7.弟
医者も家族に私は何にもなかったって嘘をついてくれたみたいだし、少し家族の様子を見てみようかな。
多分私はこの二年でどう足掻いても彼らに愛されることはない。
誰に会うか分からないが、とりあえず、一階へと降りる。
悲しいことに私は良いドレスを持っていない。理由は単純明快。ホワイト家の子だと認めていない嫌われ者の女にはドレスなど買わないからだ。
どうせ横暴な我儘令嬢になるんだったら最高級のドレスでも無理やり買ってもらっといてよ!
こうなったらダメもとで父親に買ってくれるようにお願いしてみよっと。……頼むのはタダだし。
背筋を伸ばして、いつもみたいにガツガツせず気品よく歩く。
使用人たちは目を丸くして私に視線を向ける。
そんなにまじまじと見つめないで。恥ずかしくなってくる。
「あ、ブレナン」
私は視界に入ってきた人物の名を思わず口に出してしまった。
血が半分だけ繋がっている私の弟。歳は一歳しか変わらない。……ブレナン・ホワイト。
ブレナンは私に気付くと、とんでもない形相で私のことを睨みつける。
めっちゃ嫌われてるじゃない、私。確かに嫌われるようなことはしてきたけど、もう少し睨みの威力を緩めて欲しい。
彼の容姿は全て母親譲りだ。茶色い髪にブルーの瞳……私と似ているところが一つもない。彼の中での私は「他人」だろう。
私の性格がもうちょっと丸かったとしても、きっと彼とは仲良くなれていないと思う。
「えっと、名前呼んでごめんね!」
私は彼の機嫌をこれ以上損ねないように、精一杯の謝罪の気持ちを伝えた。
ブレナンは訝し気に私を見つめる。彼が私をこんな風に見るのは初めてだ。
「あのさ、お父様どこにいるか知らない?」
私の質問に彼は更に眉をひそめる。本当に私と話したくなさそうだ。
ブレナンの様子を見ている限り、私と一緒にいるだけでも嫌そうだもん。
だんだんシアラが気の毒に思えてきたよ。私これでも一応姉なのにね!
「私と喋りたくないのちゃんと分かってるから! だから、これだけ答えて。父はどこにいるの!?」
下手に出てたけど、無視する人間の方が悪い。
少し声を荒くして、ブレナンに詰め寄る。彼は私のいつもと違う様子に少し後退る。
「倒れて頭おかしくなったのか?」
「性格が変わったって言ってよ。あ、人が変わったでもいいよ」
「何にもないなんて嘘だろ。きっと、何かの精神病だ。倒れる前の言動も正気の沙汰とは思えないものばかりだった。お前を父上に会わせるわけにはいかない。別の医者に診てもらえ」
全然話さないと思えば、急に饒舌になるじゃない。そんなに私が病気じゃなかったことがショックだったのかしら。
それに、ベンに失礼だわ。彼は優秀な医者よ。
ブレナンは話を続ける。
「そもそもお前なんてこの家の人間じゃないんだ。前に母上のスープに銅貨を入れたのもお前だろ」
そういえばそんなこともあったような……。
シアラが「シアラ」であった時の記憶を辿る。
確かあの時は、義母が私に一週間玉ねぎしか入っていないスープしか与えなかったから、仕返ししてやったのよ。
私はオニオンスープダイエット出来たと思っているから、特に何とも思ってないけどね。