1周年記念SS
今日で、本作品はちょうど1周年を迎えました。
この話はif世界の1周年記念SSです。
※完全ifの世界ですので、若干キャラが違ったりします。
『よし、告白しよう』
僕、松下陽仁には好きな人がいる。天野渚さんだ。
彼女は金髪碧眼の容姿端麗、全国模試の偏差値オール70overの成績優秀、スポーツすればなんでも一人前の運動神経バツグンという非の打ち所がないような人だが、僕達の常識と彼女の常識が少し違うように僕は感じている。
どこかの名家の子なのだろうか?
でも、そんな彼女のたまに出てしまう常識外れな言動がまたギャップで、好きなのだ。
僕は世間からすれば普通の高校生である。
そんな僕に彼女は釣り合わないだろうとか思っていながらも、
『いつか天野さんに彼氏が出来てしまうかもしれない、そうなる前に僕の気持ちを伝えたい』
そう思った僕は彼女が1人で向かっていった屋上へと向かっていくのであった。
彼女は放課後決まって友達と離れて1人屋上へと行くことを僕は知っている。
何をするのかはよくわからないが告白するチャンスだと思っていた。
階段を上がっていくにつれて、告白に失敗して嫌われてしまうのではないのかという不安が強くなる。
けれども、僕は自分の気持ち伝えたい一心で不安を誤魔化し、屋上のドアの前まで来た。
僕が屋上のドアを開けようとしたとき突然ドアが開いた。
僕は思わず体制を崩して、屋上側に倒れていく。
が、地面に顔を打つことはなかった。
「ごめんなさい! 大丈夫ですか?」
天使のような綺麗な声。
どんなことでも包み込むような温もり。
間違えるはずがない彼女の雰囲気。
顔をあげると天野さんが僕の体を支えてくれていた。
「天野さん、ありがとう。僕は大丈夫です。」
僕はそういって立つ。
「あら、松下くん。大丈夫なら良かったわ。それと… 屋上に何か用があったの? 夕暮れを見るならまだ早いわよ? …それとも私に何か用があったの?」
天野さんの疑問は当然だ。
屋上には何もないが、屋上から見える景色が、特に今日のような多少の雲があって少しジメっとしていた日の夕暮れが、視界を遮るものがなく綺麗だと生徒の間で有名なのだ。
天野さんからしたら、なぜこんな時間に僕がここにいるのかは不思議だろう。
僕は腹をくくって答えた。
「天野さん、僕はあなたが好きです。それを伝えるためにここに来ました。付き合って下さい。」
そう言って頭を下げ、手を差し出す。
天野さんが、どんなリアクションをしているのかはわからない。
もしかしたら、引かれているかもしれない。嫌われたかもしれない。
そんな不安で頭が一杯になっているからか、時間がとても長く感じる。
そして、
「…前にも、付き合って下さいって言ってきた人が沢山いるんだけど、顔とスタイルしか見てない下種だったのよね。告白してきた瞬間から透けてたけどもね。だから松下くんの覚悟を知りたいのよ。まぁ松下くんはそんなことなさそうだけどね。」
天野さんはそう言った。
「覚悟って何をするんです?」
「何をって? USJの絶叫系アトラクション全制覇よ! 日曜日にさっそく行くわよ! 」
これって単純に天野さんが乗りたかっただけじゃないのかな?
「あ、別に絶叫系アトラクションに乗りたかったって訳じゃないからね? ね?」
う~ん。天野さんがそういうなら、そうなんだろう。
こうして僕と天野さんはUSJに行くこととなった。
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「久しぶりに来たけど、相変わらず混んでるなぁ」
「…ここまで混んでるとは思ってなかったわ」
「まぁ、日曜日ですし…」
僕と天野さんは今、USJに来ているが、入り口では人がひしめきあっていた。
こりじゃあチケット買うのも一苦労だな…
「せっかく来たのに、これじゃあ絶叫系アトラクション全制覇を達成できないないじゃない!」
天野さんはそう言って頬を膨らませている。
こんな天野さん初めて見たけど、思わず見つめてしまった。
「な、なによ!」
「ふふっ、なんでもないよ。天野さん」
「いーや! 絶対なんか考えてたでしょ!」
そんなやりとりをしているとチケット順が回ってきた。
「高校生チケット2人分お願いします」
「はい。ちなみにお二人は付き合ってたりしますか? 今、カップル割りというのをしているのですがいかがなさ──「はい。それでお願いします」──わ、わかりました。」
隣で天野さんが驚いたのか、すぐに僕の方に顔を向けた。その顔は赤くなっていた気がするけど… まぁいいか。
お金は大事だもの。
こうしてチケット2人分を買い、入場すると天野さんが赤い顔のまま言ってきた。
「ちょっと松下くん! 私達は付き合ってないのに何でウソつくのよ!」
「ん? だって割引できたならその分のお金を中で使えるし、それに僕は天野さんと付き合いたいんだよ?」
「そりゃそうだけど··· 先に言ってくれれば構えれたのに」
シュ~って音が聞こえてきそうなくらいに天野川さんは更に顔を赤らめた。
入ったはいいものの僕と天野さんは落ち着くまで入り口付近で休むことになった。
結局天野さんが落ち着くまで結局10分かかった。
「もう大丈夫よ。それじゃあ行きましょう。」
「わかりました。どれから行きましょうか?」
「それじゃあ… 一番近くにあるあれからね。Ride The Lightning。」
僕と天野さんは絶叫系アトラクション全制覇に向けて動き出した。
Ride The Lightning の乗り場は非常に混んでおり、およそ15分ほど待つことになった。
そして、やっと僕と天野さんの番が回ってきた。
ジェットコースターに乗り込み、安全バーを下ろすと、係員さんの案内が入った。
「皆様おはよ~ございます! しっかりと席に腰を掛け、安全バーがロックされていますか~? 大丈夫? そう、ならいってらっしゃ~い!」
そして動き出すジェットコースター、天野さんはウキウキだ。
「このジェットコースターは国内最大級の規模を誇るのよ! さぁ楽しみましょう!」
え? いまなんて? 国内最大級?
そんなことを気にしていた僕の思考は、頂点からの急降下で現実に引き戻された。
ギャアアアアアアアアアアア
ジェットコースターとか無理!
体はフワッとするし、体の中がずり上がった感覚はするし、高いし、速いし、落ちるしでムリムリムリムリ。
「お帰りなさ~い! 皆様元気そうですねぇ! もう一周行っときます? 結構? あらそう残念。それじゃあ安全バーのロックを解除しますので右側から降りてくださいね~! それでは良い1日を!」
天野さんはケロっとしてるけど僕はダメでした。
「あ~! あれ乗ろう! 蜘蛛男!」
「えっ··· ちょっと待って、天野さぁ~ん」
有無を言わさず、連行された。
絶叫系アトラクションのおよそ1/3ほど乗り終えたとき、昼ごはんにはちょうど良い時間になった。
「そろそろ昼にしましょ」
次々と連行されて疲れている僕には朗報だった。
「天野さん、是非そうしましょう!」
そうして食事処に着いた。
天野さんは可愛い黄色い生き物をモチーフにしたパフェとオムライスを注文し、僕は恐竜世界をモチーフにしたワイルドな肉料理を注文した。
が、1つだけ誤算があった。
カップル割引が利用できると言うのでお願いしたところ、大きな1皿にオムライスと肉料理、2人前のパフェが1つの器に入って出てきたのだ。
「···なんでこうなったのよ。付き合ってるみたいじゃない!」
「···すみません。注意書も何もなかったのでお得な方を選んだらこうなりました…」
「なってしまったのは仕方ないから··· それに…その…」
「ん?」
「なんでもない! さ、食べましょ!」
僕は天野さんが言いかけたことが気になったが、せっかく天野さんと食事ができるというのだから、そのような些細なことは言及せずに、2人で食事を楽しんだ。
食事を終えて、残りの絶叫系アトラクションを一つ一つ潰していく。
その中には超巨大空中ブランコや、高さ100mのフリーフォール、かなりリアルな恐竜に追い回された挙げ句に滝を急降下するとかいう全身ずぶ濡れになるアトラクションもあった。
ただ、ずぶ濡れになった後はリアルな火災現場の再現アトラクションで暖まって服を乾かすまで、天野さんの服が透けてしまい、僕が急遽売店でUSJのTシャツを買いに走ることになったが。
これがいわゆるラッキースケベだったり?
そんなかんやで、夕方に食事を挟み、20時に全絶叫系アトラクションを制覇できた。
「これで、絶叫系アトラクションを全制覇したわよ!」
天野さんは表情からも達成感が読み取れるほど、満足していた。
「ついにですか! やっと… やっと帰れる…」
「…松下くんは、つまらなかったの?」
天野さんは頬を膨らませて聞いてきた。
「違う違う! 充実した1日すぎて疲れが出てきてしまっただけで、決してそんな訳じゃ―――
「なら良かったわ。それじゃあ帰りましょう。わ、私の彼氏くん。」
ん?
「え? いま僕のことを、彼氏って?」
僕は思わず聞き返してしまった。
「ええ、そうよ? 私に覚悟を見せてくれたじゃない。それに恥ずかしいから繰り返し言わせないでよ!」
天野さんは少し下を向いて髪を弄りながら答えてくれた。
こんな姿を見せてもって答えないというのはない。
「天野さん! 改めて宜しくお願いします。」
「えぇ、こちらこそ宜しくね。」
夕日を背にした天野さんは、どこか神々しさを放ちつつも、僕に満面の笑みを見せてくれたのだった。
天野さんの試練(絶叫系アトラクション全制覇)は、天野さんが付き合った後のためのお試しデートみたいなものです。つまり、天野さん的には松下くんの告白は受けるつもりでした。
さて、1周年記念SSはいかがでしたでしょうか?
楽しんで頂けていると作者としては嬉しい限りです。