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54話 ひとごみ

ちゃくちゃくと本番が迫った休日。本格的に近づいて来たこともあり、練習のスケジュールがぱんぱんな月城が息抜きに、と俺たちは日帰りで温泉へ来ていた。


「いきなりどうしたんだ、月城」


日帰りの部屋につき、窓からじーっと外を眺める月城に、俺は問いかけた。


すると、月城は聞こえていないのか外を見ながら目を輝かせている。


「わ〜! 綺麗〜っ!!」


「って、おい……月城。練習は大丈夫なのか?」


「大丈夫だよっ! ……っ、そんなことより見て見て! あの滝、凄くない?!」


そう言って月城は外の滝を指さす。


ライブも近いし、練習は大丈夫なのか、と心配になったのだが、月城は本当に息抜きに来たらしく、はやくも温泉を満喫している様子だ。


そして一通り流れる滝を見終えると、すたすたと温泉へ入る用意を始めた。



それから数分後、俺が椅子に座ってお菓子を食べていると、用意が終わったのか月城が口を開く。


「私、汗かいちゃったから、もう温泉入ってくる。ゆーくんはゆっくりしててもいいからね!」


用意一式を持った月城は暑そうに手をパタパタさせてそう言う。


「ああ、そうだな。少ししたら俺も入るよ」


「うん! 行ってくるね〜♪」


月城はそう言って部屋を出ていった。


一人になった俺がぼんやり外を眺めていると、通知音とともに月城の忘れ物に気づく。


『月城! どこ行ってるの! 練習は! 月城の家、誰もいないよ?!』


月城、スマホ忘れてるな……。それに、練習があったらしく催促のメッセージが美月から届いている。


家にまで押しかけられているらしい……まさかそれを見越して温泉ということか……? 


なんて考えているとさらにメッセージが投下される。


『もうっ!! 昨日も来てないんだから!!』


新事実、月城は今日含め二日続けて練習をサボっているらしい。それでもアイドルかほんとに……。


美月からのメッセージは止まらない。


『大切な用事ってなんなの?! アイドルより大切なの?!』


どうやら月城は大切な用事があるとかなんとかで練習をサボっているようだな。


この旅行のことか、とも思ったが昨日から言っているようだし、これでは無いだろう。


まあ、こんな温泉旅がアイドルより大切だとも思えないしな。


なんて考えていると、俺は不意に人の携帯を覗き見てしまったことに気づき、急いで用意をもち、俺も温泉へ向かった。急げ急げっ。



♢ ♢ ♢



「ふー、気持ちよかった〜」


「気持ちよかったね〜」


風呂から上がり俺たちは合流し、無事に携帯を渡せたのだが、俺は敢えてメッセージのことは知らないふりをした。だが流石の月城も焦ったのだろう。


「わたし、明日からはちゃんと練習戻らなきゃな……」


「そうだな。また、頑張れよ」


「ゆ、ゆ〜く〜ん!!!♡♡♡♡」



♢ ♢ ♢



そして、温泉から帰った後、俺たちはそれぞれのやるべき事をこなしていった。


俺は学校へ行き勉強する、馬場が話しかけてくれるようになってから心做しか学校への足取りが軽かった。


月城もライブに向けて毎日練習を頑張っていた。



それから時は流れ、とうとうライブ本番の前日。


学校や練習から帰ってきた俺たちはいつもより早い時間に布団に入っていた。


「とうとう明日だな。頑張れよ月城」


俺がそう言うと月城は張り切った声で続ける。


「うんっ!! 私、ゆーくんに向けて、頑張ってライブするよっ!」


「ああ。楽しみにしてるからな」


俺はそういって、部屋の電気を消した。とうとうだな、明日が楽しみだ。



♢ ♢ ♢



「ひ、人が多すぎるだろ……」


アリーナ席の最前列で、月城から貰った大量のペンライトを両手に振り回し、俺はポツリと呟いた。


ちなみにペンライトといえば、どうやら月城にも担当の色があるらしく、全てその色に設定されている。


爆音の中、俺はもう死にそうになっている。


なにせ、まだ一曲目だと言うのに、月城は俺を見つけた途端、俺の方向ばかりをみて歌っているのだ。


さらに十秒に一回ペースでウインクやハートマーク、ピースなどのサービスをしてきている。いつまわりがザワついてもおかしくないぞ……。


少しでもいいな、と思っていただけましたら、『ブックマークの登録』や下の【☆☆☆☆☆】から評価のほどよろしくお願いいたします。



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