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私は壁の前に立ち、そっと手を触れる。
もはや刺激臭に関して何も感じなくなってきた。人間の適応能力……というより、私の適応能力?
すごくない!? 適応能力検定一級獲得だよ。
「よし、壁を壊そう」
ファンタジックな世界戦で、そんな物理的に壁を壊していいのか少し迷ったけれど、いいよね。
閉じ込める人間や閉じ込められた妖精が悪い。私はそれを助け出すだけだもん!
……妖精を傷つけずに壁から出す方法なんて分からない、えへッ。
とりあえず、解決策は私のパワーッ!!! ……なんかめっちゃ頭悪そッ。
ダメだ、今、偏差値3ぐらいな気がする。猿の方が賢い。猿も複雑な顔で「解せぬ」とか言ってそう。
「集中、集中!!」
私はゆっくりと目を閉じる。
ここで妖精を何としても救わないと! 一体どんな顔でレイやナタリーに会えばいいのよ。
向こうも気まずいわ。めちゃくちゃドヤ顔でピザ窯に入って行ったんだもん。
……もう少し不安そうな表情でも作っとけばよかった。後の祭りだわ。
そんな馬鹿なことを考え終えた後、私は全神経を集中させた。
さっきの灯のおかげで魔法を扱うコツは少しだけ掴んだ。後は、応用させるだけ。
私はゆっくりと壁が崩れるイメージをしながら、目の前の赤レンガで出来た壁を崩壊させていく。
宙に浮かぶ赤レンガたちを落とさないように、目を開けた。綺麗に並べられたレンガが一部崩れ、壁の奥が見えた。
……あら、こんな簡単に出来てしまうのね。
これなら、妖精を五人……、五体? とにかく早く捕まえることができそう。
逆に今回は最初だから、余裕だったとか? ……これからどんどんハードになるなんて聞いてないから大丈夫!! 何かあれば全部神様のせいにしよ~~!!
責任転嫁は人間の得意分野だからねっ!
……とりあえず、目の前の妖精を捕まえて、腐敗するのを防いでから考えよう。
腐っていくのを止めるのが今回一番難しい問題だと思うし……。
私は目を凝らし、壁の奥の方を見つめる。
「あれかしら?」
何やら瓶のようなものを発見する。
……絶対あれだ。あまり見えないけれど、あの瓶の中に妖精がいる気がする。
私は体を乗り出し、手を伸ばす。必死に赤レンガが落ちてこないように気を張っている。
魔法を使うのもなかなか大変だわ。初魔法がこれなんて、なかなかセンスがあるんじゃないかしら。
自画自賛しながら頑張らないと、やってられない。
「あと少しッ!」
私は気合を入れ直し、両手で瓶を掴んだ。
その瞬間、勢いよく手前に引いた。宙に浮かんだ赤レンガを一瞬で元に戻した。




