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15話 天野さんと初めての依頼

僕は今、依頼をこなすために天野さんと2人で街から少し離れた森の中にいる。


天野さんが選んだ依頼は、トキドキノコを15個をギルドに納品するというものだった。


天野さんは、キノコの納品が安全で時間がそうかからないものだと思っていたようだったが、蓋を開けてみれば、なかなかトキドキノコが見つからない。


依頼書には特徴が書かれており、それを参考に探す依頼なのだが、特徴が『赤くて白い斑点がある』としか書かれおらず、似たような種が多くあったのだ。


1度、15個集めてギルドに納品したら、そのうち4個しかトキドキノコがなかった。


天野さんは、『私が…間違えた? この…私が!?』と驚いていた。


ギルドによると判別するには『叩いて微妙に反発すれば、トキドキノコ』らしい。


素人には全然わからない。


そのせいでなかなか見つからず、日が傾いていた。


「天野さん、そろそろ戻って安い宿をとろうよ。安い宿分のお金を得るだけならもっとすぐ終わる依頼があるはずだし。」


「ここまで来たらもうトキドキノコを集めて、風呂付きの宿に泊まるわよ。そんなこと言ってないで早く探すわよ。」


天野さんはどうしても風呂付きの宿に泊まりたいようだった。


けれども、残り1個になった時、天野さんが急に立ち止まったかと思うと、少し顔を下に向け、急に小声でブツブツ言い始めた。


「天野さん? どうかしたの?」


「あ、いや。ちょっと神様から伝達があってね… 考え事をしていたの。これは大事だから部屋で落ち着いて話すわ。さっさと見つけて帰るわよ。」


「え? 天野さん! ちょっとぉ!」


天野さんはそう言って、残り1つのトキドキノコを探しに駆け出した。


暫くして、天野さんが残り1個のトキドキノコを見つけてギルドに納品した。


報酬を受け取り、ララノアさんに教えてもらった宿に2人で向かう。


宿に向かう途中で割と多くの露店があったが、そこでは野菜と思わしき食物が並べられ、人々で賑わっていた。


もっとも、天野さんは無関心のようだったが…


街は日が傾いているというのにまだまだ活気で満ちていた。


街の風景をそうこう見ていると、宿に着いたようだ。


宿の外観は余計な装飾などで着飾られておらずシンプルで、内装も必要最小限といった感じだった。


宿代を払い、部屋番号の書かれた札を受けとる。


天野さんの解析によると、札には無属性魔法が込められており、鍵の役割をするとのことらしい。


部屋に入り、天野さんにさっきの話を聞こうとした。


が、天野さんは先に風呂に向かったようでシャワーの音が聞こえていた。


仕方なく部屋にあった椅子に座り、天野さんが風呂から出てくるのを待つことにした。


『ただ待つだけ』なのだが風呂に入っているのは、僕の好きな人である天野さんであるが故になかなか落ち着けない。


キャンプ移動中に天野さんから教わった魔法の練習を行って待つこと30分、寝間着姿の天野さんが風呂から出てきた。


大事な話なんじゃなかったの… 天野さん…


「ふ~ぅ。すっきりしたわ。松下くんもどう?」


「天野さん、それよりも話があるんですよね?」


「そうだけど、落ち着いて聞いて欲しいから風呂に入ってきても大丈夫よ。それに大事だけど、緊急ではないから。」


「それなら… 入ってきます。」


それを聞いて、一瞬迷ったが天野さんの勧めに乗って風呂に入ることにした。


僕が風呂に向かった後、天野さんが『よくよく考えれば、私が入った後の湯に松下くんを入れることになる!? 私ったら風呂に入ることばかり考えてないで、彼に先に入って貰えば良かった! でも松下くんなら… って何惚気てるのよ、私!』と顔を赤くして、悶絶していたのは僕が知る良しもなかった。


サッパリした気分で風呂から出ると、なぜか天野さんがプシューと湯気を立てていた…


とりあえず話を聞くために揺すってみる。


「天野さん、大丈夫ですか?」


「ま、松下くん!? だ、大丈夫よ。す、少し風呂でのぼせたみたい…」


なぜか呂律が回っていない天野さんだが、それがむしろ可愛い。


「そ、そうなら良いけど… で、話って何?」


「ち、ちょっと深呼吸させて、落ち着きたいの。」


そう言って天野さんは深呼吸をし、いつものしっかりとした姿を見せる。


「それじゃあ、話すわよ。まず、松下くんのクラスメート全員がこの世界に来てるわ。さっきの伝達によると、この国のある王国が対魔の戦力として召喚したみたいよ。私たちがここに来たのと同じ様な理由ね。そして、私たちが転移する前にこっちの世界に召喚されたらしくて… そのせいで、多分私たちのことも覚えているわ…」


僕は天野さんの話を聞いて驚いた。


驚く僕を側に天野さんは話を続ける。


「私は、ヴァルナヘルムが危機にあると知って、異世界からの勇者召喚が行われる可能性を考えたの。勇者召喚は勇者とその仲間を召喚するのだけれども、召喚が行われる前に松下くん1人でこの世界を救えるなら無駄な召喚が行われることもないと思って頼んだのだけれども… 私の努力は無駄になっちゃたみたい… 松下くんも巻き込んだのに… ホントにごめんなさい… ホントに…」


天野さんは話すにつれて、徐々に顔が青くなり、自責の念に駆られていったようで、最後の方は涙を流していた。


それは、天野さんは僕を巻き込んだことに対する罪悪感と非力さを悔やんでいるようだった。


「でも天野さん、僕がクラスメート全員を守って、可能なら帰還させてあげれば天野さんの努力は無駄にならないんです。それに、僕は天野さんと一緒にいれることが幸せなんです。だから、僕を導いて下さい。」


「松下くん…」


僕の本心を天野さんにぶつける。


「…うん。わかったわ。君を松下くんを導いてみせるから!」


天野さんは少し黙った後に、涙で腫れた顔を笑顔にして答えてくれた。




トキドキノコ:薬品と一緒に使うと時々、その効果を高める不思議で有用なキノコ。なぜ効果を高めるのかはまだ解明されていない。

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