受容
掲載日:2025/11/17
呼吸する音すら聞こえるほどの静寂の中、目の前の男は私をただじっと見ている。
恐怖よりも不審さが私の頭を包む。
彼は右手に刃物を持っていた。
しかし彼の顔から怒りは感じられなかった。
それよりも、慈悲や悲しみに満ちた顔をしていた。
この状況でなぜか私の心には憐れみが生まれた。
自暴自棄とか死が怖くないわけではなかった。
目の前の彼の顔がとても寂しそうで、殺意を込めた表情ではなく、どこか儚げでいなくなってしまいそうなものだったからだ。
愛にも似た感情が私の心を覆った。
彼がそっと近づいてくる。
その姿は生まれたての麒麟のようにか弱く、歩くことすら辛そうだった。
耳では聞こえなかったが、ごめんなさいという言葉を彼が私に吐いた気がした。
お腹の辺りがとても熱く、白いシャツが赤く染まった頃に私は彼の耳元にそっと大丈夫と声をかけた。
最後には痛みと彼を私は受け入れていた。




