口には出せんか生意気な。

「そうだな、今から話すのは、調査やら推理やらで探偵があたふたしている間に考えた、推理作家夜行冬至のちょっとした妄想だ少し聞いてくれないか」

そう告げ話し出す。

「あの写真の女は浦添だ髪の長さ色は最近変えたらしい、なぜ柏との写真があるのかは大体予想が着く、写真はそう古いものじゃなかった、恐らく撮った時には浦添と長野原は恋仲にあっただろう、だが浮気という訳でもない、ま、色々踏まえればあれは柏が無理やり襲いその時に撮ったものだと考えるのが妥当だ、今回の事件は柏が写真を使い浦添を襲おうとした事が原因で起きたと俺は考えた、どうかな名探偵」

そう言いながら振り返る。

「どうってな……」

総次郎は口をへの字に曲げ何かを考え込むように、んーと唸りを上げ。俺が最速の意を示そうとした時だった。

「あれだわりーな、さっきも言ったけどこれに関しては俺からは言えねぇや後でニュースなり新聞なりで見てくんね?」

「ま、そうするよ」

しばらく上りやっと終わりが見えてきた。

総次郎は遊園地に来た子供のように階段を駆け上がり上りきった。俺もそれに続いていく。

見えたのは木造の建物からはその歴史と趣が感じ取れる。

これだけで来た価値はあったな。

旅館をもう少しよく見ると入口の近くに看板が置いてあるそこには廻影館かいえいかんと記載されている。関心に浸っていると総次郎が声を上げた。

「おーい修さーん」

総次郎の視線の先を見ると軒先の端で草臥れた背広身にまとい両目に隈を浮かび上がらせ煙草を吸っている羽直の姿があった。

「夜行先生に片桐くん元気そうでなによりです、では時間もあまりないですし早速回りましょうか案内なら私ができますから着いてきてください」

一頻り見て回ったその時だった館内に木霊するように女性の叫び声が響き渡ったのは。

それを聞くなり総次郎は声の方へと駆け出して行ってしまった。

はぁ……電車の時刻を少しずらす必要がありそうだ。

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