15.
「何があったと俺は聞いているのだ」
私の声に気分を害したのか、ブレナンは私を睨みつける。
どうして私が怒られるのよ! ……あ、私が嫌われているからか。
「何があったって言われても、ルイス家に乗り込んだだけよ」
「乗り込んだのか!?」
私の言葉に驚いて、ブレナンは大きな声を上げる。彼の声量に思わず耳を塞ぎたくなった。
「そうよ。それで、木に登って二人が婚約する瞬間を見てたってだけ。それがたまたま見つかっちゃったのよね~」
「話についていけねえ。……だから、婚約したって言うのにあんなに暗かったのか」
エミリーが暗くなったのは父親の発言のせいだけどね。
ボソッと呟いたブレナンの言葉に心の中で突っ込む。
「私は令嬢じゃないみたいだし、いいんじゃない?」
「……どういうことだ?」
「お父様が私に言ったのよ。娘はエミリー一人だって。私は彼の子どもじゃないってさ」
私の言葉にブレナンは黙り込む。
昨日までアンチシアラだったのに……。そこはもっと喜ぶところでしょ?
あ! もしかして、昨日私がもうエミリーを虐めない宣言したから、少し心境が変わったのかな?
あれって、そんなに効果あったんだ。
「悲しかったか? 父上にそう言われて、傷ついたのか?」
「何言ってるの?」
なんて馬鹿な質問してくるのかしら。傷つくに決まっているじゃ……、ああ、そうよね。
今まで嫌な態度で彼らをいじめてきたんだもの。私が父を愛していないって考えるのが普通よね。
「お前も俺達のこと嫌いだろ?」
「……ええ。そうね。けど、今はなんとも思ってないわよ。子どもは親を選べないのだから、ここで生きていくしかない。貴族としての扱いどころか人間として扱われなくても、父親に愛されないどころか自分の存在を消されても、しょうがないじゃない。私だってドレスやアクセサリーで着飾りたかった。私は最初からこの家族が嫌いだったわけじゃない。貴方達が先に私を嫌ったのよ。そりゃ、そうよね、私は要らない子だもんね。でも、最近卑屈になっても意味ないなって気付いたの。人生短いんだし、楽しんだ方がいいでしょ?」
沢山言い終えた後に、私は咳き込む。なんだか胸のあたりが気持ち悪い。
……手がぬるぬるする。
私は視線を自分の手に向ける。
「わお」と思わず呟いてしまう。自分の手が真っ赤に染まっていた。
これがあのファデスの病気の症状なのね。吐血なんて生まれて初めてした。なんだか不思議な感覚。
ブレナンとナタリーが目を大きく見開いてじっと私を見つめている。
まずい! 病気のことを隠し通すって決めたのに!
「あ、朝ご飯に食べたトマトかなぁ」
私はそう言ってへへっと笑うが、彼らの表情は変わらない。
「じゃ、じゃあね!」
最終手段の自分の部屋に逃げるしかない。さっきの言い訳が通じるわけないだろうけど、それでもこれ以上何か追及されるよりはましだ。
ちゃんとブレナンに説明したし、もう部屋にやって来ることはないだろう。
私は自分の姿を鏡越しに見る。胸元が血で汚れていた。
あ~あ、このドレスはもう着れないな。ドレスって高いし……。
プチプラドレスブランドとかこの世にないだろうし…………、作るか。
そうよ! 貴族じゃなくても最高に可愛いドレスを着ることが出来ちゃうようなファッションブランドを作っちゃえばいいじゃん!




