第20話 エピローグ
「ママー! エマとお外行っていい?」
「いいけど危ないところは行っちゃ駄目よ。こないだ怪我をしたばかりでしょ?」
「怪我ならうちのママが治してくれるから大丈夫だよ。行こう、マイケル」
「ちょっと、大怪我したら私にも治せないからね!」
二人の子供が笑いながら外へ飛び出していくのを見送りながら、サーシャはマリエッタに話かけた。ここはサーシャの邸宅。マリエッタ親子を招待して、母親同士はお茶を楽しんでいる。うららかな日差しがさんさんと照りつけるテラスで、王都中から取り寄せたお菓子を並べて二人はとりとめのないお喋りに興じていた。
「エマも大きくなったわね。すっかりお姉ちゃんになっちゃって。マイケルの方が一応年上なのに逆に見えるわ」
「小さい頃は女の子の方が成長早いから。ああ見えて家ではパパに甘えてばかりなのよ」
サーシャは流産をした一年後に再び妊娠した。そこで産まれたのが息子のマイケルだ。それから一年後に今度はマリエッタがエマを出産した。子供が小さかった頃はお互い忙しかったが、またこうして交流を重ねることができている。周りの環境は変わっても、こうして会えばいつでも簡単に元の二人に戻ることができた。
「エマはパパっ子なのね。キリアンは優しいから懐くのも分かるわ」
「アドルファスもそうじゃない? 子煩悩のイメージがなかったけど、こないだ会った時に見たら、子供たちと楽しそうに遊んでたわ。もっとクールな人かと思ってたからびっくりしちゃった」
「年の離れた弟がいたから、子供の扱いには慣れているのよ。その弟も今は思春期にさしかかって難しいお年頃になったけど、アドルファスのことを父親みたいに慕っているし、今でも何かと頼りにされるわ」
アドルファスの弟、ノーランは今でもサーシャ夫妻をよく慕っている。叔母のモリーと共に彼らが親代わりのようなものだ。本当の父親と義母パティとは付かず離れずの関係を維持している。子供のノーランが衝突しそうになると、すかさずサーシャたちが仲介に入って、こじれる前に解決していた。
「マリエッタは仕事忙しいんでしょう? お店やってる間はエマはお義母さんに見てもらってるの?」
「ええ、ゾフィーが面倒見てくれている。あのキリアンを育て上げただけあって、よく見てくれてるわ」
聖女マリエッタの店は相変わらず繁盛している。最近はキリアンの作家業が忙しくなって来たので、新しく人を雇って手伝ってもらっている。施術だけでなく、健康を維持したり病気にならないためも啓蒙活動にも熱心で、公衆衛生的な活動も評価されていた。
広い庭で遊ぶ子供たちを眺める二人のところへ、仕事を終えて帰宅したアドルファスがやって来た。
「こんにちは、マリエッタ。エマも大きくなったね。サーシャの方はもう診てくれたかい?」
「ええ、一番最初に済ませたわ。今のところ順調よ。つわりも軽いみたいでよかった」
サーシャは今、二人目の子供をみごもっている。まだお腹は目立たないが、マリエッタに体調面を相談している手前、これは単に遊びに来ただけでなく診察も兼ねていた。
「聖女の力で男の子か女の子か分からないの? マイケルは弟が欲しいって言ってるんだけど?」
「大聖女様くらいになると分かるのかしら? でも私にはさっぱり。お産を取り上げたことなら何度もあるけど」
「この際元気な子が生まれてくれば性別はどちらでもいいわ。マリエッタがいてくれれば心強いわ」
サーシャはそう言って微笑むと、マリエッタの手をぎゅっとにぎった。
「私ね、実は二人とも結婚しなかったら、どこか小さな家を借りて私たちだけで暮らしたいって思ったことがあるのよ。そういう人生も悪くないかなって」
「本当!? 初めて聞いたわ。私も実は同じこと考えていたの。もちろん今は十分に幸せだけど、今でもふっと考えることがある。これはキリアンには内緒ね」
「でも私は聞いてしまったんだが? サーシャはその方がよかった?」
「あなたったら意地悪な人ね! マリエッタの前でどちらがいいかなんて言えないじゃない!」
3人はあははと笑った。それを耳にした子供たちが何か面白いことがあるのかと思って、大人たちのところに戻ってくる。そよ風がさあっと木々を揺らし、澄んだ青空はどこまでも透き通っていた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
本作はこれで完結となります。ブクマと評価をいただけると幸いです。興味を持ってくれたら他の作品も読んでみてください。




