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死ぬ前に君の笑顔が見たい  作者: 大木戸いずみ
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6.

「あ、ありがとうございます」


 ベンは戸惑ったまま口を開く。

 さっきまでの威厳はどこに行ったの……。私をそんなツチノコ発見した目で見ないで。


「やっぱりどこか悪いんじゃ……」


 ナタリー、それ失礼だからね?

 突然倒れて、病気で性格を変わったってことにしよう!

 だって、今からあのシアラを演じろって言われても無理。今のシアラは前世を思い出しちゃったシアラだもん。私は私のままでいるしかない。


「とりあえず痛みを和らげる薬だけでも出しておきましょう」

 

 ベンは眼鏡を人差し指でクッとあげてそう言った。

 痛み止め飲んでも、そもそも痛みを感じないから意味ないんだけどな。この点については本当に神様に感謝しないとね。


「ありがとうございます」


 私はベッドの上に立ったままお辞儀をした。

「それと、このことは家族には伝えないで頂けますか?」


 ベンの目を真っ直ぐ見ながら続けて言葉を発した。

 ここはほとんど原作と変わらない。シアラはずっと病気だということを家族に隠していた。……まぁ、途中でばれるんだけど。

 でも、今あの家族に伝わったら、絶対にこの部屋に監禁。後二年しか生きられないっていうのに、自由を奪われてたまるか!

 残りの人生謳歌したい。「ファデス」ってことはベンとナタリーを殺してでも隠蔽しないと。

 ……いや、殺すはやり過ぎだからやっぱり殴って記憶を抹消しよう。


「どうしてですか?」

「私も分かりません。今のお嬢様の状態をご主人様にお伝えした方が良いと思います」


 ベンとナタリーが不思議そうに私を見る。

 あの父親に言っても私に無関心だからきっと「ふ~ん、それで?」とか言われて終わっちゃいそうだよ。だって、小説によると、私が死んだ後、遺体も見ずに汚いからって冬の森に捨てたらしいし……。

 なんて残虐だろう、って思ったけど、シアラもそれ相応の行動はしてきたからね。自業自得かも。

 けど、私を受け入れなかった家族にも少しぐらい非がある。ここまで性格は歪む必要なかったけど、歪むのも分からなくもない。

 だって、誰にも愛されない上に、死ぬんだよ? 

 そりゃ、ムカつくよね。自暴自棄になって、孤独になるのも理解出来る。だからって人を傷つけて良いわけじゃないけど。


「お父様は私のことなんて何とも思ってないし、家族に迷惑かけたくないからさっ」

 

 私は口角を少し上げて笑う。

 これが本心だ。家族に迷惑を掛ければ、その不満の矛先が私へと向かう。それは勘弁。

 喋り方が変わったことに驚いているのか、私の考え方に驚いているのか……。彼らはまだ私のことを目を見開いたまま見つめる。

 少し間があった後、ベンがフッと笑った。


「死を直前にすると人は変わるといいます。お嬢様は今回倒れた時にもう覚悟していたのでしょう」

 

 確かに死を直前にして人は変わった。変わったというより代わった? 

 ベンの解釈はなんか違うような気もするけど、そういうことでいっか。

 私は満面の笑みを浮かべて「私は大丈夫だよ」と彼らに伝えた。その時にベンとナタリーの顔は酷く切なく苦しそうに見えた。

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