8.
「安心して、もう嫌がらせなんて絶対しないから!」
私は決め顔を共にガッツポーズする。ブレナンは訝し気に私を見ながら何も言わない。
……え、ちゃんと宣言したのに無視!?
まぁ、私のいうことなんて信じてもらえないよね。全く説得力がないもの。
こうなったら勢いで突き進むしかない。このまま私に押されてブレナンが色々教えてくれるのを期待しよう。
「お父様の居場所を教えて! 教えてくれないと嫌がらせしない宣言撤回するよ!?」
「……わ、分かったから。父上は今ルイス家にいるよ」
「ルイス家? エミリーの婚約者のとこ?」
「なんで婚約の話を知っているんだ?」
私の言葉にブレナンが鋭い目を私に向ける。
そう言えば、今日がセオドアと婚約する日だ。私が倒れた日にお祝い事かぁ。やっぱりシアラ可哀想。
「この話は父上と俺しか知らないはずだ」
義母とエミリーにさえ秘密にしていた情報を穢れた血の私が知っているんだもの。そりゃ、不快な気分になるよね。
私が何を言っても、彼は疑いの目を向けるだろう。
「なんとなく?」
あまり話をし過ぎないようにしないと。曖昧な答えをし続けたら彼も話す気なくなるだろうし!
……あ! そうだ!
「今からルイス家に突入しようかな」
思わず心の声が漏れてしまう。ブレナンがギョッとした顔をしたのが分かった。
だって、婚約する瞬間を直接見たいじゃない!
折角、この大好きな物語に転生出来たのだから、特等席に座って鑑賞したい。
「おい……、正気か?」
「大真面目よ」
私は真顔で答える。ブレナンは慌てた様子で声を発する。
「馬車は出さないぞ」
「いいよ。馬に乗っていくから」
そう言って、ブレナンに微笑んだ。
この世界で女が馬に跨るなんて野蛮だし、貴族は絶対にそんなことをしない。きっとホワイト家の名前を汚したと怒られるだろうけど、私は死ぬまで自由に生きる。家名なんて私に関係ない!
「それじゃあ、ハブアナイスデー!」
手をひらひらさせてその場を立ち去ろうとした瞬間、ブレナンに思い切り腕を掴まれた。
「お、おい、待て。馬に乗ったことがあるのか? つか、なんでその発想になるんだよ」
「ないけど、なんとかなりそうじゃない? 馬だと早いし」
ブレナンが目を丸くする。私はそんな彼から掴まれていた腕を引き抜き、声を上げる。
「早馬を! 今すぐ早馬を用意しろ!」
周囲の使用人たちに向かって叫んでみたかったんだよね。古い洋画に出てくるフィアンセを取り返しに行く英国紳士のモノマネ。
彼らは私の言葉にただ驚いて立ったまま動かない。
「私を止めるな! 今すぐ出発するぞ!」
誰一人私を止める声さえかけていないのに、一人で英国紳士を演じる。ブレナンは顔をしかめて、馬鹿を見るような目で私を見る。
あ~あ、もうちょっと皆ノリに乗ってくれてもよくない?
「やっぱり、お前もう一回医者に診てもらった方が良いぞ」
「その失礼な口をもぎ取ってやろうか」
英国紳士のモノマネを止めて、彼を睨む。そして、その場を逃げるように私は勢いよく馬小屋の方へと走り出した。
つまらない茶番してる間にエミリーとセオドアが婚約する瞬間を見逃しちゃう!