表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/38

27

ラリータは幼い頃から、父や母と過ごす時間よりも、辺境伯領の騎士団の騎士たちと共にいることのほうが多かった。

小さな頃から兄と並んで鍛錬に参加し、剣と汗と土の匂いの中で育ってきたのだ。


体格に合わない長剣よりも、ラリータは短剣を得意とした。

身を守る手段として、騎士団の団員たちは基礎的な技術を一つずつ、丁寧に教えてくれた。


そこで、ラリータは短剣の才能を開花させていく。


その才を見抜いた騎士団の面々は、本人の強い希望もあり、何度か討伐に密かに参加させた。

ラリータはそのたびに確かな戦果を挙げ、やがて短剣一本で五人ほどの相手ならば、難なく倒せるまでに成長した。


だが……


ラリータが学園に通うようになると、兄は「戦うことは、もうラリータのためにならない」と判断し、今後一切、騎士団の訓練に参加することを禁じた。


それから、ずっと短剣を握ることは、ほぼなくなったのだが先ほどは「どうしても教授を助けたいと思い」と勝手に体が動いた。


でも、それで教授が怒った……


ラリータはそんなことを考えて、「なにが正解だったのだろう」と悶々と考えながら着替えを素早く終わらせた。



馬車の外から、再び人が近づいてくる気配がした。

ラリータは、血のついたドレスの袖を握りしめたまま、背筋を伸ばし緊張の面持ちで座っている。


「……着替えは終わったか」


ベールから声がかかる。


「は、はい……」


馬車の扉が開き、ベールが馬車に乗り込む。

ラリータは用意していた替えのドレスに着替え、髪も簡単にまとめているが、返り血の匂いは完全には消えていない。


ベールは一瞬だけラリータを見て、すぐに視線を逸らした。


「……怪我はないな」


「ありません。かすり傷も……」


「そうか」


短く言って、ベールは腰を下ろす。

沈黙が落ちる。


ラリータは意を決して口を開いた。


「……教授。私の判断が間違っていたようで……怒らせてしまって……申し訳ございませんでした……」


ベールの肩が、わずかに揺れた。


「……怒っているんじゃない」


低い声が返る。


「……あれを見たとき、俺は……」


言葉が、そこで途切れる。


「お前が、あんなふうに斬り込んでいくのを見て……止められない自分が、一番腹が立った」


ラリータは息を呑んだ。


「俺は学者だ。今この場に剣もない。お前を面倒見ると決めて連れてきたのに、結果的に守られた」


自嘲するように、口元が歪む。


「……それが、許せなかっただけだ……」


ラリータは、そっと両手を握りしめる。


「……教授を守れたのなら、私は……」


「違う」


被せるように、ベールが言った。


「守られた事実が問題なんじゃない。……失うかもしれないと思ったことが、問題なんだ」


はっきりとした声だった。

ラリータの胸が、強く脈打つ。


「お前が傷つく可能性を考えた瞬間、自分に腹が立った……」


少し間を置いて、ベールは視線を向ける。


「今後は、俺の判断に従え。それだけは約束してくれ」


静かな命令だった。


「……はい」


小さく答えながらも、ラリータの胸には、今まで感じたことのない熱が残っていた。


馬車が再び動き出した。

二人の間には、言葉にされない何かが、確かに生まれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ