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リアムはまだ険しい表情を浮かべたまま口を開いた。
「あと何年なんだ?」
「余命のこと?」
「……ああ」
「二年ぐらい? お酒デビューできるか微妙だよね~」
十八歳にお酒飲んで酔っ払いながら死ねたら良いな、と思ってしまう。
ふわふわと皆と談笑しながらぽっきり逝けたらいいのに……。放火みたいにずっと苦しいのは嫌だ!
神様、それぐらいは配慮してよね。今回の死に様を考えながら私は話し始めた。
「そんなしんみりしないで。死ぬまでに沢山リアムの家のケーキ食べにくるし! てか、ここの絶品ケーキを頬張りながら死ぬのもアリかもしれない。美味しすぎて幸せで昇天しそう! って言いながら本当に昇天しちゃったりして~」
おっと、ここは笑って?
ナタリーも「それは滑ってます」みたいな目で私を見つめないでほしい。相変わらずリアムは全く表情を変えないし……。
カオス過ぎない?
もっとスマイルスマイル!
…………さっきから、私が必死に場を明るくしようとしてるのに!
なにこのお通夜の雰囲気? 私、まだ生きてるよ? 勝手に殺さないで?
お皿に乗った食べかけのチーズケーキを思いきりフォークで刺す。フォークが突き抜け、ガンッとお皿とぶつかる音が響く。あまりにも勢いをつけすぎて力の加減を上手く出来なかった。
私はじっとリアムの双眸を軽く睨みつける。
「悲しむなら私が死んでからにしてくれない?」
私の言葉が部屋の中に綺麗に響いた。
リアムは私の迫力に少し目を見開く。まさか逆切れされるなんて思ってもみなかったのだろう。
私が死ぬことに対して悲しんでくれることは有難いけれど、今じゃない。もう少し生きさせて。
「たしかに友達がファデスにかかってたらショックだし、受け入れるのに時間がかかるけど、折角今一緒にいるんだから、楽しい思い出作っていこ! これから会うたびにそんな暗い雰囲気だったら嫌だよ。私のお葬式の予行練習はやめてよね」
折角、公爵令嬢に生まれ変わったのだから、悠々自適な日々を送りたい。……まぁ、訳あり令嬢だけど。
「そうだよな。一緒にいる時にこんなに落ち込まれたら困るよな。一番辛いのはシアラなのに」
「いや、辛いのは残されたほうだよ」
私はリアムの言葉をさらっと否定した。
リアムもナタリーも「え」と小さく口をぽかんと開けて私を見つめる。
「死人はもう生きている人を想うことなんて出来ないけれど、残された人たちは死人を想うことは出来る。それってきつくない? だから、私は残された人たちの方が辛い思いをすると思っている。思い出を作れば作るほど、愛すれば愛するほど、失った大きさは計り知れない。…………けど、私は一人で死にたくない。幸せな思い出を作りたいし、愛し愛されたい。ほら、私って我儘な女だから」
シアラとして残りの人生を謳歌したい。
だから、出来るだけ病気のことは隠していたかったのよね。「可哀想」って思われたくない。いつも通り普通に接して欲しい。
完全に隠すことなんて難しいことは分かっているけれど、ギリギリまでは耐えたい。
死ぬときには、詐欺師並みに嘘が上手くなっていそう……。




