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「何にも企んでないよ」
怒りで顔を真っ赤にしたエミリーに対して、私はケロッとした笑顔を彼女に向ける。
「嘘よ!!」と彼女は大きな声を出す。今まで聞いてきたエミリーの声の中で一番大きい声だ。
……レディとしての落ち着きがなくなってきている。
「そう言われても、本当なのよ……。ちょっと、ブレナン、何か言ってあげて!」
ブレナンに話を振る。彼は「え、俺?」と眉をひそめる。
「貴方が最初に私を引き留めたんでしょ。責任を取ってエミリーに私が何にも考えてないって伝えてよ。レイ様を脅したわけでもないし、エミリーを陥れるつもりなんて微塵もない。なんなら、この家族にあんまり関わりたくないもの」
最後にそう言うと、ブレナンは少し寂しそうな表情をした。
……ブレナン、貴方が私をはみ出し者にしてたんだからね?
まぁ、あの時はシアラにもかなり酷かったから、虐められてしょうがないって部分はあったけど。
「……姉さん。こいつは本当に何も企んでないと思うよ」
さっきは名前で呼んでくれたのに、もう「こいつ」呼びに戻ってしまった。
ブレナンがそう言っても、エミリーの怒りが収まらない。大切な母親を傷つけられて、弟まで悪女に洗脳されたと思っているのかもしれない。
まぁまぁ、と言いたいところだけど、私がこれ以上喋ると余計に怒らせてしまいそうで何も言わないようにする。
「……ブレナン。まさか貴方、この女の味方をするの? お母様も言ってた通り、騙されているのよ」
「姉さん、何言ってるんだよ……。俺は普通だよ」
エミリーって、まさにどろどろの暗い恋愛小説のヒロインって感じだよね。……少し癖のある女の子だ。
シアラは本当に小説の中で超悪役だ。……って考えると、彼女の見解は正しい。
ブレナンはエミリーが私に過剰に反応し過ぎていることに対して少し引いている。彼女は私に視線を移して、鋭い目で私を見つめる。
「……私の弟に何したの?」
大丈夫か、ヒロイン。
「ちょっと落ち着きなよ」と思わず言葉に出してしまった。そんな殺意を向けられても、私はどうしようもできない。
今さら超悪役に戻れって言われても難しい。私にそんな演技力はないもの。
「落ち着いてるわよ!」
「落ち着いてないよ!」
エミリーの迫力に乗ってしまい、同じ声量で返してしまう。
必死になるのも分かるけど、今のエミリーはちゃんと会話を出来る状態じゃない。私に対しての嫌悪や憎悪のせいで、これじゃあただの八つ当たりだ。
「私、もう行ってもいい?」
エミリーを相手にするのが面倒くさくなったので、隣にいるブレナンに許可を得る。彼は居心地悪そうに頷いた。
これ以上彼も私がここにいない方が良いと判断したのだろう。
やっと解放される~~!




