毎日いるお客様
―古着の買取・販売リサイクルショップ 元スタッフ 戸川さんの話―
戸川さんが十数年前に勤めていた店に代々伝わっているルールの話。
戸川さんがアルバイトで働き始めたころ、店のルールとして先輩に教わったことがある。それは、
・閉店後の片付けの際に、必ず「お客様、閉店のお時間です。出口からお帰り下さい」と、店内中に聞こえる大きさで言うこと
・それは誰が言っても良い
・言った後に自動ドアの前に立っていてはいけない(言う前に周りに声かけするか、自動ドアの前に人がいないときに言う事)
・もし言わないうちに消してしまったときは、再度照明を明るくし「出口はあちらです」と付け加えて言うこと
というものだった。
<お客様が残っていないか>の確認にしては変だと思い先輩に質問したところ、「やってみればわかる」と言われた。
初めて戸川さんが閉店業務に携わった日。
片付けが終わり、あとは店内の照明を消すのみとなった。
「…じゃあ今から言うからね」という先輩が合図に、戸川さんは自動ドアの前に立たないように気を付け、先輩の動きに注視した。
「お客様、閉店のお時間です。出口からお帰り下さい」
先輩が言い終わった一呼吸後、静まり返った店内から物音が聞こえた。
それは服のハンガーをラックに掛ける音だった。
店内の中央あたりから聞こえたようだったが、よく分からなかった。
「そういうことだから。じゃあ、電気消して帰ろうか」
あっけらかんとして言う先輩に、戸川さんは「今のは何ですか」と訊く代わりに質問した。
「もし言い忘れたらどうなるんですか?」
その質問に対し、先輩はまたも平然と答えた。
「ついて来ちゃうから絶対に言い忘れちゃダメだよ」
それはついて来られた人がいるという答えと同義だったので、戸川さんは自身も教えを守ると共に、その後入った新人スタッフにもちゃんと伝え続けた。
ちなみに、その店は現在は閉業している。
閉業の数か月後、同じ建物に居抜きで他のリサイクルショップが入り、そちらは今も営業している。




