33.
「けど、あいつに罪はないだろ」
ブレナンは沈黙を破るように低い声でそう言った。
少しは大人になったんだね。けど、気付くの遅いよ。もっと幼いころからシアラに優しくしてあげて欲しかったな!
「ブレナン? 貴方、本当にどうしちゃったの?」
義母が驚いた表情でブレナンの方を見つめる。自分の息子が私を庇っているなんて信じられないのだろう。
まぁ、分からなくもない。ずっとブレナンは義母の味方だったのだから。
私もびっくりだよ。ブレナンの口からそんな言葉が出るとは思ってなかったんだから。
「ねぇ、エミリーはどう思うの?」
助けを求めるように義母はエミリーの方へと視線を移す。エミリーは困った表情を浮かべながら、口ごもる。
「わ、私は……」
「エミリー? 貴女まであの女の味方をするの?」
なんだか、義母がメンヘラ女に見えてきた。
かなり侮辱されたのに、私は声を荒げるようなことはしない。ただ、彼女が一人でパニックになっているだけだ。
目の下に赤いアイシャドウ入れて地雷メイクしてあげようか?
私、メイク得意だから任せて。って言いたいところだけど、火に油を注ぐことになりそう。
それに、この世界だと地雷メイクなんて言葉はないだろうし。
早く出かけてくれないかなぁ……。
「あの女は家族なんかじゃないわ! それなのに、皆、彼女を庇うの?」
「……可哀想だろう」
母の感情を抑えるように、父がボソッとそう言った。
今更? 実の父親に哀れまれるなんて……。
彼らはシアラにプライドがないって思っているの? 私相手だと何を言っても許されると思っているの?
本当にシアラは大変ね。実の父には娘じゃないって言われるし、義母には罵倒されるし、最終的には哀れに思われるし……。
まぁ、最初からシアラ・ホワイトの人生はろくなものじゃないって知っていたけどね。
だからと言って、私は、尊厳をズタズタに踏みにじられても笑っているような人間じゃない。
「誰が私に同情しろなんて言いました?」
私はかつてない冷たい視線を彼らに向ける。別に私は、誰も恨んでいるわけじゃない。
ただ、私ぐらいはシアラを守ってあげないといけない。全ての人から嫌われても、私は私の味方であり続ける。
私の言葉にその場の空気が凍り付く。
「貴方達と出かけたいなんて一言も言ってないわ。どれだけ罵詈雑言を吐かれたとしても、私は自分を尊重する心だけは忘れない」
私は彼らを見据えてそう言いきった。
この迫力のある赤い目を最大限に活かしたんだから、相当効果はあったはず。これでもう彼らは私に干渉してこないよね。
「さっさとお出かけを楽しんできてください」
私は満面の笑みで最後にそう言った。
義母は馬鹿にするなと言わんばかりの表情を浮かべながら早足で外へと出て言った。それにエミリーと父が続く。
ブレナンはどこか行きづらそうな様子で私の方を見る。「ブレナン!」と扉の外から義母の怒りのこもった声が聞こえてくる。
その声に反応して、ブレナンは外へ出ようとしたのと同時に私は口を開いた。
「ねぇ、ブレナン。貴方が嘘をついて私を泥棒にした時のこと覚えてる?」
ブレナンはその場に立ち止まり、何も言わない。彼の背中に話しかける。
「あの時、ネックレスを盗ったのってブレナンでしょ? ……私は一か月間、硬くて冷たい床で寝て、空腹に耐えて、たった一人で地下牢で過ごしたの。経験したことないでしょ? 地獄のような救いのない長い日々を。……あの時、私はたったの六歳だったのよ。母を亡くして、この家に送られてきたのに、何のマナーも誰も教えてくれなかった小さな子供だったのよ」
ブレナンに過去の罪を償わせる為に、シアラの子供時代の気持ちを伝える。
なかったことになんてさせない。……まぁ、少しでも自分がしたことを思い出してくれたらそれでいい。
私もずっと過去のことを掘り返して、ネチネチ責め続けるようなことはしたくない。
ちょっとは反省してよね! という精神で彼に言い放った。
私の言葉に衝撃を受けたのか、どう思ったのか分からない。後ろからだと彼の表情は見えなかった。
もう一度「ブレナン!」という声が外から聞こえてくる。
彼はそっと私の前から立ち去った。




