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「ラリータ、準備は整っているか?」
「はい! 教授のお荷物、すべて用意できました!」
元気よく答えるラリータに、ベールは荷物を一瞥してから眉をひそめる。
「……いや、俺のものよりも……ラリータの荷物は……これだけか?」
「はい。一泊ですし……自分のものなんて、たかが知れています。それより、薬の材料や器具のほうが大切ですから。あ、あと……」
ラリータは思い出したように付け加える。
「教授がお好きなお茶と、お菓子も持ってきました。向こうには、ないかもしれませんからね!」
「……お茶?」
「よく飲んでいらっしゃいますよね?あの、花みたいな香りのお茶です。名前は知りませんけど、茶葉を持ってきました!」
嬉しそうに笑うラリータを見て、ベールは一瞬、言葉を失った。
(……茶?菓子?……それは、そこにあったから飲んでいただけだが……それを、見ていたのか)
無意識に考え込んでしまい、返事が遅れる。
「……」
その沈黙に、ベールが何とも言えない顔でこちらを見ていることに気づき、ラリータは首を傾げた。
(あれ……違ったのかしら?到着したときも飲んでいたし、昨夜も飲んでいたけど……)
「……ああ。ありがとう。それじゃあ、行くぞ」
そう言ってベールは踵を返し、自分のために用意された護衛と馬車へと向かう。
ラリータはほっと息をつき、荷物を抱えて小走りでその後を追った。
(よかった……茶葉とお菓子、持ってきて)
教授には言っていないが、実は枕と布団も持ってきている。
病が流行っている土地と聞いている以上、ろくな宿があるとは思えない。
下手をすれば、馬車で夜を越すことになるかもしれないのだ。
(……教授が眠れないのは困るもの)
そんなことを考えながら、ベールとともに馬車に乗り込む。
もちろん、ラリータ自身の布団は、わざと持ってきていない。
布団が一つしかなければ、もしかしたら半分使っていいと言って、教授が隣に入れてくれるかもしれない……。
そんな欲望を抑えきれず、自分の布団だけを置いてきたのだ。
(我ながら、ずるいわね……)
そう思いつつも、教授と一緒にいられる時間が限られていると考えると、せめて思い出だけでも作りたいと思ってしまう。
(あら、私って意外と浅ましかったのね。でも……いいわ。一生に一度の機会だもの……)
馬車の前の席で、すでに眠っている教授をそっと眺める。
(今回の旅で、せめて気持ちだけは伝えよう。良い返事をもらえないことは、わかっているけど……)
自分も、いつまでも一人でふらふらしていられない。
父や兄のことがある。
兄が無事に家督を継げば、きっとすぐに、幼馴染で両思いのランカと結婚するだろう。
そうなれば……自分も、嫁がなければならない。
教授の寝顔を、目に焼き付けるように見つめていると、その視線に気づいたのか、ベールが薄く目を開けた。
「……視線が気になって眠れん。俺を見ていても面白くないだろう。お前も寝るか、外でも見ていろ」
そう言って、再び眠る体勢に戻る。
「……面白いですよ……」
小さくそう呟いたが、迷惑になるならと、ラリータは視線を外へと移した。
……その瞬間。
馬車が、急に大きく揺れた。
「山賊です!馬車の中から出ないでください!!」
護衛騎士の張り上げた声が、馬車の外から響いた。
その瞬間、ラリータの心臓が大きく跳ねた。




