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「ああ! 言ってしまったわ!!!」
部屋に戻ったラリータは、勢いよく寝台へとダイブすると、そのままごろごろと転がった。
「『私自身が、そうしたい』だなんて……変なふうには聞こえなかったわよね!?ちょっとした告白みたいになっちゃったけど……」
枕に顔をうずめ、両足をばたばたと揺らす。
「でも……でも!まだ一週間、教授と一緒にいられる……どうしよう……!」
抑えきれない喜びが込み上げ、思わずふふふ、と声が漏れる。
「幸せだわ……!」
その瞬間、
バンッ!と、乱暴な音を立てて扉が開いた。
「でかしたぞ、ラリータ!!」
部屋の中央に立っていたのは、でっぷりと太った父、辺境伯だった。
(……娘の部屋に、ノックもなしに突撃してくるなんて……相変わらず、常識というものがないお父様……)
ラリータの胸中など知る由もなく、辺境伯は唾を飛ばしながら、興奮した様子で早口にまくしたてる。
「一週間も陛下と一緒にいられるだなんてな!お前にも、ようやくチャンスが巡ってきたというわけだ!」
その勢いに、ラリータは一瞬だけ目を見開き、すぐに小さく息を吐く。
ため息を押し殺しながら、ゆっくりと寝台から起き上がった。
「……お父様。先ほどの陛下の話、聞いていらしたのですか?……私は、陛下の側に侍るために行くのではありません。ケベック教授の助手として、今回の旅に同行させていただくのです……」
父は、苛立たしげに手を振る。
「そんなことはどうでもいい!」
吐き捨てるように言い放つ。
「いいか、ラリータ。この機会を生かして、陛下に取り入るんだ。それが、ゆくゆくはこの辺境伯領のためになるのだからな!」
(……何かしら、この豚……)
胸の内で吐き捨てながら、ラリータは静かに父を見つめる。
(本当に、腹立たしい……)
……けれど。
(……そうね。一週間の旅の間に、当初の予定だった『陛下への上申』も、できるかもしれない……。この辺境伯領は……お兄様にこそ、ふさわしいものだもの……)
自分の欲だけで興奮している父は、ラリータの冷えきった視線に気づくこともない。
「ええ……お父様。(陛下への上申の件)お任せください……」
ラリータのその返事に満足したのか、辺境伯は大きくうなずいた。
「よし!旅の支度はこちらで整えてやる!」
そう言い残し、部屋を出て行く。
しばらくして、今度は、控えめに扉が叩かれた。
顔を出したのは、兄のアルカナだった。
「ラリ……本当に大丈夫かい?」
「ええ、お兄様。もちろん大丈夫よ」
ラリータは、ぱっと明るく微笑む。
「いまはね……すごく幸せなの。だって、明日から一週間も教授と一緒にいられるんですもの!」
「……ラリ」
「それに、あのバカなお父様にも、今回は感謝しなくちゃ!」
無邪気な妹の言葉に、アルカナは苦笑を浮かべる。
「……そうか」
ラリータは、ふと真剣な表情になり、兄の顔を見上げた。
「お兄様。私が一週間、いなくなるけれど……大丈夫?」
父と母のもとに兄を残していくことへの、不安がよぎる。
アルカナは優しく微笑むと、その大きな体で、そっとラリータを包み込んだ。
「僕は大丈夫だよ。思わぬ方向に話が転がったけど……ラリが幸せそうで、安心した」
ラリータの背中を、ぽん、と軽く叩く。
「この際だから、旅を楽しんでおいで」
「お兄様……ありがとう。私、がんばるわ!」
「ははは、その意気だ!それでこそラリだ」
そして、ふと思い出したように言う。
「……ああ、そうだ。ラリ、これを持ってきたんだ」
差し出されたのは、ぎっしりと金貨の入った小袋だった。
「父上は、きっとそこまで気が回らないだろうからね……お小遣いだ。持って行きなさい」
「……お兄様……」
兄の気遣いに、ラリータの目が、じわりと潤んだ。
「……ありがとう……!」
(待っててね、お兄様!この一週間で……あの豚……じゃなかった、父を失脚させて、辺境伯の座をお兄様のものにするのよ!)
そう心の中で高らかに宣言しながら、ラリータは大好きな兄に、ぎゅっと抱きついた。




