27.
「……私にそれを言ってどうするんですか?」
今更父が私に弁解することなんてないはずだ。母はもうこの世にいないんだし……。
恋なんて理性でどうにかなるものじゃないものね。でも、既婚者ならそこは感情を押し殺さないといけない。
人間は色々と不便だ。これが犬や猫なら何も言われなかったのにね。
「いや、ただ少しお前を理解したいと思ったのだ」
「理解されなくても大丈夫ですよ」
私は朗らかに笑みを浮かべる。今までのシアラだったらこんな対応はとれなかったと思う。
だって、彼女ヒステリック気質だし……。「もうそんなこと言われても遅いわよ!」って発狂していたんだろうな。
ちゃぶ台返しは出来ないから、近くにあるティーポットが犠牲になっていたに違いない。シアラはよく壁に物を投げつけて壊していたし……。
そんなことを想像しながら父の顔を見る。驚きと少しの寂しさが混ざったような表情。
……なんでそんな表情しているのよ。貴方は私とは関わりたくないはずでしょ。
「そろそろ部屋に戻っていいでしょうか?」
「待て。まだお前から聞いていない」
厳しい表情で父は私を引き留める。
そんなに病気のことが気になるの? ……あ、大事なエミリーやブレナンに病気をうつされたら大変だよね。
「伝染病じゃないので」
「……医者の診断は?」
「黙秘させて下さい。もし、私が気持ち悪いというなら、どこかへ隔離してくださって大丈夫ですよ」
父の前では強気の態度を見せる。そうでもしないと、彼の圧力に飲み込まれてしまう。
「生意気な。馬鹿にしているのか?」
「いえ。ただ、貴方にとって私はホワイト家の者じゃないんでしょ? それなら、もう関わってこないでください」
言ってからすぐに後悔した。
今ここでこの家から放り出されたら、私は住む家がない。ここでの生活はとてもいい暮らしとは言えないけど、物乞いになるよりましだ。
「誰が相手でも怯まない度胸とその美貌は母親譲りだな」
父はそっと席を立ち、そのまま扉の向こうを眺める。もう日は暮れていて、外は薄暗い。三日月が深い鼠色の空の中で輝いている。
彼は私の方を向かず、話を続けた。
「お前を可哀想だとは少しも思ったことはなかった。母が死に、家族と言える存在が誰一人いないこの環境で生きていく心境など私には想像できなかった。シアラ・ホワイトは生まれた時から今まで忌み嫌われる存在であったのだ」
実の父親、私の前でなんてこと言うんだ。
「……だが、悪いのは全て私だ。それを認めたくなかった。そのしわ寄せがお前を苦しめているとは知らなかった」
自己中心的な父親のせいでシアラはずっと生き辛く窮屈な生活を送る羽目になっていたってことよね。
彼に掛ける言葉が見つからない。
「…………もう部屋に戻ってもいいでしょうか?」
「ああ」
私はそっとその場を離れた。
あの気まずい雰囲気から解放されたかった。
私は、血のつながった父に愛されなかった。ただそれだけのことだ。シアラ・ホワイトという存在は、ただの物語の悪役に過ぎない。
そう割り切っているのに、シアラの心は張り裂けそうだ。痛くて、哀しい。




