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死ぬ前に君の笑顔が見たい  作者: 大木戸いずみ
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 レイの「火傷男は嫌か?」と「いいですよ、結婚」という言葉が重なった。


「「え?」」

「あ、結婚じゃないか、婚約か」


 そこはちゃんと訂正しないと。婚約と結婚は同じようで全然違うからね。


「いいのか?」


 レイが疑うように私を見る。セオドアもまさか私がすんなり承諾すると思っていなかったのか、目を丸くしている。


「私で良ければどうぞご利用ください」


 ん? なんか違う?

 自分で言っていて、よく分からなくなってきた。けど、利用されていることには変わらないから、これでいいような気もする。

 セオドアは目をパチクリさせながら口を開く。


「気分を害したりしないのか?」

「特に。それに、私はまだ利用価値があるだけ光栄です」

「エミリーの母は、かなり手ごわいだろうな」


 セオドアは苦笑する。それに対して、レイが私の方をじっと見つめて口を開いた。


「よく今まで耐えれたな」

「……私もそれでひねくれちゃった所はあるんだけどね」


 実際、前世の記憶が戻らなかったら、シアラはどんどん悪の道へと進んでいっただろう。進んでいくって言うよりかは突進するスピードで悪女になっていたと思う。

 それぐらい彼女の精神は崩壊してたってことだ。


「シアラは強い女だな」


 ……名前を呼ばれた。どうしよう、レイに名前呼ばれちゃったよ! それに褒められた!

 レイに私という存在を認識させれたんだって実感する。……私、今日死ぬのかな?


「俺達が伝えたかったのはこれだけだ。あの家は何に使うのか知らんが好きに使ってくれ」


 セオドアはそう言って、私に特上のスマイルを向ける。どうやら無事交渉が成立して気分が良いようだ。


「あの、一つ質問良いですか?」

「何だ?」

「どうしてレイ様に爵位が必要なんですか?」

「レイに正式な立場が必要なんだ。彼には次期宰相になってもらいたくてね。このままだとずっと私の従者として働くことになる。彼の能力が発揮できずに一生を終えてしまうなんて勿体ないだろ」


 確かに国王がセオドアになった時、レイが宰相になればこの国は安泰しそうだ。原作でも確か公爵とは言わなかったが、それなりに良い地位の女性と結婚していたような気がする。

 私は「なるほど」と頷く。


「じゃあ、俺達はこれで」


 セオドアが立ち上がったのと同時に私も立ち上がる。


「見送りは大丈夫。俺らも勝手に来ただけだし」


 ナタリーが彼らが帰れるようにと、扉を開ける。

 あ、そう言えば、ナタリーにがっつり会話を聞かれていたんだけど、大丈夫なのかな?


「他言は決して致しません」

「それは有難い」


 頭を下げるナタリーにセオドアは穏やかな笑みで言葉を返す。

 ナタリーのことだから、信用は出来る。

 二人がこの部屋から出て行くのを見送る。レイは部屋を出る瞬間立ち止まり、私の方を見た。


「そのドレス、よく似合ってるな」


 それだけ言ってレイは部屋から出て行った。

 私は呆然としたまま、柔らかい椅子にポスッと腰を下ろす。

 扉の外から、「婚約する前にあんなにプレゼント渡しちまうなんてモテる男は違うな~」とセオドアがレイをからかう声が聞こえた。

 ……夢?

 あの朝の大量のプレゼントはレイからだったの? ……えええええ!?

 落ち着け、私。

 右手に心臓を当てて、ゆっくりと深呼吸をする。どれだけ冷静になろうとしても、感情が暴走している。


「ナタリー、私のことを思いっきりビンタしてくれない?」


 え、と戸惑うナタリー。けど、私は勢いよく椅子から立ち上がる。そして、ナタリーの前へと立った。

 ナタリーは困惑した様子で私を見ている。


「これは命令よ。私をビンタして」

「で、でも……」


 私は真剣に彼女の瞳を見る。ナタリーの鳶色の瞳に私の顔が映る。


「分かりました」

 ナタリーも覚悟を決めた顔して、「いきますよ」と手を高く上げた。


 あっという間だった。パチンッと応接室に大きな音が響く。私も思わぬ痛さに「ぐはっ」と声を上げてしまった。

 ナタリー、そんな華奢な体なのに力は凄いんだ。

 思わず感心してしまう。そして、今起こっていることが現実だということを再確認することが出来た。

 左頬がジンジンと痛むし、きっと手形が残っていそうだけど、それと代償に夢を見ていないということを認識できたから良しとしよう。

 私はふと机に目を落とす。

 レイのアップルティーが少しも減っていないことに気付く。セオドアのティーカップを見ると、飲んだ後が見られるのに、レイは口すらつけていない。

 火傷、そんなに酷いのかな?

 まぁ、私も前世で死ぬ前に見た自分の肌なんて決して誰にも見せたくない。


「お嬢様、これって」


 私がレイの火傷について考えていると、ナタリーがレイのティーカップの隣にあった鍵を手にする。ナタリーからその鍵を渡され、受け取る。

 手のひらサイズのアンティークなお洒落な鍵。忘れ物じゃないだろうし……。


「もしかして、家の鍵?」


 そう呟くと、ナタリーがコクッと深く頷いた。

 ついに街の家を手に入れたのだ。私はそっと鍵を撫でた。

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