42
「それでも公爵令嬢であることには違いない」
セオドアもやはり義母の言葉を不快に感じたのか、落ち着いてた様子でそう言ったが、声に怒りが籠っているのが分かった。
彼の言葉に義母はばつの悪い顔をする。
「そこでだ」と、セオドアは話を切り出した。父はその声にビクッと体を震わせる。
もう、大公爵様なんだったら、もっとピシッとしなさいよ。そんなに王子が怖い?
……あ、愛娘の婚約取り消されたら困るもんね。でも、安心して! 愛娘じゃない方の娘が婚約することになるから!
しかも、レオだと将来お金で苦労するようなことも絶対にない。死ぬ運命なのに、私ってば幸せ者~!
「私の側近レイ・アシュビーとシアラ嬢の婚約を考えている」
セオドアの突然の発言に家族一同は固まる。
そんないきなり言われても理解出来ないよね、分かるよ。昨日の私もそうだった。
けど、昨日のおかげでしっかりとセオドアの免疫がついた私は、さっきの彼の発言で、あれ、セオドアって一人称って俺じゃなかったっけ? なんて考えていた。
「こ、こんやくですか?」
ようやく声を出した父に「ああ」とセオドアは返事をする。
「何か不満か?」
そう付け足すセオドアだが、誰も反応出来ない。きっと、私が婚約するなんて空前絶後の出来事だったんだろう。
きっと、義母はどうにかしてこの婚約の話をなしにしたいはずだ。だって、シアラを幸せになんかしたくないもんね。
けど、王子の決定を覆すことなんて出来るのかな。
「この子は出来損ないの娘ですよ」
義母の困惑した声が部屋に響く。
私を出来損ないにしたのはあんただろ、とつい品のない言葉を心の中で呟く。
「出来損ないかどうかは私が決めるので」
レイは感情を表に出さず、そう言った。
けど、義母はこんなところで引き下がるような人じゃない。これから必死で私の悪口を言うんだろうな。
そして、見事私の予想は的中する。
「この子は、うちの娘のエミリーを虐めていたんですよ。殿下、どうか私を信じてください。騙されているんです。親子ともどもろくでもないんです。非道な悪行を繰り返し」
「では、あなた方は今まで彼女に何もしなかったと?」
セオドアは義母の言葉に重ねるように聞き返す。
彼はニコッと微笑む。そして、父の方に視線を移す。
「親子ということは、ジェイコブ殿もろくでもないということですね」
容赦ないな、この王子。
え、と父は声を漏らす。エミリーとブレナンはセオドアの圧に怖気づいているのか、硬直している。
エミリー、近い将来、この王子様と結婚することになるんだけど、大丈夫? メンタル持つ?
王子は淡々と話をする。
「シアラ嬢に衣食住をまともに与えていたのですか? 教育は? ……本当に怖いのは、何も仕返しをしてこなくなった時ですよ、夫人」
こっっっわ。絶対セオドアだけは敵に回さないでおこう。




