3.
医者に「ファデス」だと診断されて、公言されたらどうしよう……。
感染病じゃないけど、絶対に家から出してもらえない気がする。いや、きっと部屋からも出してもらえない。
ここは原作通り絶対に黙らせておこう。
というか、治療されても治らないし、医者に診てもらう必要もないかもしれない。
コンコンッとの扉をノックする音が部屋に響く。
「お嬢様、ナタリーです。入りますね」
私がまだ寝ていると思っているのか、侍女のナタリーはゆっくりと扉を開ける。それと同時に私は目を開ける。
「おはよう、ナタリー」
私が起きていることに驚いたのか、それとも私が挨拶をしたことに驚いたのか分からない。
ナタリーは目を丸くしたまましばらく固まった。
「ナタリー?」と少し首を傾げて彼女の方を見ると、ハッと我に返ったのか彼女は少し高い声を出した。
「あ、えっと! すぐに医者を呼んでまいります!」
彼女はそのまま勢いよく部屋を飛び出して行った。
元気そうで何より。
今の私は走る気力なんてない。無気力感に包まれている。いかにも病み上がりという状態である。
死ぬまでの間、どう自分の人生を充実させるかを必死に考える。
とりあえず、このファンタジックな世界に浸らないとね!
ヒロインと結ばれる運命のこの国の第一王子セオドア・ルイス。
王家ルイス家に最も信頼されているのがホワイト家。だから、必然的に彼の婚約者はこの家の誰かになる。……純血の子が選ばれる。
セオドアは最初は乗り気じゃなかったけど、エミリーと過ごすうちに彼女に惹かれていく。
彼女はまさに世の中が求めるヒロインの象徴。守ってあげたくなるような小動物系女の子。ふわふわとした柔らかい父親譲りの金髪に母親譲りの澄んだブルーの瞳。
小説の中では彼女のことを「天使」って表現していた。その通りだと思う。
それに比べて私は全く正反対。私の方が年下なのに、大人っぽいし……。
金髪は父親譲りだけど、ふわふわじゃない。光沢のあるストレート。瞳は私も母親譲り。真っ赤なルビーのような瞳。
さらに、この世界には魔女が存在する。魔女は絶滅危惧種。
私の母はそんな貴重な存在の魔女である。だから、私は小説の中でヒロインに最上級の嫌がらせを出来たし、それを上手く隠蔽することが出来た。
読者からすると超鬱陶しい邪魔者。
私の行動で不快にさせてごめんね。もう、あんなことはしないから。魔法はもっと別のことに使おう。
嬉しいことにこの国で魔女はとても重宝される。魔女っていうと、結構嫌われたりする役が多いはずなのに、ここでは丁重に扱われる。
なんたって絶滅危惧種だからね。脅威的存在になり得る。大切にしないと!
コンコンッとまた誰かが扉を叩く音が聞こえる。
「医者を連れて参りました」
「どうぞ」
メアリーの言葉に私は優しい声で答えた。