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死ぬ前に君の笑顔が見たい  作者: 大木戸いずみ
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9.馬

 どの馬が一番足が速いかは小説がボロボロになるまで読んだ私は分かっている。

 真っ黒なあの猛々しい……野蛮な馬。


「あれはムリだ。乗れない」


 鼻息を荒くして、今すぐにでも飛び出そうとしそうな馬を見ながら呟いた。

 あんな馬に乗ったら間違いなく私死ぬ。寿命が短くなるのは嫌だ。けど、今あの馬で行かないと間に合わない気がする。

 私の中で葛藤が生じる。

 行くな、と心は叫んでいるのに、体は心に逆らって獰猛な馬の方へと足を進める。

 なんで自ら死に突っ込んでいるのか分からないけど、なんだかあの馬に乗れるような気もしてきた。


「太郎」


 私がそう言うと、いきなりその黒い馬が叫び声を上げた。

 え、何!? 名前が間違ってたの?


「ポチ! クロ! タマ!」


 色んな名前を叫ぶが、馬の機嫌は一向に良くならず荒れていくばかり。

 他の馬を選んだ方が賢明だろうけど、こうなったらもう意地だ。何としてもこの馬で行く。


「ウマ!!」


 最後にそう叫ぶと、さっき見た光景が嘘だったかのように落ち着いた。

 え、ウマなの。

 確かにウマって名前は可愛いけど、そのまま付けたんだ。……むしろ変な名前よりそっちの方が可愛い気もする。


「よし、ウマ。今からルイス家に行くわよ」


 そう言って近づくと、あっさり乗せて貰えた。さっきまでの機嫌の悪さが嘘みたいだ。

 ただ名前を呼んでもらいたかっただけなの? ……見た目と違って可愛らしい部分もあるのね。

 私は気を引き締めて、手綱を握る。


 ……あ、私ルイス家の場所知らない。盲点!


 私は馬に乗りながら、馬小屋を出る。なんとか雰囲気で乗りこなしている。

 それにしてもウマ、活力が溢れている。今すぐにでも走り出しそうだ。

 ちょっと待ってね、今走り出されたら私、一生この家に戻って来れないから。


「ねぇ、ルイス家ってどう行けばいいか分かる?」


 近くの使用人達に尋ねる。彼らは大きく目を開いたまま固まっている。


「大丈夫?」


 一番近くにいた使用人の顔を覗き込む。すると、我に返ったのか「わぁ!」と声を上げて後退る。

 私、幽霊だと思われてるの?


「ルイス家への道を教えてもらいたいだけなんだけど……」

「あの、シアラお嬢様ですよね?」

「え、うん。そうだよ?」

「も、申し訳ございません! どうか、処罰だけは!」


 突然使用人は血相を変えて、地面に頭を付けて謝り始めた。

 ……これがもし小説のシナリオ通りの話だとしたら、読者の皆はこう思うだろうな。

 はよルイスんち行けよ、って。


「何にもしないから、ルイス家の場所教えて欲しいの! ほんとに今までごめんね! いつもありがとう!」


 切羽詰まった表情で使用人に顔を近付ける。怖さよりも驚きが勝ったのか、彼は大きな声で「は、はい!」と答えた後、道順を教えてくれた。

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