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ピザ窯へと向かうと匂いはさらにきつくなった。「うげっ!」と思わず心の叫びを口に出してしまう。
鼻の死亡が確認されました。グッバイ、私のノーズ。
墓会社に連絡して、鼻用の墓を作ってもらおう。
ピザ窯に死体でもあるのか! ピザ窯にはピザしか入れないで!!
「大丈夫か?」
レイが私の顔を覗き込む。
いきなり現れたその綺麗な瞳に目まで死亡しそうになる。
五感のうちの二つも使いものにならなくなるのはきつい。墓会社もビックリしてしまう。
私は彼から目を逸らして「だいじょうびゅ」と答えた。
強烈な臭いにやられてか、噛んでしまった。仕方ない、レイもこればかりは見逃してくれるはず。
私しかこの臭さを感じられないって、どんな嫌がらせよ!
意味不明な自分の状況に怒りを感じながらも、私は手で鼻を強くつまみながらピザ窯へと近づく。
「腐敗臭じゃないんだよね……。なんて言えばいいか分からないこの臭さ……」
「シアラには気の毒だけど、だんだん面白くなってきた」
「全く楽しくないわよ」
……ん?
この状況を楽しんでいるなら、もしかしたらレイを笑かせることができるかもしれない?
自分が地獄みたいな状況なのに、私はレイを笑わせることを考えた。
ただ、だんだん面白くなってきたって言ってるのにずっと表情を崩さないんだよね。面白いなら、面白そうな表情をしてほしい。
「俺にそんな特別な能力がなくて良かった」
「どうせなら嗅覚よりも聴覚のパワーアップが良かったです」
私は少し不貞腐れながら答えた。
なぜよりによって嗅覚なのよ! 神様は私のことが嫌いなわけ?
だから、私をファデスを患っている悪役になんかに転生させたとか? ……神様にグーパンチを食らわせたい。
『また、この小娘は物騒なことを考えているな』
脳内で突然男性の声が聞こえた。
あれ? この声って……カミサマ? このタイミングで?
この私が鼻もげそうになりながらもピザ窯に頭を突っ込もうとしているこのタイピングでいきなり話しかけてくる?
もうちょっと空気読んでほしい。
『お前だけだぞ、私にそんな無礼なことを言ってくるのは』
言ってないし、思っているだけだし。
声に出したら、レイとナタリーに訝し気に見られるに違いない。
完全に変人扱いされるのは避けたい。神様は私の心の中の考えを読み取ってくれるから便利だ。
ただ、考えていることまるわかりっていうのは嫌だけど……。
『久しぶりだな、元気だったか?』
今のシアラはもはや元気なことしか取り柄がないよ。ファデスでも懸命に生きてんだよ。
それにしても、前回中途半端に話を終わらせて、よくこのタイミングで現れたね。
『私も忙しいんだ』
時間ぐらいこじ空けて!
私の命の短さは神様が一番知ってるでしょ?
『すまない。……それにしても、あと二年で死ぬというのに明るい性格だな』
……かかと落としぐらいしても許されるわよね?
誰があと二年後に死んでしまう体に転生させたのよ!
いや、今はそんなことよりもこの猛烈に臭い地獄から抜け出したい。神様と話している暇なんてないぐらいに、先にこっちを対処したい。
『死を免れる方法を教えにきたが、今度はお前さんが忙しそうじゃな』
…………言って!!!




