32.義母
階段を降りると、玄関先に私以外の家族が視界に入った。
……いつも通りの光景。慣れたというよりもこれが当たり前。
大きな扉の前に着飾った四人の姿。さっきまで明るかった表情が私を見て暗くなるのだろう……って思っていたのだけど、皆目を見開いて固まったまま私を見つめている。
私の美しさに感動しているとか? ……調子に乗るのはやめておこう。
ああもう! あとちょっとタイミングが遅かったら!
今すぐこの床を壊して、この場から消え去りたい。
誰かと鉢合わせするのってこんなに気まずいものだっただろうか。前世で父と母が道端で喧嘩し始めた時よりも気まずい。
……彼らは私が何か喋らないと動けない呪いにかかっているみたい。
私は小さくため息をついて、口角を上げる。
「いってらっしゃい」
その言葉に母とエミリー以外は余計罰悪そうな顔をする。母とエミリーは嫌味一つ言わない私に驚いているようだけど。
もう! 折角私が邪魔しないで、送り出そうとしているんだから、素直に出かけて来ればいいのに!
これを機に透明マントとか開発すべき?
私はナタリーの方を静かに振り向く。
「どうして無反応なの? もしかして、私無視されてる?」
「いえ、そういうわけじゃないと思いますが……」
ナタリーは少し答えにくそうに口を開く。
「……一緒に来るか?」
ブレナンの声が耳に響いた。驚きのあまり、私は勢いよく彼の方を見る。
朝食に毒でも盛られて脳がおかしくなったのかな?
あのブレナンが私を誘うなんて、今から超巨大な嵐が来るのかもしれない。私の部屋はぼろいから、急いで部屋の補強をしなければならない。
「ブレナン!? 一体何を言い出すの!」
義母が顔を真っ赤にして声を上げる。彼女の甲高い声に思わず耳を塞ぎたくなる。
「そうよ、ブレナン。いきなりどうしたの?」
エミリーが柔らかな声でブレナンを心配そうに見る。父は何も言わない。
「あいつも心を入れ替えたみたいだしさ」
ブレナンは女二人に責められながらも、私の方を見ながらそう言った。
「ブレナン、貴方、あの女に何かされたの? 一体何を言われたの?」
義母が慌てたようにブレナンの方を掴む。洗脳された息子を正気に戻そうとしているみたいだ。
ほら、結局私が悪者になるんだから、要らないこと言わない方がいいよ、ブレナン。
「あの女は女狐なのよ。母親もそうだったんだもの。彼女の言うことなんて聞いちゃだめよ。しっかりして、私の可愛いブレナン」
誰かゲロ袋一枚用意して~!
あ、令嬢がゲロ袋なんて言っちゃだめか。エチケット袋だっけ?
……それにしても、よくあんな悪口を本人の前で言えるわね。母親の事は全然知らないけど、それでもムカつく。
「おい、本人の前だ、やめろ」
ついに父が口を挟んだ。エミリーは戸惑った様子で黙っている。
「どうして? どうしてやめないといけないの? 元はと言えば全部貴方のせいでしょ? 貴方があの女となんか浮気しなければこんなことにならなかったのよ! ……いいえ、違うわ。悪いのは全部あいつの母親よ! 私の夫を騙したのよ!」
義母はどんどんヒステリックになる。彼女の叫び声が屋敷中に広がる。誰も何も言わない。
改めて、自分の存在は幸せなこの家庭を潰す爆弾なのだと実感する。
あ~もう! ママ~! 天国から戻ってきて~! 一緒に田舎で二人で暮らそうよ~!




