34.突然のお客
ブレナンが屋敷から出たのと同時に、私は小さくため息をつく。
なんで朝っぱらからこんなに体力使っているんだろう。余計寿命が短くなっちゃうじゃない。
「お嬢様は、復讐とか考えないんですね」
私の隣でナタリーがいつものトーンでそう言った。
「まぁ、先が短いしね~」
「シアラお嬢様……」
私の言葉にナタリーはハッとして、少し涙目になる。
私の為に涙を流してくれる人はナタリーだけだよ。ナタリーは何があっても守り切らないとね。第一にナタリー、第二に私!
「まぁ、ブレナンに対してはこれぐらいのお仕置きで終わりってことで! それに、彼らも私と関わらない方が、嫌な思いをしないですむでしょ?」
だって、私はあと二年後に死ぬんだから。
「あ! あと、復讐物語ってなんかドロドロしてて苦手なんだよね~」
その割に、私はこの小説に何故かハマってたわけなんだけど……。なんでだろう。自分が全くできない詩的な表現とかに惹かれたのかな?
「お嬢様って、根っからの明るい人ですね」
「私も自分で根明だと思う!」
「ホワイト家の大公爵様はこんな面白いやつを隠していたのか」
突然私達の会話に誰かが入ってくる。男性の透き通るような声。
ブレナンが出て行った後、開けっ放しになっている扉から二人の男性が入ってくる。
……なんでこの二人がうちの家に来てるの。幻覚かな? ……幻覚だと信じたい。
目立つ赤髪の美形王子といつも彼の側にいる全身を隠している美形従者。
ナタリーは状況をのみ込めず、言葉を失っている。
「殿下……。どうしてこちらに?」
私はようやく声を出す。
こういう時こそ、慌てたりしたらダメだ。落ち着いて行動しないといけない。
避難訓練と同様。騒いだりしたら余計に混乱する。
まぁ、セオドアとレイが来るのを避難訓練と一緒にするのはどうかと自分でも思うけど。
「レイが来いっていうから来てみたんだ。まぁ、思いのほか随分楽しめたけど」
緑色の瞳を私に向けて、ニヤニヤと笑う。
なんだか、セオドアが私の中でのキャラと少し違う気がする。もっと『キラキラ王子様!』って印象が強かった。
私の目に映る王子は好青年って言うよりかは、いたずら小僧って感じだ。……少し盛ったかもしれない。
「楽しんでもらえてなによりです?」
何を楽しんでもらえたのか分からないが、私は少し首を傾げながら答える。
「俺はただ婚約者の家に来ただけだったのに、まさかリリー夫人があんな人だったとはな~」
……もしかしたら、私はとてもまずいことをしたのかもしれない!
リリー夫人とは義母のことだ。リリー・ホワイト。それが義母の名前。
義母はセオドアの前では大人しく上品で素敵なエミリーの母親だったのに……。「囚われの花」のシナリオをぶっ壊してしまったかも。




