26.父との会話
父の部屋の前に立って、私は扉にノックをする。
本来なら緊張するはずなんだろうけど、レイに会った方がよっぽど心臓に悪かった。爆弾を投げられる前に、自ら地雷を踏んでしまったって感じ。
だからか、リラックスして、父と会うことが出来る。
「入れ」
名乗ってもないのに、私が来たことが分かったのか部屋の中から声が聞こえた。
私は重く緊張感の漂う部屋の中に足を踏み入れる。
もしかして、勘当されてしまうのかな……。
大きな部屋の窓際に椅子に座らず父が立っている。夕日でも眺めてたそがれているようだ。
「何か御用ですか?」
ここに呼びだされた理由はお金を取ったことがバレたと思っていた。それより病気のことを知られることの方が厄介だ。
「お前は、私のことを少しでも父親だと思ったことがあるか?」
父は私の目をじっと見つめる。青い彼の瞳に私が映っている。
いきなりどうしちゃったの!? 今まで私の存在なんて無視してきたくせに!
突然の父の質問に私は困惑する。
こういう時こそ冷静に対応しなければ。
「……あると思いますか?」
私は父を睨むようにして答える。
彼を怒らせると良いことなんて一つもないことはよく理解している。けど、反抗せずにはいられなかった。
もし、ここで家を追い出されても、始末されたとしても、本望よ。
エミリーとセオドアのラブストーリーを見られなくなっちゃうのは残念だけど!
彼らを鑑賞できなくなっても、他に楽しみを見つけるし、大丈夫。スマートフォンなんてないけど、大好きな小説の中を満喫する方法なんていくらでもある。
私は気を引き締めて、父親を見つめる。彼は私の回答に気分を害したのか顔をしかめる。
俺だってお前を娘なんて思ったことなんてない、って言い返したいのかしら。
「それを聞く為に私を呼んだのですか?」
「……違う。ここに呼んだのはお前の病気について聞くためだ」
やっぱりそれが本題だよね。けど、そう簡単に私から話を聞けるなんて思わないでよね。
「そんなことより、私、この家からお金を持ちだしました」
私が満面の笑みでそう言うと、父は眉間に皺を寄せる。
「結構な大金ですよ。今まで贅沢なんてろくにさせてもらえなかったから沢山贅沢しようと思ったんです」
「いくら使ったんだ?」
……一銭も使ってない。どうせなら、部屋に蓄えておくようのお菓子でも大量に買えば良かった。
「とりあえず、返しておきますね」
私は父の質問を無視して、大金が入った袋を彼の机の上に置く。ドシッと大量のお金が入っていることが分かる音が鳴る。
「……私はお前を理解出来ない。どう接してやれば良かったのだ?」
「私に聞かれても……」
「お前の母の存在は私にとっては汚点でしかない。……だが、もう一度あの日に戻っても、同じ過ちを繰り返してしまうだろう。それぐらいお前の母は誰よりも魅力的だった」
もし、父がホワイト家の当主ではなかったら、もっと楽に暮らせていたのかもしれない。 立場が上になればなるほど、世界は窮屈だ。
父の味方なんてするつもりは全くないが、そんな風に考えてしまう。母の話をした彼の表情がとても切なく、優しく見えたから……。
きっと、父はちゃんと母を愛していたのだろう。




