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刻舟求剣エッセイ

創作って、恋愛に似ているのかもしれない。

作者: イトウ モリ


 人からウケるようなテンプレ作品を書いても、自分は書いてて楽しくない。


 もしくは、


 好きなものを書いたらいいのか、売れ線のテンプレを書けばいいのか悩んでいる。



 そんなことを書いてるエッセイを見かけたことがある。


 自分からしてみれば、人の好みに合わせて作品を作れるなんて器用だなあ、すごいなあ、と尊敬の念を覚える。


 自分は思いついたものしか書けないので、頭に浮かんだ物語を馬鹿正直に文字にアウトプットしているだけだ。


 だから、それを自分ではない誰かが気に入るというのは、ある意味で博打(ばくち)のようなものだと思っている。


 もともと流行りというものが理解できないし、敬遠している。

 つまり裏を返せば、自分の価値観が大多数からは共感されないものだということになる。

 もちろんその自覚もある。



 だから、エッセイそのものが自分に当てはまる内容ではないのだけれど、教養として、ここの人たちがどんなことで悩んでいるのか興味があった。


 とりあえず感想欄まで、ざっと目を通してみた。



 感想欄のやり取りを見ていると、共感のコメントと、「好きなものを書けばいいのでは?」的なもので終わっていた気がする。


 かなり前に読んだものなので、内容はうろ覚えだ。


 わざわざエッセイにして投稿するくらい、その人たちは悩んでいるわけなので、感想という名のアドバイスを目にしたところで、きっとまだ悩み続けているのだろうと思う。


 その人たちは、まだ創作を続けているのだろうか。

 悩みが解決できているといいなと思う。




 そんなことを急に思い出して、ふと、こんなことを思った。



 こういう小説投稿サイトのような場所で、作品を公開して読んでもらうという行為は、もしかしたら恋愛に似ているのかもしれない。



 そんなことを思ったら、ずるずると思い出してしまったことがある。




 ちょっと昔話をしてみたい。



 大学時代、好きになった先輩とつきあえることになった。


 本当にたまたま偶然、ちょっとした相手の気持ちの揺れで、気まぐれでつきあってもらえただけだった。


 そう、つきあって()()()()


 そういう、つかの間の恋人関係だった。


 つきあおっか、と言ってもらえたときはすごく嬉しかった。


 自分の気持ちが相手に伝わったということが、すごく嬉しかった。


 だけどすぐにふられた。


 先輩は、自分のことなんか好きでもなんでもなかったからだ。


 本当にたまたま偶然、気まぐれでつきあってくれただけだった。


 試しにつきあってみたけど、やっぱ違った。


 相手は所詮、その程度の気持ちだった。


 だから、すぐに終わった。



 短い期間ではあったけれど、そのときの自分の気持ちを振り返ってみると、好きな人と過ごせる幸せよりも、噛み合わないもどかしさや苦しさばかりを感じていた気がする。


 自分のことを分かってもらおうとするよりも、相手に合わせて我慢することを選んでいた。


 だから、一緒にいても楽しいと思えなかった。

 どこか、みじめな気持ちにもなっていた。


 別れたあとは、悲しかったけれど、ようやく楽になれたという安堵感があったことを覚えている。


 もう嫌な気持ちを味わわなくて済む。

 これでもう自分の行きたい場所に行ける。自分のしたいことができる。自分の時間が持てる。


 そう思った。




 悲しかった気持ちも、実際のところ、自分のかけてきた労力が報われなかったむなしさによるものだったような気がする。


 好きだと思っていた人が、いつの間にか好きな人ではなくなっていた。


 手に入ったものが、実は自分のものではなかったというやりきれなさが、未練という形でずるずると引きずってしまったけれど、未練の正体は好きという気持ちではなかった。


 だいぶ風化したから、今なら冷静に自己分析できる。当時は無理だった。

 うーん、大人になったなあ。



 以上。昔話おしまい。めでたしめでたし。





 創作に話を戻そう。



 好きなように書けばいい。


 言うのは簡単だ。



 人から好きになってもらいたいと思う気持ちがあれば、自分だけが好き勝手にふるまったところで相手から好きになってはもらえない。


 つまりジレンマが発生する。


 相手に離れていってほしくなければ、相手に合わせてしまうのも無理はないと思う。


 だって、やっぱり独りはさみしいから。



 だけど。


 無理をして、相手に合わせて、速攻でふられた経験があるから、あえて厳しい現実を言いたい。




 無理をして相手に合わせたからといって、相手が自分のことを好きになってくれる保証はない。



 尽くすだけ尽くして、報われなかったときは本当に悲しい。



 自分はもう、そんな関係を誰かと続ける気はない。


 自分がどんどんすり減って、何のためにその人と一緒にいるのか分からなくなってくる。


 一緒に過ごす時間がつらくてしょうがなくて、かといって、一緒にいないと不安でしょうがない。


 ただただ、心が不安定になる。



 悪いことは言わない。別れた方がいい。そんな恋愛はしない方がいい。そう思う。



 でも、実際その人と恋をしている真っ最中の人にそんなこと言ったって聞いてはもらえない。


 自分も友人から「それもう別れたらー?(超適当感)」と言われて「やだ」と答えていた(気がする)。


 ただ意固地になっていただけなのだと、今なら思う。



 いっぱい苦しんで、いっぱい傷ついて、自分で答えを出すしかない。


 続けるか、続けないかを。



 もちろん、こっちは続ける気でいても、相手側から容赦なく関係を切られる場合もある。

 それは……正直けっこうキツい。

 


 でも。


 別れのあとには、新しい出会いが待ってる。



 きっと素の自分を良いと思ってくれる人があらわれる。


 無理をしないでつきあえる人が、きっと近くにいる。



 自分の恋愛経験値は、あんまり多くない。だから偉そうなことは何も言えない。



 けれど、笑うツボが一緒で、マニアックな趣味でも、マニアックな雑学でも、マニアックな下ネタでも、しらけないでいてくれる人が近くにいる。


 そんな存在が近くにいてくれるのは、とても安心感がある。



 自分にとって創作は、そんな感じだと思ってる。



 一緒に盛り上がらなくてもいい。


 そもそも自分は盛り上がる系のキャラじゃないから、横で盛り上がられてしまうと冷めてしまう。


 自分でも、そんな自分がめんどくさいやつだと思ってる。



 褒めてくれなくてもいい。


 誰かに褒められたいからやってるわけじゃない。

 自分がやりきったという満足を得るために続けているだけだから。


 自分が楽しんでいる姿を、横目で見ながら笑っててくれるだけでいい。


「おー、やってるやってるー」なんて、そんな感じでほっといてくれていい。


 それだけで十分だ。



 誰かに読まれている。

 それだけで、けっこう満足している。



 ポイントはいらない。

 ……なんて言ったらさすがにカッコつけすぎか。


 そこまでこだわっていないというのが正直な気持ちだ。


 たくさんの人に読まれるよりも、同じ人が何度も繰り返し読んでくれるほうが嬉しいと感じている。


 いつかは誰かの人生に、ずっと静かに寄り添えるような作品を作りたいと思って創作をしている。


 その対象は別に多くなくていい。

 自分がそこまで影響力のある人間だなんて思っていない。



 アクセスで十分。

 だいたいのことが、そこからわかる。


 感想も……あれば嬉しいけど、求めることはしない。




 言葉にならない何かを受け取って、感じてもらえてるなら、それだけでいいと思ってる。



 言葉にしてしまうと、途端に安っぽくなってしまう、そんな思いがあることを知ってる。


 そういう思いは、無理に言葉にせずに、自分の中に留めておいたほうがいい。


 きっとどこかの誰かは、自分の作品でそんな思いを持ってくれた人がいる。



 そう思っている。




 秘すれば花、なんて言葉もある。


 実はちょっと好きな言葉だ。


 いつかはきれいな花を咲かせられたらと思う。




 誰かに媚びるわけでもない。

 無理もしない。


 利害とか、そういうことを考えずに、ただ素直に好きだからという理由で、作品を楽しめたらいいと思う。



 自分はただ、好きなものを、好きなように、好きなペースで、好きな演出で仕上げていく。



 価値観が合わない人は自然に離れていくし、その方が自分もありがたい。


 無理につきあっても、きっとお互いに苦しくなるだけだから。



 しがらみもないから忖度(そんたく)もない。


 思うまま、自由でいられるのがいい。



 自分自身がそもそもキャパの大きな人間ではないから、誠実なおつきあいができる人数にも限界がある。


 だから、なるべくコンパクトでいたいと思う。



 いまきっと自分の傍にいてくれる人は、そんなありのままの自分を、『悪くはないな』という気持ちで近くにいてくれているんだろうと思う。


 とてもありがたいと感じている。




 そういうのって、恋というより、愛に近いのかもしれない。



 恋人関係だって長続きすればするほど、落ち着いてくる。


 倦怠期なんていい方をされることもあるけれど、恋心から愛情に変わったんだと思う。




 愛って、穏やかな海みたいで好きだ。


 澄み渡った青空みたいで好きだ。




 ただ、そこにあることを感じられる。


 それだけでいい。




 だから今、自分はすごく恵まれていると思っている。


 だからこのままのスタイルでやっていこうと思ってる。



 しずかに、めだたず、ひっそりと。


 こころ、おだやかに。



 












   挿絵(By みてみん)




 最後までおつきあいいただき、ありがとうございました。

今回は手持ちの写真がなかったので、フリー素材の写真ACさまから引用させていただいた、沖縄の海の写真を使わせていただきました。

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