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中古にまつわる怖い話と奇妙な話  作者: 夏の月 すいか


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あの店がトイレを貸さない理由

 とある店に対するネットの書き込みで


 ――この店はトイレが一年以上ずっと故障中のまま。トイレ借りれないのは致命的。これは店に長居するな、立ち読みなんかしないでさっさと帰れと言っているのと同じ。お客様のためにいい加減に直せ!――


 というのを発見した。


 お客様にはご迷惑をお掛けして云々(うんぬん)……なるべく早い段階での修繕を検討して云々(うんぬん)……


 という店側の返答の書き込みもあった。


 この店は私がよく知っている店だ。



 そして、この書き込みに対しての本当の答えも知っている。



 この店は数年前のウイルス流行の際にトイレの貸出しを中止した。

 感染拡大を防ぐためという理由で来店客には周知されている。

 感染が世間的に落ち着いたその後は「故障中」の貼り紙が扉に張られ、貸出し中止のままになっている。

 それはもちろん表向きの理由である。


 この店のトイレは店舗の外にある。

 店舗の正面入り口側、建物の横に小さなプレハブ式トイレが設置されている。

 件(くだん)の感染病がこの国で広まるわずかに前、トイレの手洗い台の鏡が盗まれた。

 鏡は結構な大きさがあり、壁からわざわざ取り外して盗むのはかなり苦労するはずだし、盗んだ理由も判(わか)り兼ねる。

 結局、被害届を出した甲斐なく犯人の目星すらつかないままだった。

 鏡が盗まれてから数週間後、業者によって同等のサイズの鏡が設置された。


 

 設置日の翌朝、清掃の時間にトイレのドアを開けると、そこに鏡は無かった。



 前夜、閉店後に施錠したときには鏡があった。

 清掃の時間まで鍵は掛かったままだった。

 これでは密室トリックのようである。


 これには店長もエリアマネージャーも頭を抱えた。

 原因不明、犯人不明のままでは、再度鏡を設置してもまた盗まれてしまうかもしれない。

 鏡を設置するのは諦め、そのまま来店客にトイレを貸し出すことにした。

 幸い、鏡が無い不便さに対してクレームが入ることは無かった。



 数日後に事件は起こった。


 店の営業時間中、いつの間にか鏡が戻っていた。

 修繕直後と同じように壁に鏡が取り付けられていた。

 誰がどうやったのだろうか?目的は?

 全てが謎のままだった。


 

 その日から、来店客からトイレの鏡に関してクレームが入るようになった。


 

 鏡に自分以外の人が移り込むというのだ。



 一日に何件も同じ内容のクレームを違うお客様から言われる。


 アルバイトスタッフや社員がトイレを使ってもそのような事は一度も確認できなかった。


 見ず知らずの客同士がみんなで嘘を吐いているとは思えない。

 客の振りをした知人同士が集団で従業員をからかっているにしては、客の規模が多すぎる。


 対応に困った店側はトイレを施錠し、前述の表向きの理由を盾にして貸し出しをやめた。


 そのような理由なので、お客さんには公表していない。

 ご理解いただきたい。

 そのトイレは今も従業員のみが使用している。


 

 もしよかったらその店を探し出してアルバイトの募集に応募してみてはいかがだろうか。

 


 私の店ではないので、これ以上の詳細は控えさせていただきたく思う。


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