51話 噂と過去
あれから数日、月城は練習に励み、その分俺が料理を振る舞う日が増えていった。
不思議なことに月城が作った後のあの後味はしなかった。
どうやら家にある調味料や材料となる食材が原因ではなかったらしい。
それなら、あの味は一体……? なんて考え事をしていると聞き覚えのある、懐かしい声が聞こえた。
「おい唯斗、ちょっといいか……?」
俺は驚いた。まさか再び話しかけてくるなんて思いもしていなかった。
「馬場……? なんでお前が?」
俺は思わず目を丸くした。
昼休み、誰にも会いたくない為、コンビニで買った菓子パンを屋上で食べていた。
その後、手持ち無沙汰になった俺が携帯をいじろうとしていたところ、なにやら申し訳なさそうに馬場が話しかけてきたのだ。
「お前に話したいことがあってな」
馬場はそう言うと、俺の傍にじわじわと寄ってくる。
「話したいこと……?」
「ああ。少し、いいか……?」
そういう馬場の表情をみると、ふと、過去を思い出す。
♢ ♢ ♢
「お前、あの噂本当か?」
いつも通りの放課後、深刻そうな顔をした馬場が俺を訪ねてきた。
「噂……? 一体なんの……?」
俺がそう言うと、馬場は溜息をつき呆れたように笑って続けた。
「はあ、お前、まだとぼける気か。正直、俺はお前に失望した」
「失望? ちょっとまってくれ、俺はなにも」
それを聞いた馬場は、もう手遅れだ、と言わんばかりに俺を見つめた。
「お前は最低なヤツだ。佐藤さんともそういうつもりだったんだろ?」
「違う、俺たちは小さい頃からの友達で、本当に俺は芽衣を大切に思っているんだっ……!」
俺がそう言うと馬場はしたり顔で話を続ける。
「何が大切だ、当の本人からもお前には失望だとよ」
「芽衣が……? そんなわけないだろ、俺と芽衣との関係はそんなもんじゃない」
「はいはい、そうかそうか」
馬場が嘲笑してそう言うと、俺は咄嗟に言葉が出る。
「芽衣は俺が気持ちを伝えれば、きっと真摯に考えてくれる。噂に惑わされたりなんかしないっ……!」
「せいぜい淡い期待を抱いとけよ。……この浮気クズ男がッ」
そう言い放つと、馬場は立ち上がりその場を立ち去った。
そして、それ以降、俺たちの関係は崩れた。
話しかけられることは勿論、俺から話しかけることもなくなっていった。
この時からもう、俺たちは友達でなくなってしまったのかもしれない。
♢ ♢ ♢
「ちょっとみて〜? あの子が噂の唯斗って子〜?」
それから噂が噂を呼び、もう対処出来ないところまでいき、学校中へ広まっていた。
毎日のように俺はどこかで噂されていた。
「ぼっちじゃん、ウケる。……てか、馬場ってあの子とよく話してなかったっけ?」
クラスの女子がそう言うと、馬場は俺を横目で見たあと、嘲笑して続けた。
「俺がアイツと? 馬鹿言え、あんなやつ友達でもなんでもねーよ」
そう言う馬場の顔に迷いはなく、絶好したに相応しい表情を浮かべていた。
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