煤
―総合リサイクルショップ勤務 諸星さん(仮名)の話―
「これ買取してくださーい。売りまーす」
香水の匂いが強く、派手な格好の若い女性が買取に来た。
持ち込んだものは木製の枠の三面鏡だった。
古い年代物だったが、桐製の高級品だった。
おそらく娘が母か祖母の物を売りに来たのだろうと思った。
美しい細工が施された絢爛な扉。
凝った装飾の抽斗の取っ手。
それだけにもったいない。臭いがある。
燻製のような燻った臭いが染みついている。
売り物にはならないと判断した諸星さんは、その旨を女性に伝えた。
「あっれー、おかしいなー。そんなニオイしますかー?それじゃあ無料でいいんで、あげまーす」
女性がそのまま店を出てようとしたので、店では処分出来ないので持ち帰って欲しいと伝えた。
女性はしぶしぶ了承し、重いので車まで運んで欲しいと言ってきた。
確かに三面鏡はずっしりと重かった。
女性が運転席のドアを開け、助手席側の後部座席を指さす。
「後部座席のドアを開けて乗せてくださーい」
諸星さんがドアを開けると、強い臭いが鼻を突いた。
香水や芳香剤の匂いではない。
それは三面鏡と同じ、何かが燃えた後の燻った臭いだった。
諸星さんは三面鏡を後部座席に乗せた。
助手席に和装のお婆さんが座っているのに気が付いた。
(外から見たときには乗ってなかったよな…)「どうも失礼します」
軽い挨拶をすると、お婆さんは軽く頭を下げた。
後部座席にはペットボトルやコンビニの袋などゴミが散乱していた。
ゴミに混じって、洋服、ヘアブラシ、化粧品、香水の瓶なども座席や床に落ちている。
女性は諸星さんに運んでもらったお礼を言って、車を出した。
発車する際にも助手席には誰も乗っていなかった。
諸星さんは散らかった車内に、位牌が混ざっていたのを見ていた。
店の駐車場から出る車に向かって頭を下げた諸星さんの両手とエプロンは煤で真っ黒く汚れていた。
火事が起こったのか、これから起こるのかは諸星さんには知る由もなかった。




