面倒くさい立場にいる私が面倒くさいことに巻き込まれた話。
私、ミフィア・パレーは中立派に属する子爵家の令嬢である。
あ、中立派っていうのは、今ある派閥、王女派と王子派のどちらにも属してない貴族のことね。どちらにも属してないから、どちらかが王となっても受ける被害は少ない。だけどその反面、どちらの派閥からも敵視され、はっきりと味方と言える者は少なく、立場も不安定で崩れやすい。一挙一動に気を使わなければ、揚げ足を取られて終わり……なんてことも有り得る。
前置きが嫌みったらしく長くなったけれど、まぁ、そんな面倒くさい立場にいるのが私、というのは分かってもらえたかしら?
そんなわけで、これから話すのは、ただでさえ面倒くさい立場にいる私が面倒くさいことに巻き込まれる話よ。
まぁ、愚痴のようなものだから、軽い気持ちで聞いてもらえると嬉しいわ。
じゃあ話すとするわね。
そう、それは去年の秋の社交シーズンのこと……
――――――――――
「はぁ、何で来ちゃったのよぉぉ」
大きなため息をつく私の手に握られたのは王子派である公爵家の開く仮面舞踏会への招待状。
内容を読むと、まぁ本来の身分関係なく仲良くしましょうね(*´∀`)〈お前らうちの言うこと聞けよ?途中下車なんて許さねぇからな?(^^*)〉と言った感じである。しかも私向けにお前は特に仲良くしような(^^*)とまるで後で私の元へ当日公爵令嬢直々に直接来るみたいなことまで書いてある。
どう考えても自分の派閥の団結力の強化とそれに伴ってどう他の派閥をするかの作戦会議、と言った感じで私なんかお呼びでない感じがぷんぷんしている(最後の文は取りあえずスルー)。隠れ中立派ならともかく、はっきりと中立派であると明言しているうちには届くはずがないのだが……
これ、もしかして書き間違い?
確か王子派にタレー子爵家とかいう貴族がいたはずだ。そしてタレー子爵領はうちの隣……あ、これ絶対ミスってるでしょ。
いやでも下級貴族ならまだしも、貴族トップの公爵家がするか?普通。しかもタとパだぞ?タとダとかならまだしもタとパで間違えるか?
ならこれはわざと?でも何の意図があって……?
分からない。意図が全くもって読めない。
どちらにしろ、吹けば飛ぶような子爵家であるうちには王子派トップの公爵家に物申せる度胸なんてない。個人宛の文までついているし……
父に相談したら、“家”で呼ばれてないことを確認してから、じゃあ取りあえず中立派のトップに言っとくわって、朗らかな笑顔でどこかに消えた。
くぅ、役に立たないのは知ってたけれど、ここまで役に立たないなんて……!自分の娘が危機なのよ!?
まぁ気持ちは分からんでもないが……
かつての憧れであった父に幻滅しつつ、私は秘密裏にタレー子爵令嬢について調べ始めた。
そして二ヶ月後、ついにその日がやって来た。
「はぁ、どうにかして体調が悪くならないかしら?」
そう言いながら1時間ごとに計る体温は、うらめしいほどに平熱だった。
一応隠れ中立派には話を通しているが、隠れている以上、表だっての援護は出来ないとのこと。味方は皆無だと思って行動した方がいいだろう。
ちなみに招待状が届いてから返事を出す期限ギリギリに出した参加表明は、楽しみにしてるわの返事と猫の仮面と共に返ってきた。
参加表明の紙を見てみると、そこには公爵家の印鑑が押されており、ここまで来て気付かれないのはもう意図しているんじゃないかと思うほどだ。
でも調べによると、タレー家には招待状が来てないんだよなぁ。まぁタレー家に送らなかった方がわざとかもしれないけども。
おっと、馬車が止まったようだ。
私は猫の仮面を付け、会場へ向かった。
中はもう既に多くの人が来ており、舞踏会そのものは始まってないものの、着々と情報交換が行われているようだ。
もし、私に送られた招待状がタレー子爵令嬢のものであるならば、彼女は少し(かなり)ふしだらなご令嬢らしいので、まず女性は近寄らないだろう。
それに加え、今回の舞踏会は仮面舞踏会なので、よほど変なことをしなければ誰だか分からないだろうし大丈夫だろう。
そして、例の公爵令嬢のことだが……ウン。ワタシ、ナニモシラナイ。ヒトチガイダヨ。
そして私は気配をできる限り断って壁の花となった。
そしてボーンという鐘の音がなると共に、舞踏会は始まった。
軽快な音楽から始まった仮面舞踏会は穏やかに進んでいた。
そして舞踏会も中盤に差し掛かった頃、私はずっと立ちっぱなしだったこともあり、会場端に置いてある飲食スペースに行こうとした。
そのときだった。
「あら、そこにいたのね」
あろうことか例の公爵令嬢(これより後は例の令嬢と言うわね)に見つかってしまったのだ。
よしここは……プランAよ!!
「あの……私に何かご用でしょうか?」
「えぇ、あなたがやったことを聞きたくてね」
その瞬間、私の希望は打ち砕かれた。
余談だが、私は何も例の令嬢にやっていない。そもそも面識すらほぼないと思うのだが……
だがこれで恐らく決定だろう。彼女は私をタレー子爵令嬢だと思っている。
「あの、お言葉ですがどなたかとお間違えでは?」
「あら、とぼけるのね。でもそんな言い逃れは通じないわよ。だって猫の仮面を付けるのはあなたしかいないのだから」
ウン。シッテタ。
だって調べたときに、猫の仮面はかぶるなって他の招待状には書かれていたそうだから。
そして……私たちの周りには例の令嬢の声を聞いて続々と人が集まってくる。
もう、ここから言い逃れることは出来ないだろう……
そうこうしている内に、例の令嬢は何故か王子を連れてきた。いうまでもないだろうが、この二人は婚約している。
「あなた、彼を見て何か思うことはないかしら?」
えっと……何を?
取りあえず何か言っては駄目よ!私。
というか王子連れてきて何か思うことはないか?って、一体何やらかしたんだよ!タレー子爵令嬢!!
「あら、ここでもとぼけるつもり?」
見れば王子は気まずそうにしている。これは……もしや気付いたか!?私がタレー子爵令嬢でないことに。というか、気付いてくれ!!
「では言ってあげましょう。よくもわたくしの婚約者を誘惑したわね!!」
例の令嬢は言ってやったとでも言うように、ふんっとふんぞり返っている。
そして周囲の気温が一気に冷めて行くのを私は感じた。
ヤ バ イ
今ここで知らぬ存ぜぬをすればますます彼女の怒りを買うだけだろう。もちろん私が仮面を外して本当に人違いであることを言っても良いが、それも悪手だ。ではなぜお前はここにいるんだ!で最悪中立派を追い出され、恐らく恩を売られて王女派に入り実質奴隷のように扱われるだろう。
ならばここで私がすべきことは一つ。
タレー子爵令嬢になりきる!!
そう、ここはタレー子爵令嬢になりきって何とか例の令嬢の怒りを静めるのだ。そうすれば後は本人に任せるだけ。そう、とっても簡単よ、私。当人はもちろん周囲の人も私がタレー子爵令嬢であるという先入観を持って来ているのだから。後はそれを利用するだけ。
「どうしてあたしのこと、いじめるんですかぁ~ただみんなと仲良しになりたいだけなのにぃ~しくしく」
私はタレー子爵令嬢にあった情報通りに演じる。
「いじめる?あなた、いじめるという言葉の意味を知ってるかしら。いじめるっていうのはね、弱いものを痛めつけたときに使えることばなのよ。国で取引を禁じている薬物を使ったあなたがいう言葉ではないと思うのだけど?」
ま、まじかぁぁぁ!!
ちょっと待って。まじでヤバイ。これ、今すぐ牢屋行きにされても文句言えないレベルだよ!?
王子派しかいないとはいえ、先程までの内容だけなら王子の方にダメージがいくから不思議に思ってたけど、この内容なら話は別だ。むしろよくぞ罪人を捕らえたって国民の支持が上がることは間違いない。そして、ここには王子派のみしかいない。つまり、やろうと思えばいくらでも話を盛れる。
つまるところ、絶 体 絶 命 だ。
「あたしぃ~そんなことやってません。何でそんなひどいこと言うんですかぁ~しくしく」
そんな自分でも嫌になってくるようなセリフを言っていると、今まで何も言ってこなかった王子がしゃべり始めた。
「そんな戯れ言を信じられる訳がない。事実、貴様が私を誘惑したときの服から、禁止薬物の成分が検出されたのだ。ただ残念なことにまだ実物が見つかっていないのだが……」
あ、王子がわざわざ実物が見つかっていない何て言った。これ、王子は気付いてるな。そしてこの感じ、私を無事に帰そうとしている……?
ふと王子を見ると目が合った。そして小さくオーケーサインをしてくれた。間違いない。王子は私がタレー子爵令嬢でないことに気付いている。
全くの他人に冤罪をかけ、バレたら醜聞になること間違いなしの王子と他の派閥の仮面舞踏会に居て、バレたらおうちが終わる私。
この瞬間、王子と私の心は一つになった。
“何としてでもこの場を切り抜ける!!”
との目標を掲げて。
敵は周囲の貴族と例の令嬢。
ただ、例の令嬢はかなり感情的になっており、まともに相手してもこちらに耳を傾けてくれないだろう。そして、こちらの野次馬に関しては、私がタレー子爵令嬢でないことさえバレなければほっといていいだろう。
問題は、例の令嬢の怒りをどうするかだ。
私調べによると、彼女は清廉潔白な性格で、人々に優しさと思いやりを持って接する素晴らしい人物なのだとか。
そこから考えるに、必要なのはタレー子爵令嬢の謝罪だろう。
私は別にこの場を切り抜けるためなら、彼女に謝罪しても良い。だが、問題は、タレー子爵令嬢がそんな簡単に謝る人物でないということだ。ここで謝れば野次馬達が私がタレー子爵令嬢でないと気付く。
はぁ……取りあえずこれは相手の出方次第だな……
「あなたが王子に対し、違法な薬物を使ったのは分かってるの。証拠もあるわ。だから大人しく白状なさい!」
「何でこんな言うんですかぁ~そもそも持ってたとしてもここにあるわけないじゃないですかぁ~しくしくひっく」
よし、ここにない宣言ができたぞ。
決定的な証拠となる実物が今ない以上、少なくともここで私を捕まえることはないはず。強力な味方もできたし。
あとは王子、援護を頼む!
「う~む。確かに入り口に犬を置いておいたが、薬物の反応はなかったな」
「そうなのですか?」
「あぁ。だから彼女を現段階で捕まえることは出来なさそうだな」
悔しそうにする例の令嬢。
「で、ですがあんな強力な薬物を使用した罪人を野放しにするのはどうかと思いますわ」
「それには同意だ。だから私が人を付けて、令嬢が家に帰ったと同時に家に直接乗り込むのはどうだろうか?」
「でも子爵家とはいえ、勝手に乗り込むというのは陛下の許可が必要では……?」
「あぁ、それに関しては違法薬物が検出された際に既に許可が出ている。元々陛下もあの家には何かあると睨んでいたらしくてな。これを幸いにと好きにしろとのお言葉を下さった」
やべぇー。王子すげぇー。今まで全てが絶望的だったのに、あっという間に事態か好転していくんだが。
というか、話を聞いてる感じ、元々の予定ではここでもきっと誘惑するであろう私を追い詰めて薬の実物を出させるつもりだったみたい。きっと誘惑された王子だからこそ、彼女の考えが分かるのだろう。もしくは実際に聞いたか。
そう考えると、この手際の良さもに納得がいくね。
まず普通の舞踏会に違法薬物を感知する犬はいない。恐らくこの時点で王子は私がタレー子爵令嬢ではないと気付いたんじゃないかな。
その次に陛下も気になっていた家ということ。このおかげで、王子はこのタレー子爵家に関してはほぼ自由に動くことができる。タレー子爵令嬢の拘束後、タレー子爵家への乗り込みを考えたように。
「あ、あたしをどうするつもりですかぁ~何の悪いこともしてないのにぃ~しくしくしくしく」
うわ、自分で言っときながらむかつくな。
「取りあえず現状、決定的な証拠がない以上令嬢を捕まえることはしない。たが、令嬢には疑いが晴れていないため、私の手の者をつけ、屋敷に帰ると同時に強制捜査を行わせてもらう」
「分かりましたぁ!あたしを助けてくれてとぉっても嬉しいです!!ありがとうございます!」
まじで気持ち悪い。
でも、そういう女なのだ。タレー子爵令嬢は。バレないようにことを収める以上、しょうがない。
そして何とか私は無事、家に帰ったのだった。
――――――――――
どうだったかしら?
自分で言うのも何だけど、あの時のなりきりセリフは本当に気持ち悪いわ。
あ、そうそう。タレー子爵家のことだけれど、あの後何も知らない本当のタレー子爵令嬢は強制捜査で違法薬物の内の一つである、人の精神に大きな影響を与える薬が見つかりそのまま直牢屋行きね。入手するだけでなく実際に王子を含めた複数人への使用までしたのだから当たり前ね。たぶん一生牢の外に出ることはないんじゃないかしら。
それとタレー子爵家に関してだけど、こちらも調べると奴隷売買に国で取引が禁止されている違法な物品の売買、また不正に国の書類を改ざんしていることなどなどまぁ、調べれば調べるほど罪状が出てきたわね。
こちらに関しては秘匿処刑が行われたそうね。
まぁ後は特に言うことはないけれど、強いて言うとしたら陛下の睨みは的確だった、かしら?
ちなみに元タレー子爵領は謝罪もかねてうちの領土となったわ。こちらも最近かなり大きな鉱山が見つかって笑いが止まらないわね。
結構長くなってしまったけれど、ここまで愚痴を聞いてくれたのは嬉しいわ。私、かなりの話下手だから、つまんなかったら申し訳ないわね。
あ、ちなみに例の令嬢の名前を書かなかったのはわざとよ。
もし、これが誰か王子派の人に聞かれてたら……と思うと、あの時王子と共に頑張った意味がなくなっちゃうもの。
取りあえず愚痴を聞いてくれて嬉しいわ。もう会うことはないでしょうけど、また会えるのを楽しみにしてるわね。
それではごきげんよう。
一応の基本設定。
とある王国
主人公の愚痴の舞台となった国。中世、とか言いながら独自の発展が進んでる……のかもしれない。今の時代を治める陛下がかなりのやり手なので、こいつがいる限りこの国は平和だろう。
また、この国の建国者が女性と男性の心を持った二重人格だったこともあり、比較的障害者や病人への配慮も良く、性差別などは全くといって良いほどない。そもそもそのような概念があるのかすら疑わしいが……
王子派
王子派の貴族達の総称。例の令嬢の公爵家がトップ。
中立派
中立派の貴族達の総称。主人公のパレー子爵家もここに入っている。この国の現宰相がトップを務める。ある子爵家に送られた招待状の話を聞いた際、頭が痛くなったそう。
王女派
王女派の貴族達の総称。公爵家がトップ。
王子
現妃の第一子。人格的にも器的にも王に相応しい要素を持つが、それが芽吹くかどうかは彼次第である。
王女のことをライバル視している。別に仲が悪い訳じゃない。
王女
側室の子であり、王子と同じ年に生まれた。だがこっちの方が二カ月年上である。
彼女を一言で言い表すなら才女であり、何事もそつなくこなすだけでなく、デメリットを見つけ改善までを1人で行える。
既に民の暮らしがより良くなるように齢にして5歳のときから数々の法案を提出し、その多くが今に反映されている。そのため、国民の支持率は高い。
彼女もまた王としての力量を見せており、それらの使い方次第で人を魅せることも遠ざけることも容易だろう。
タレー子爵家
色んな悪事に染めてた家。タレー子爵家が捕まったとき、領民の歓喜の声が一週間聞こえたとかないとか。
タレー子爵令嬢
名前しか出てこない癖に名前だけなら主人公を追い越した人。(というか主人公の名前は一回しか出てない)
まあ、ボンキュッボンの悪魔ボディの持ち主で違法薬物の使い手でもある。
捕まった後、反省はしたものの外には出れないので、退屈……かと思いきや彼女もまた牢獄ライフを気に入っているらしく毎日愉快な笑い声が聞こえてくるとかこないとか。
主人公
恐らく登場人物全員に名前の登場数が抜かれた人。でも彼女はきっと気にしてない。だって最近宝の山が見つかったんだもの!
父
ミフィアのかつての憧れ。今となってはその欠片もないが。
パレー子爵家
最近大きな鉱山を見つけ、笑いが止まらない家。主な特産品は小麦。財政の黒字だけなら伯爵家にも勝るとか勝らないとか。
作者の書きたい設定を書いただけです。
余計に分からなくなった人、許してくれ。
ここまで読んでくれてありがとうございます!