甘えJAWSなお姫様!
「お前、道野だろ」
食事のあと応接間に通されたシャーロット姫は、人払いをしてカナリアにそう言った。
「シャーロットとしての僕はアレルギーとかないんだよ。でもお前、前世の僕がエビアレルギーだったって知ってたよな」
食事の席でのこと。カナリアはシャーロットの前世が甲殻類アレルギーを持つ鮫島であると気が付いて、彼女がエビを使ったメイン料理を食べなくてもいいように取り計らっていた。急遽帝国風の肉料理を用意し、姫にどちらがいいか選んでもらうことにしたのだ。
「僕がエビを選んだ時、お前は”アレルギーの心配はないのですか?”と聞いたよな。この世界に来てアレルギーなんて言葉初めて聞いたぜ」
カナリアは、初めて自分以外の前世の記憶を持つ者に出会った衝撃で何も言えずにいた。
前世での試合中は、どんなに予想外な出来事が起こっても、無死満塁のピンチでも、自分が次に何をするべきか明確に分かっていたというのに。次に口にするべきたった一言さえも浮かばない。
(前世の記憶があるということは、彼女―…いえ、彼がボールを投げた犯人なの?)
それにしては奇妙な点がいくつかある。果たしてシャーロット姫の細腕で、160km/h(体感)のボールが投げられるのか?
そもそも前世の鮫島はキャッチャーだった。いくら強肩でもあの完璧なコントロールと速度はなかなか出せるものではないだろう。
「なんとか言えよ、道野」
「あなたが、わたくしにボールを投げた犯人ですの?」
しまった。あまりにも直球に聞きすぎた。前世での俺はどちらかというと技巧派のピッチャーだったのに。まあ、速球も投げられたからこそ道野龍は天才と呼ばれたのだが。
「はあ?ボール?何言ってるんだお前…」
姫は素っ頓狂な声を上げ、怪訝な顔でカナリアを見た。
「てか、お前、”わたくし”って…」
抑えきれないといった様子で、シャーロット姫は声を上げて笑う。その姿はあまりにも少年らしくて、公爵令嬢として育ってきたカナリアにとっては受け入れがたいものであった。
「すっかり公爵令嬢が板についてるじゃねーか。さすがは悪役令嬢のカナリア様だな」
「16年間公爵令嬢として生きてきましたから。というか、悪役令嬢ってなんなんですの?」
「ん?もしかしてお前、この年になるまで前世の記憶なかったのか?」
微妙に会話が噛み合わない。
「先日わたくし、頭にデッドボールを食らいまして。その出来事をきっかけに前世を思い出しましたの」
「その話し方鳥肌立つからやめろ!」
シャーロット姫は、我慢ならないといった様子で大声を出す。カナリアは、生まれてこのかた大きな声を出したことなどない。姫の態度は、何もかもが貴族の令嬢としてありえないものだ。
「姫こそ、そのような口調は一国の姫としてふさわしくないのではなくて?」
「僕は自分のこと姫なんて思ったことねーよ!赤ん坊の時から前世の記憶の通りにここまで来たんだよ。妹が”甘えJAWSなお姫様”のプレイヤーで助かったぜ」
「な、何を言っているの、あなたは……甘え…なんて?」
何を言われているのか、最初から最後まで分からない。
「ん?いやだから、この世界は”甘えJAWSなお姫様”…通称アマヒメの世界だろ?」
「な、なんて…?甘え…え?」
「まあ道野が乙女ゲームのタイトルなんて知ってるわけないか!」
姫は伝えることを諦めたようだ。
「乙女ゲーム…?どういうことですの?」
「この世界は乙女ゲームの世界なんだよ。主人公はこの僕!サメ姫と呼ばれる海底王国の姫が地上の国の貴族や騎士、さらには帝国の皇太子を手玉にとって玉の輿に乗ってハッピーエンドになるんだ」
乙女ゲーム…?聞いたことがない単語だ。道野龍としての前世は、野球と花蓮さん以外に興味がない人生だった。まあ、興味がないなりに勉強はそこそこ出来ていたのだが。天才だから。
「そしてお前は悪役令嬢カナリアだ!僕が皇太子ルートを進むとお前は破滅する」
「は、破滅…?!」
「ああ!そして僕は皇太子ルートを進む気満々だ!なんてったって、皇后になりたいからな!」
どうやら姫は、カナリアを破滅させる気満々らしい。彼女が言っていることは何一つ理解できないが、このままでは大変なことになりそうだ。
野球要素を増やしてほしいという感想をいただいたので、さっそく取り入れさせていただきました。
感想とても励みになります。お気軽にお声掛けください!




