5.
ベンは私に病名を言うか言わないか迷っているのだろう。
もしかしたら、私に「ファデス」などと告げると不敬罪になると思っているのかもしれない。なぜなら、「ファデス」は治療の方法が一切ない病気。私に死ねって言っているようなもの。
安心して、全部最初っから知ってるから!
なんならあの神様を不敬罪にしたい。……いや、神様相手だと不敬罪になるのは私か。
「シ、シアラお嬢様……」
ナタリーは目にいっぱいの涙を浮かべながら私の方を見つめる。
私の病名はまだ伝えられていないのに、さっきの手のひらから放たれた光の様子を見て、私の病気が死に関わるものだと察したのだろう。
私の病名を聞いてきっと悲しんでくれるのはナタリーだけね。好き!
「お嬢様、落ち着いて聞いて下さい」
「は、はい」
彼の目力に思わず負けてしまいそうになる。ベンは深刻な表情を私に向けて口を開いた。
「私がここで病名をお伝えすると死刑になってしまうかもしれません。ですが、私は医者です。患者に嘘をつくことなどできません」
「分かったわ。言って」
私は取り乱すことなくそう言った。その様子にナタリーが驚いている。
本来の私なら、ここは怒鳴って暴れているはずだからね。こんなに落ち着いていたら気味悪いわよね。
「治療薬もなく治せる見込みはゼロです」
その言葉でナタリーは理解したのか、ハッと手で口を覆う。そして、潤んだ瞳から涙が零れ落ちる。
「ファデス、です」
ですです、って続いてちょっと面白い。
少し笑いそうになってしまうのを必死で我慢する。今ここは笑うところじゃない。空気を読まないと……。
「私の寿命は後どれくらいですか?」
出来るだけ明るい口調で尋ねる。
今のこの部屋の空気がお葬式かってぐらい暗い。まだ死んでいないんだから、もうちょっと元気出していこうよ!
私の質問に、ベンは、え、と声を漏らす。
まさか私の病気を「ファデス」と診断されて、こんなに冷静な対応をすると思わなかったのだろう。それに私の悪い噂もいっぱい聞いていただろうし……。
「私を咎めないのですか?」
咎める? どうして?
あ、もしかして不敬罪で死刑にさせられるとか思ってるのかな。そんな非人道的行為は今の私はもうしないよ!
私は慌てて誤解を解く。
「自分の体のことは自分が分かっているから! だから、全然先生を殺すなんて天と地がひっくり返ってもあり得ないから!」
思ったより声が大きくなる。
ベンもナタリーもびっくりしているが、私もびっくりしている。なんたって、勢い余ってベッドの上に立ち上がってしまった。