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……ナタリーの姉? 誰だ?
急な登場人物に私は思わず首を傾げてしまう。
そんな人、一度も小説に出てこなかった。そもそもナタリーに姉がいたなんて初耳だし。
「私の姉、物凄く裁縫が得意なんです。でも……、足が不自由で歩けなくて、どこも雇ってもらえなくて……。やる気はあります。だから、どうか一度会ってはもらえませんか?」
「いいよ」
私は少し怯えながら話すナタリーに即答した。
まさかそんなあっさり承諾すると思わなかったのか、ナタリーは目を丸くして私を見つめる。
「いいのですか……」
「うん、今からにでも会いに行く?」
「あ、あの、姉の病気がうつるとか、自分の足も不自由になるかもしれないとか思わないんですか?」
一体どんな伝染病だよ、と心の中で突っ込みながら「全く」と短く答える。
きっと、ナタリーの姉は今まで「ただ足が不自由」ってだけで、あることないこと沢山言われてきたのだろう。
特に貴族たちには厳しい目を向けられてきたのかもしれない。
ナタリーも苦労してるね。
伝染病じゃないって完全に分かっているけれど、もし私が「ファデス」だということが公に知れ渡ったら、私もきっと酷いことを言われるわよね……。
覚悟しておこっと。こんにゃくのようなメンタルを持って、チクチク言葉を全て跳ね返してやるわ。
「その前にお父様のところへ行ってもいいかしら?」
「もちろんです」
彼女は明るい表情で頷いた。
父に用事があるのは、もちろん義母への謝罪……などではなく、お金を借りるため!
というか、可愛くおねだりしたらお小遣いとかもらえないかな?
まぁ、そんなちょろい父ではないわよね……。
「いくらでも持っていきなさい」
ちょろかった~~~!!!
父の部屋に入るなり、「お金借りたいです」と堂々と伝えた。今更父に媚を売っても仕方がないと思い、少しも可愛げな態度を取らずに……。
そしたら、即座にこの返答である。
義母に鼻フックした影響が父まで影響しているのかしら。そんなにショックだった?
「え、あの、え?? ……いいんですか? 何に使うかも聞かずに?」
余計なことは一切言わずに「ああ」とだけ彼は返答する。
何がどうなっているのかさっぱり分からない。病名を悟られたわけでもなさそうだし。
……本当にあった怖い話みたいになってきた。
「それってレイと婚約したから? それとも心を入れ替えたから?」
心で呟くはずの言葉がつい声に出してしまっていた。
昨日の一件で私のことをホワイト家の一員だと嫌でも認めなければならなくなっただろう。だから、こんないきなり不気味な態度を取っているのかもしれない。
個人的に後者なら嬉しい。……けど、そんなに世の中は甘くないよね。
「両方だ」とボソッと彼は聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。私にはちゃんとその声は届いた。
あら……。こういう時ってなんて返答すればいいのかしら。
私が黙っているのと、父は机の下から何か取り出して、ドンッと見覚えのある袋を机の上に置いた。
「お前が持ち出したお金だ」




