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死ぬ前に君の笑顔が見たい  作者: 大木戸いずみ
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1. 前世の記憶

 私の寿命は、あと二年。


 短い? かわいそう? 

 私はそんなことまっっったく思わない。むしろ今の状況に心が躍っている。

 

 なんたって、ここは私の大好きな小説「囚われの花」の世界!


 前世で何度も何度も読み返したハチャメチャな恋愛小説だ。

 残念ながら私は放火されて死んでしまった。本もきれいさっぱり塵になって消えた。私が頑張って働いた給料で買った愛しの本達が一瞬で……。

 火と紙の相性は最高だから、仕方がない。

 それにしても、酷な結末だった。火は痛い。とても痛い。煙で呼吸困難になるし、皮膚はただれるし……。おっと、グロい表現になっちゃうからここまでにしておこう。


 そんな私を哀れに思ったのか神様が私をこの世界に連れて来てくれた。

 神様も意地悪だ。今になって前世の記憶を思い出させるのだから。それとも、前世で私が悪いことをした罪のせいかな。

 これぐらいの時期になってから、改心させるように前世の記憶を思い出させてやろうぜ、って?

 …………そう、私はこの小説の超がつくほどの悪役なのである。


 前世で悪いことをしたって言っても、弟のゲーム機に珈琲こぼしてしまったとか、父親のカツラを間違えて洗濯機にかけてボロボロにしてしまったとか、それぐらい……。

 結構重い罪か……。けど、もう前世の罪なんて反省しなくてもいいよね。


 まぁ、超悪役だからって全く悲しいって感情は一ミリどころか一ミクロンもない!

 この世界に浸れるだけで幸せだ。薔薇の花束を持って神様にお礼を言いに行きたい。

 それに、この世界で一番の美少女は私。「囚われの花」悪女のシアラ・ホワイト。

 小説の中ではヒロインよりも美しいと書かれていた。それなのに、幸せになれないんだよね、可哀想に。


 家は公爵家だから随分と裕福な暮らしをしている、訳ではない。私は父とその妾に生まれた子だから、とんでもなくこの家の人達に嫌われている。

 この「囚われの花」の物語は結構残酷だ。特にシアラのやることが残虐過ぎる。

 

 ホワイト家当主のちょっとした過ちが、後に多くの人を不幸にする。これはハッピーラッキー小説なんかじゃない。一応ハッピーエンドだけど、明るくてキュンキュンする小説ではない。

 ただ、非現実的なハプニングが多すぎて、楽しみながら読めた。


 ジェイコブ・ホワイトが夜の街で人気ナンバーワンの踊り子に目を奪われて一夜過ごしてしまう。そして、私が生まれたってわけ。

 母親は私を産んですぐに息を引き取ったから、私は仕方なくホワイト家の人間として生きていくことになった。

 もちろん、誰も私を歓迎しない。義理の母なんて私のことをゴミ扱いだし、義理の姉も弟も皆私が大嫌い。そして、父親が最も私を嫌っている。

 家出しなよ、シアラ! って思いながらこの本を読んでいた。


 こんな酷い扱いを受けている私がヒロインなんじゃ? って思うけど、全然そうじゃない。 

 シアラはこんな環境のせいで性格が歪みに歪んで誰の手にも負えない女になった。息の詰まる世界から脱する為に自分の思い通りになる世界を作ろうとした。

 悪女になったのはシアラだけのせいじゃない。彼女が置かれた環境のせいでもあるのだ。

 それにこの流れだと私は死刑になると思うのかもしれないが、全然そうじゃない。私は病気で死ぬのだ。

 なんて無様な死に様。シアラは自分が弱いと認めるのが嫌で決して病気だと認めなかったが、私は認めよう。

 この華奢な体は大病を患っている。

 それが原因で今回前世の記憶を思い出したのだから。

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