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中古にまつわる怖い話と奇妙な話  作者: 夏の月 すいか


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働き方改革

  ー玩具リユースショップ 店長 今井さんの話ー


 業務の一つに棚卸しというものがある。店舗の実際の在庫と帳簿上の在庫数が合っているかを確認する作業である。

 時間のかかる作業で、閉店後遅くまで残業することが度々あった。

 しかし今では、夜中に仕事をすることは一切なくなった。

 「私、怖がりなもんで…」

 そう言った今井さんに何があったか尋ねた。

 

 棚卸しは毎月行う。いつもなら遅くとも日を(また)ぐことはないのだが、その月はどうしても在庫が合わずに終わらない。閉店後も今井さんが一人残って確認をしていた。

 気が付くと深夜1時を回っていた。

 一息つこうと、駐車場にある自動販売機に缶コーヒーを買いに行くために外に出ようとした。

 事務所のドアに手を掛けようとしたとき、…そのドアがノックされた。

 コンコンコン、コンコンコン。

 事務所に通じる扉は全て施錠されている。

 外からは誰も侵入できないはずだ。 

 コンコンコン、コンコンコン。コンコンコン、コンコンコン。

 ドアを叩く者は、ノックするばかりで一言も発しない。

 事務室のドアに鍵は掛かっていないため、その気になればいつでも入って来れる。

 だがドアを抑えることが出来ない。気配を殺すのが精いっぱい。自分の存在を叩く者に気取られたくなかった。

 いや、それも自分への言い訳で、恐怖で体が動かなかっただけかもしれない。

 ー幽霊は家主に招かれなければ入って来れないー

 ホラー小説にあった一文を思い出した。

 そのまま息をひそめていたら、やがてノックの音はしなくなった。

 ノックが止んでしばらくして、ようやく恐怖による緊張から解放された。

 その日以来、今井さんは深夜残業が出来なくなった。

 

 「まだ、続きがあるんです」

 今井さんが話しを続けた。

 「夜中に残業が出来なくなったんで、仕事が終わらないときは早朝出勤することにしたんです。先月も朝から事務仕事をしていたんですけど、ドアをノックする音が聞こえてきて。コンコンって。パートの主婦が来たのかと思ったから『どうぞ』って言っちゃったんですよ。朝だから油断しました。時計を見ると、どう考えても出勤には早い時間だったんです。私、招いちゃいました…」

 それで、それから何かあったのかと私が尋ねても具体的な話はしてもらえず、「まあ…たまに…」としか答えてくれなかった。

 その日の別れ際に今井さんは「…夜も朝もダメなんじゃどうすればいいんですかね。時間内に仕事を終わらせろっていう、働き方改革の幽霊だと思って頑張りますけど…」と言って、力なく笑った。

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