13.
え、父親って大公だったっけ? 普通の公爵だと勝手に思っていた。結構偉いさんじゃない。
…………それは隠し子なんてマズいわよね。
その上、今の私のこの格好で「この子は娘です」とは言い辛いわよね。
でも、ドレスがボロボロなのは、新しいドレスを買ってもらえないせいっていうのもある。
小枝が刺さってぼさぼさになっていた髪を手でとき、身なりを整える。髪の毛が超サラサラストレートで良かったわ。一瞬で、元の髪に戻る。
私はじっと父を見つめる。彼から出てくる言葉を待つ。
「こんな娘、誰だか知らん。レイ様も知っての通り、私の娘はエミリー一人だけです」
父のその言葉に私は固まる。まさかそんな風に言われるとは想像していなかった。
思考が一度停止するとはこういうことを言うのだろう。
家族に愛されていないことなんてずっと前から知っていた。けど、それと私の存在を否定されるのとはわけが違う。
シアラ・ホワイトはこの世に必要なかったってこと?
これじゃあ、あまりにシアラが不憫だわ。
心の底から彼女を可哀想だと思った。無意識に涙が流れ落ちる。
これは私の涙じゃない。シアラの涙だ。彼女は今の言葉に深く傷ついた。
きっと彼女は誰かに愛されたかったのだ。どんなに卑屈になっても、父親に自分を見て欲しかったのだ。
こんな奴らのこと復讐しても良いんだよ、と思わずそう言いたくなった。
貴族としての扱いを受けられなかったことも、家で常に除け者にされていても、我慢してきた。けれど、これだけは許せない。
全てばらしてやる。もう私に守るものなんてないのだから。
「浮気して子供を作ったのはあんたなのに、私はゴミ扱い? ふざけんなよ。……貴方が私を恥じるんじゃなくて、私が貴方と血を繋がっていることを恥じるわ」
最後は凛と彼を見つめて、決して弱さなんて見せずに背筋を伸ばした。
失うものは何もない。誇りも地位も名誉も私には最初から何一つなかった。
父は私が言い返してくるとは思っていなかったのだろう。目を見開いたまま固まっている。
『ありがとう』
どこからかシアラの声が聞こえた気がした。
父は焦りと戸惑いの表情を浮かべながら口を開く。
「な、な、何を嘘言っているんだ! 俺がそんなことするわけ」
「したから私がここにいるのよ。記憶力が衰弱したの? 見苦しいわね」
私は父の言葉に被せるようにそう言い切った。冷たく、冷静に。
その場にいる全員が父親ではなく、私を見つめている。国王、セオドア、エミリー、そしてレイも。
……これからどうしたらいいのかしら。
今、ここで父が「本当にこいつは娘なんかじゃない!」って断言したら、私は完全に不審者扱いよね?
もしかして、牢獄行き? ……そんなの絶対にダメ!
「では、失礼します」
私はそう言って、木の枝から手を離す。見事に受け身をとって、無事に地面に着地出来た。
シアラの身体能力が最高級もので本当に良かった。
私は安堵の息を吐いて、ウマの元へと駆け寄る。ウマは私の姿を見るなり「ヒヒ―ン」と嬉しそうに鳴く。
ウマの上に乗り、私はしっかりと手綱を握り振り返ることなんて決してしないで走り始めた。
レイ・アシュビーは黒い大きな馬に乗った少女の背中を見つめた。
日光に良く照らされた透明感のある艶やかな金髪は目を奪うものだった。
枝についた小さなリボンをそっと取る。それはシアラが木を登った時にひっかけたドレスのリボンだった。




