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「話はまだ終わってないわよ! まだお母様にも謝っていないじゃない! 全てを台無しにした責任を取りなさいよ! セオドア様にホワイト家の醜態を見せたのよ!?」
私と会いたくないって言ったのはエミリーの方なのに、今じゃ私と随分と話したがっているじゃない。
去ろうと思えば、話しかけてくる。私のこと大好きじゃん!
「所詮、あの女の血を受け継いでるってことね!」
「あ~、もう、いい加減にして?」
私は母を出されたことで、何かがプツンと切れた。私の低い声と冷たい視線に彼女はビクッと小さく体を震わせた。
「あの時、彼女は全てを台無しにしようとしてたのよ? それを私が阻止してあげたの。むしろ感謝して?」
私は目だけでにっこりと笑った。
実母のことは全く知らない。それはエミリーも一緒だ。母のことを何も知らないのに、貶さないでほしい。
きっと私の母は父に妻がいることを分かっていただろう。なんたって、父はホワイト家の当主なのだから。
そういう意味では、たしかに母にも非がある。それでも、やっぱり母を悪く言われるのは良い気がしない。
エミリーは私の言葉で少し冷静さを取り戻す。
「もしあのままお母様が暴走していたとしても、私は止めるつもりはなかったわ。貴女になんて絶対に感謝しない。…………私は、貴女が幸せになるのが許せない」
「私はエミリーに幸せになって欲しいよ」
良い人を演じるためにエミリーにそんなことを言ったんじゃない。本心だ。
だって、この小説が大好きだったんだもの。
一ファンとして、ヒロインには幸せになってもらわないと! 私が死ぬまでにね!
エミリーは「ハッ」と鼻で笑う。私の言っていることを全く信じていない。
そりゃそうだよね。「あんたが言うなよ」って言いたくなるよね。私もエミリーの立場ならそう思っていると思うよ。
「私がそんな台詞で懐柔されると思った? 私は騙されないわ」
「私も騙す気ないから安心して」
あまりにも敵対心を向けられすぎて、もうどうでもよくなってきた。
エミリーとちゃんと話したのはこれが初めてだけど、少しも距離が縮まらなかった。むしろ、関係が悪化した気がする。
まぁ、人間同士なのだから合う合わないはあるよね。適当に距離置いてこ!
「じゃあね~」
エミリーはまだ私に対して何か言いたげだったが、私はエミリーの隣をスッと通り、その場から離れた。
さっきは二人に会いたくなくて来た道を戻って行ったけれど、本当はこっちの方面に進みたかったのよね。
ナタリーはブレナンとエミリーに軽くお辞儀をして、私について来る。
「どこに行くんだ?」
後ろからブレナンが私に声を掛ける。
私は振り返らず、前を向いて歩きながら「ひみつ~~」と彼らに聞こえるように呟いた。
エミリーはこの後、私を監視するだろう。従者に「あの女を尾行して!」って言うんじゃないかしら。
そんなドラマみたいな台詞、死ぬまでに一度は言ってみたい。「前のタクシーを追って」みたいな緊迫感と一緒だよね。
悲しきかな、私は犯人側なのよね。なんとか逃げ切らなければならない。
「……ナタリー」
「なんですか?」
「今から私たち追われることになると思うの」
「妄想ですか?」
本当に失礼だね、ナタリー。もう少し私に対する敬意を持って。




