第三章 すごい地団駄
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さて、儀式の後変身を遂げた怪獣に詳しく話を聞いてみると、いつの頃からか、怪獣は我々の生活に慣れようと考え始めたようです。図書館に足を運び、我々の言葉を学んだ結果、あのような場で機転を利かして価値ある自分を出現させたのです。
ところで、彼は我々の言葉を操るだけでなく、彼自身の言葉も操りました。今考えると、怪獣と初めて会ったときに聞いた奇声もきっとどこかの国の立派な言葉だったのでしょう。そんな彼の言葉を知ることが出来ます。日記を書いていたのです。我々に内容を理解することは出来ませんが、我々の言葉と同じくらい複雑なようです。ここで、その日記の一部を少し紹介します。よくわかりませんが、この部分には印がつけてありました。
―「その日は天女に会った。空から現れた。私は真実を目撃した。我々がここに連れてこられる場面に遭遇したのだ。衝撃的で、至らなさを学んだ。湖上の同種。彼は真実を知っていたようだが、事態の解決が不可能であること、つまり、帰郷は不可能であるという事実は理解出来ていなかったらしい。ただ結局、我々は不運な同士だと私もはっきりとわかったので、同族とは仲良く、諦観しここで暮らしていくしかないのだろう。しかし、醜い同種や図鑑でしか見たことのないあの野蛮なもの、つまりは怪獣達、本音を言えば、どちらとも仲良くしたくはない。ただ、仕方がないのだ。私は怪獣達と初めて顔を合わせた日、敵対心を持った。それは自然で誠に純な気持ちだった。ここに馴染むということは、きっと恥だ。恐ろしいくらい屈辱的なことなのだ」―
儀式の後、怪獣に対してすぐに言語テストが実施されました。
驚きました。基礎的な使用はおろか、応用的な力があることが判明しました。しかし、当の怪獣自身は困ったことに鞘から刀を抜かず、つまり、あまり言葉を発しませんでした。
せっかく怪獣は大大的に誕生したのに、残念ながら役職に就くこともなく、蛹の姿に戻ってしまったのです。私ら数名のものが強い関心を抱いていましたが、村においてはさっぱりでした。しかし、あるとき転機が訪れたのです。
ある日、村のものが狩りに失敗した腹いせに、村のはずれで長時間の地団駄を踏み始めました。
スコテ山に潜む凶暴なものたちに獲物を奪われたことがよっぽど悔しかったのでしょう。一時間ほど行われていた左足による地団駄は、足への疲労の蓄積とともに右足の地団駄に変わり、そして数時間経つと今度は左手で地面をたたく動作に変わり、右手に変わり、頭に変わりと、もはや、地団駄なのか何なのかわからない獲物との惜別の念を体現した動きがその場にありました。
かなり経ち、村のもの全員が集まってきて奇妙な地団駄を見守っていました。怪獣もその場にいました。しかし、あのときの儀式のようにケポの背中にいるのではなく、二本の足でしっかりと立っていました。
すると突然、地団駄を踏んでいる彼の足元からゴゴゴッという重低音の轟音が聞こえ始め、同時に土壌と砂煙と熱水が空高く舞い上がりました。見たこともない光景に驚き、我々がすくみ上っていると、怪獣も驚いたようで思わず言葉を漏らしました。
「××××……」
近くにいた私を含め、ほんの数人がその真新しい言葉を頭の中で噛みしめていました。村のもの達は思いがけない水の演出に心奪われ、はじめてお祭りを見た子供のような目をしながら、熱水と戯れていました。
直感的に、真新しい言葉で瞬時に出来事を捉えた怪獣は、この水の統率が可能なのではないかと私は思いました。そして私は、村長や側近達を呼び、怪獣の口を両手で無理矢理開けて、先ほどの言葉をもう一度発させました。
「温泉」というものに関する詳しい話を、私たちは彼から聞きました。そして、このときの発言が今の彼という存在を決定づけたのです。
以上、この村におけるとある小さなものに関するお話でした。
了