第13話 密告者はお前だ!
数日後、佐伯老人から電話があった。
内容は単純に、例の瓦の調査は進んでいるか? ということであった。
俺はこれまでの調査の進展を、かいつまんで説明した。
話をしている間、佐伯老人は、
「うん」とか、「ほう」とかの相槌を打ち、一通り俺の話を聞き終わると、
「1か月の期限まで、あとちょっとだ。がんばってやり遂げろ。調査が終わったら連絡を寄越せ。その時にはワシのところまで、実物と報告書を持って来い」
と、電話は切れた。
俺は、ため息をついた……
瓦文の解読は、もう万策尽きた感がある。
もうそろそろ新しい現場が始まる。
その準備をしなければならない。
発掘現場まで毎日車で通うには、ちょっと微妙な距離なので、宿泊の準備もする。
1週間現場に出て、洗濯や郵便物などがあるから、週末に戻るという繰り返しになるだろう。
現場をやりながら、瓦の調査も継続するなんて器用な真似はできないから、そろそろ結論を下さねばならない。
……今回は、悔しいが白旗を上げるか……
古代史は極端に史料が限られるから、記録に残らなければ、分かる手立てはない。
……まあ、仕方ないか……
俺は、もう諦めようと思い、瓦文の拓本のコピーを手動のシュレッダーに掛けようとして、チラッと文字を見た。
<外従五位下上毛野朝臣宿奈麻呂者>
<左大臣長屋王近侍不和君足告意此>
<合薬事丁丑年六月夭死訖王誅之也>
<豊島足此十女癸午年十月廿日造墓>
その時、ふと、4行目の<足此十女>と、2行目の<告意此>が目に入り、同じ<此>が使われていることに、改めて気が付いた。
……うん?
<足此十女>は《あしこのとめ》ではなく、《たるひとのむすめ》であることがわかっている。
と言うことは、<告意此>を同じように訂正すると、<告意比>となる。
……とすると、これを何と読むか?
これまでは、《この意見を告げた》と読んでいたが、意味はよくわからなかった。
改めて読み直すとすれば、
《意比に告げた》となる。
それなら《意比》は何と読むか?
《いひ》か?
いや違う。
正解は、おそらく《おび》だ。
……そうか! わかったぞ!
君足は、薬を合わせて毒薬を造っていたことを、《意比》に告げたのだ。
すなわち《意比》とは人名である。
それでは《意比》とは何者なのか?
もう答えは判っている。
それは、阿倍朝臣帯麻呂のことである。
長屋王事件の前に5階特進をして、外従五位下となり、事件後の論功行賞の人事で、従五位下となって中央貴族入りを果たした人物である。
……こいつだったのか!
俺は、改めて阿倍朝臣帯麻呂について、詳しく調べ始めた。




