54 リアムのお店
馬車から降りて、私はスキップをしながらリアムのケーキ屋へと向かう。
「目立ちすぎないようにしてください」
ナタリーにそう言われて、私はフードを深く被る。それでスキップはやめられない。もうすぐ至福の時間がやってくるのだから!
店のに入る前からもうすでに甘い匂いが漂っている。食欲が刺激されて、お腹がなりそう……。
私のルンルンな様子にナタリーは「お嬢様が幸せならいっか」みたいな表情を浮かべる。
ナタリーが私の侍女で良かった……! ナタリーしか勝たん!
彼女にも早くリアムの店のケーキを食べてもらいたい。ナタリーとお茶会をしようじゃないか。なんたって、シアラには友達がいない!!
私は心を躍らせながら、可愛らしい外観をしたお店の扉を開ける。
「いらっしゃ~~い! ……あ!」
リアムはすぐ私に気付く。奥から私の元へと駆け足で寄って来る。
今日はエプロンしてるんだ。見た目は「男の子!」って感じなのに、エプロン姿が良く似合っている。
奥さんよりもエプロンが似合ってしまう旦那、で噂される未来が見える。
良いな! 私なんてきっと、旦那よりも死ぬのが早すぎた奥さん、で噂されちゃうよ。
その場にいた数名の常連であると思われるお客様たちに「お? 彼女かい?」なんてからかわれている。
「シアラ!」と嬉しそうに笑みを浮かべる。その屈託のない笑顔に私も爽やかに微笑み返す。
きっと、フードで見えてないけど!
リアムは私の後ろにいるナタリーを一瞥する。前回は私一人だったけど、今日は侍女がいる。
前よりかはお嬢様っぽくなったんじゃない?
ごきげんよう、とか言った方がいいかな。普段の喋り方とか振る舞いが「令嬢」から程遠いもんね、私。
「今日は一人じゃないんだな。何か食ってく? それとも持ち帰り?」
「お嬢様にため口……」
ナタリーがリアムを軽く睨みながらボソッと呟く。その声に反応して、リアムが「あ、えっと」と戸惑い始める。
「ナタリー、リアムは別にため口で良いんだよ。なんたって、友達だもん!」
「知り合いっておっしゃっていたじゃないですか」
「じゃあ、知り合いにしておこっと」
私がそう言うと、リアムは目を丸くして「え」と驚く。
前にリアムも俺の家のケーキを食べたら友達って言ってくれたけど、あんなの社交辞令だもんね。
知り合い以上友達未満? たまに喋るクラスメイトみたいな感じ?
「そんな適当でいいんですか」とナタリーが少し呆れた様子で私とリアムを見つめる。
「じゃあ、仲の良い知り合い?」
「それは友達だろ」
「じゃあ、やっぱり友達だ!」
私が明るい声を発すると、リアムはナタリーの方へと視線を向ける。二人は目を合わせて、視線だけで上手く意思疎通している。
「……こいつに仕えるの苦労するだろ」
ナタリーはリアムの言葉に大きく頷いた。
なんてこった、勝手にナタリーとリアムで同盟を組まれてしまった。




