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ラリータが目を覚ますと、隣にいたはずの師匠の姿がなかった。

はっとして身を起こし、慌てて周囲を見回す。


いない。


その直後、簡易の作業台を設けた部屋の方から、忙しない物音と人の気配が伝わってきた。


「……大変!寝すぎたわ……!」


胸がひやりとして、ラリータは布団を抜け出し、部屋へと駆け込む。


そこではベールを中心に、看病にあたっていた者たちが総出で薬草をすり鉢に入れ、ひたすら細かく砕いていた。

立ち上る薬草の香りと、張り詰めた空気……戦いは、すでに再開されている。


「す、すいません!教授、私もやります!」


「ああ、起きたか。頭はすっきりしたか?」


「はい、大丈夫です。何でもやるので、言いつけてください」


ベールは一瞬だけこちらを見てから、作業台の端を指さした。


「あそこに包んである薬を、重症患者から順に飲ませてきてくれ」


視線の先には、白い紙に包まれた薬が、患者の数を上回るほど、三十以上、きちんと並べられていた。


「……もう、こんなに作ったのですね……」


「ああ。俺一人ではない。他の者にも手伝ってもらった」


「……教授は、あまり眠らなかったのですよね……」


思わず、重たい声がこぼれる。

それを聞いたベールは、すり鉢から手を離して立ち上がった。


「……いや。お前の布団のおかげで、思った以上によく眠れた」


「でも……私は、すっかり寝てしまって……」


自分だけが休んでしまったことが、胸に引っかかって離れない。


やるべきことは山ほどある。

患者に薬を届けなければならないとわかっているのに、心が沈んだまま動けずにいた。


私だけ、楽をしてしまった。


その思いを振り払えないまま、ラリータは包まれた薬を胸に抱きしめた。

ラリータの目の前に立つベールは内緒話をするようにラリータのすぐ近くで小さな声で話し出す。


「お前は……ここに来る途中……大きな声では言えないが、山賊と戦っていたのだ……俺より、ずっと疲れていたはずだ。あのまま薬を作り続けていたら、いい結果は出ない。自分が最善の状態で研究に向かうことも、薬師として大切な判断だ」


声は低く、静かだった。

叱るでも、咎めるでもない。

ただ淡々と事実を並べながら、その奥に確かな気遣いを滲ませている。


その口調に、ヘーゼルは思わず言葉を失った。


胸の奥が、きゅっと音を立てて縮む。

張りつめていたものが、急にほどけたような感覚だった。


不意に、ベールがわずかに口元を緩める。

そして、戸惑うラリータの頭に、そっと手を置いた。


「……そう、気負うな。お前はよくやっている」


「……教授……」


名を呼ぶ声が、かすかに震える。


「今日中に、この状況をなんとか安定させよう。さあ、これから忙しくなるぞ。早く、薬を患者に持って行ってやれ」


「……わ、わかりました……!」


優しく背中を押され、ラリータの緑の瞳に涙が滲む。

けれど、それを零すまいと、ぎゅっと口元を引き結んだ。


「行ってまいります!」


「ああ……頼んだ」


薬包を胸に抱き、足早に部屋を出ていくその背を、ベールは静かに見送る。

そして、何事もなかったかのように、再び作業へと戻った。


「先生と、あのお嬢さん……婚約者なのかい?」


声をかけてきたのは、薬作りを手伝ってくれている村のパン屋で働くという、恰幅のいい陽気な女性だった。にやにやとした笑みを浮かべながら、興味深そうにベールを見る。


それは、重症患者たちが一夜を越え、看護の者たちが軽口を叩けるほどに持ち直してきた、その証でもあった。


ベールは、すり鉢を動かす手を一瞬止め、少しだけ考える。

そして、小さく息を吐きながら。


「……そう、なったら……」


わずかに視線を落とし、


「……楽しいのかもしれないな……」


と、ぽつりと呟いた。

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